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2002年07月24日(水) |
『海の上のピアニスト』に涙。 |
主人公は、船の中で生まれ、捨てられ、拾われ、 そのまま一生を船の中で終えたピアニスト。 生まれたのが1900年だから、名前はノヴェチェント。 (イタリア語で「900」の意味らしい。) 舞台下手に置かれたピアノを稲本響さんが弾き、 市村さんが、語りのような立場を演じる。その語り手は、 後半では主に、ノヴェチェントの友人のトランペッター。
最初は、眠かった。 正直、少し寝てしまったところもあると思います。 でも途中でピアニストが成長して、彼の形容が増え、 ピアノを弾く稲本響さんの姿にノヴェチェントを重ねて 想像できるようになってきてからは、すごく良かった。 大泣きしてしまったところも、いくつかあったし。 9月までツアーらしいので、以下のネタバレは こすりに。
とにかく一番、涙が出てきてしまったのは、 ノヴェチェントとトランペッターが出会う嵐のシーン。 抑えた照明の中で輝くピアノが、あまりに美しくて泣けた。 途中で市村さんが「踊っているようだった」と言い、 実際にダンスを踊り始めるのですが、要らないくらい。 ナレーションで言われなくても、広いボールルームを なめらかに優雅に踊るピアノの姿が見えていました。 多分もう私は、映像でこのシーンは見られません。 背景の嵐の照明と、音楽だけで想像できてしまったから。 音楽の記憶もなくて「静かだった」って記憶なのは、 ちょっと まずいかなぁという気もするのですが。
ノヴェチェントの生き方は、分からないけれど。 分からないけれど、分かるような気もするような。 何年も壁にかかっていた絵が、何もなくても落ちるように、 自然に、必然に、船を降りる決意をしたノヴェチェント。 彼は、タラップを降りる3段目で戻ってきてしまった。 理由は、「地面に境界が見えなかったから。」
舳先と艫の間だけという、自分に与えられた境界。 88鍵だけで表現するという、ピアノに存在する境界。 彼にとって大地は、そういった境界のない世界に見え、 そして彼は、境界のある世界で生きたいと望んだ。 でも、自在に鍵盤を叩き音楽を生み出すノヴェチェントは、 その中で十二分に自由に無限に生きられていたと感じて。
自分の世界から出ずに、爆破される船と命を共にした彼は、 純粋なのか、子供っぽいと呼ぶべきなのか分かりません。 でもこの作品は、確かに1人の生き方を描き出していたし、 私は、境界の中での自分にとっての無限を選んだ ノヴェチェントの生き方に、明らかに心動かされました。 「きれいだ」と感じたということは、やはり、純粋だと 思っていたということなのかな?分かりませんが。 演技も曲も照明も、全部、良かったんだと思います。 でも何より この話が、私は好きでした。 こんなふうに生きられはしないけれど、だからこそ余計に。
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