「本、好きでしょ?」 と、その人はいきなりそう言った。 「え、は、はい」 私は思わずそう答えていた。 …と、そこがひとつの「元凶」だったような気がしている。 本当は本なんて五年くらいまともに読んだことがなかった。 作家の名前なんて急に聞かれても、 ナツメソウセキぐらいしか浮かばない。 なのにとっさに「本が好き」と肯定してしまった。 「本が好き」……な、人か?私は? 世の中で言うところの「本が好き」な人とは程遠い読書量。 体調を崩したこととも大いに関係のある「活字恐怖症問題」だけに、 とっさに嘘をついてしまったのではないか… そこからずっと、そんな罪悪感に取り付かれてきた。 だが最近、それらから“開き直る”ことで解放されつつある。 冒頭の人物がそもそもなぜ唐突に「本、好きでしょ」と 聞いてきたのかについて、あらためて考える。 そういえばその人は、直前に私の書いた文章を一読していた。 ということは、少なくともその人はそのとき、 私の描いた文章に「本が好きな人が書きそうな文章」という 印象を得たということだろう。 だったら、これまでのことについては誤魔化しながら これから本を読んでいくしかないんじゃないかと思った。 力がないなら、できるかぎり頑張ればいい。 センスがないなら、磨けばいい。 才能がないなら、違う武器を見つければいい。 空のコップに水をいれるようなシンプルなイメージ。 ああそうとも、何にも入っていないさ。 自分があまりにもすっからかんだということを 身にしみて思い知らされるたび、 こんなふうに開き直ることにしている。 学生時代に身につけた考え方である。 そうでないと、だって、 その場からいなくなるしかやりようがないじゃないか。 体が悲鳴をあげるまでは、いなくなったりしないつもりなので、 今のところは、平和に開き直っていたいと思った。 |