謝恩会での忘れられない光景 - 2004年03月04日(木) 謝恩会といえば、ひとつの忘れられない光景がある。 あまり目立たたずに学生生活を送り、クラスで「そういえばいたなあ」と思われる程度の存在だった僕は、当然のように部活の顧問とチューターの先生くらいしか挨拶するべき先生もおらず、華やかに女の子たちが談笑している会場の片隅で、数少ない友人・知人たちと談笑していた。 僕にとっては、同級生たちとの謝恩会よりも部活の追いコンのほうが、重大な行事だという認識もあり、まあ、これも仕事のうち、みたいな感じ。 もうそろそろ謝恩会も終わる、という時間になって、ずっと部活で一緒の、僕の数少ない女友達だった女の子が、僕たちのテーブルにやってきて、しばらく立ち話をしていた。まあ、他愛のない思い出話だ。 そんなふうに笑いながら話している途中のことだ。 突然、彼女の瞳から涙が落ちた。 まるで、天気雨のように。 そして、その雨はなかなか止まらず、土砂降りになった。 「みんな、今までありがとう。今日はこれからすぐ電車に乗らないといけないから。私はこれで帰らなくっちゃ」 彼女は、涙声で僕たちにそう言った。 彼女は、遠くに住む恋人を追いかけて、自分の実家とも出身大学とも離れた場所で研修し、生活することを選んだのだ。 そこは、彼女にとっては、恋人がいることを除けば、全くの未知の場所。 「宴もたけなわではありますが…」という司会者の声に押されて、僕たちは会場を後にした。 彼女はひとりで、タクシー乗り場に向かっていった。 「その格好で行くの?」 「うん、夜行の電車の時間に間に合わないから。途中で着替えるよ」 田舎の医学部の卒業生は、卒業後、出身大学に残る者もいれば、実家のある土地に戻る者もいるし、都会で腕試しをする者もいて、みんな散り散りになっていく 僕はその夜、みんなと朝まで呑み、カラオケボックスで歌いまくった。 ただ、この夜が明けてほしくないな、なんて思いながら。 あのとき一緒に朝を迎えた同級生のうち、半分以上の面子とは、それ以来会っていない。 あのとき泣いていた彼女は、恋人を追いかけていったはずの新しい土地で、結局新しい恋をして他の男と結婚し、今でも毎年、夫と2人の子供と一緒の写真入りの年賀状を欠かさずに送ってきてくれる。 「わざわざ恋人を追いかけていったのにねえ…」なんて、思う人もいるだろう。 僕も以前は、そんなふうに感じたものだった。 でも、今はなんとなく、それもまた人生なのだな、という気がするのだ。 ...
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