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2003年12月23日(火) 日本の泌尿器科医1869名の 前立腺炎/前立腺痛 に関する見解の論文を読む

International Journal of Urology
(日本泌尿器科学会が出している英語論文誌で、もはや日本語論文誌ははくがなく、廃れてゆくのみで、横着して斜め読みしようと思うおいらみたいな泌尿器科医にとっては、捨てるに捨てきれずいつか読むだろうといった安易な想定で、どんどん山積みされてゆき、いつかまとめて処分される運命にある雑誌の一つではあるのだが)
の2003年12月号に、『慢性前立腺炎/前立腺痛』に関して、日本の泌尿器科医1869名にアンケート調査を取り、その認識とか治療について集計した論文が載っている。
筆頭著者は東京慈恵医大の先生である。

タイトルは
『Questionnaire survey of Japanese urologist concerning the diagnosis and treatment of chronic prostatitis and chronic pelvic pain syndrome』
というものだ。

慢性前立腺炎とは、20-60歳くらいまでの男性の下部尿路とか会陰部の不定愁訴を主とする疾患で、泌尿器科では非常にポピュラーな疾患であるのに、その実体がまだはっきりしていないという、摩訶不思議な疾患で、これがまたその数の多いこと!
科学的な診断ができにくいし、動物モデルでの再現性が乏しいという、この21世紀にそんなのありかよ、の病気なのである。

結果としては、診断手法として、教科書通りの手段を踏んでいる泌尿器科は1.5%で、まあほとんどの泌尿器科医は、症状から診断しているということだろうか。
63.8%の泌尿器科医は非細菌性慢性前立腺炎/前立腺痛を、感染性疾患とは考えておらず、また初期治療として抗菌剤を用いている、という結果だった。

治療効果に関しても、前立腺肥大症とか前立腺癌と比較して、消極的なイメージを抱いているということであった(治療効果がすぱっと出ないということでしょうね)。

これだけを抜粋すると、日本の泌尿器科はおかしいんじゃないの、診断はアバウトだし、細菌性じゃないと思ってるのにどうして抗菌剤使うの、しっかり治療してくださいよ、みたいな印象をいだかれると思うが、

(ここからあとは個人的印象および意見である)

①診断としての初尿・前立腺マッサージ(お尻から指入れて前立腺をマッサージし、圧出液を取るのだけど、これが若年者では非常に痛がられまずできない)・マッサージ後の初尿・・とか調べたり、それらを培養するのは非常に煩雑であるし、それで診断率が上がるのかどうかということが謎である。
②症状が一定しない。ある人は鼠径部が時々引っぱられるような気がするというし、ある人はペニスの真ん中くらいが排尿時にむずむずするというし、ある人は会陰部が攣ったような気がするという、それもいつもではないし我慢できない範囲ではないがなんかおかしい・・という。
③抗菌剤の効果がある程度期待できる。

といった診療に関するあれやこれやがあり、ただそれに関する科学的実証が乏しいため、泌尿器科医たちははっきり言って困惑しているのだと思う。

自分も、前立腺炎と診断しながら、別の疾患が潜んでいるのではないかと、ナーバスになりながら診察している。
診断に際しても、初回は殆どマッサージはしない。
初回のマッサージで痛みを覚え、不快感を覚えると、患者さんのモチベーションが下がってしまうからだ。
同様の理由で、性病患者さんのペニスから綿棒を差し込んで、粘膜を採取し、PCR(核酸同定検査)にまわすということもしていない。
抗菌剤の投与も、前立腺への移行が悪いため1ヶ月間くらい使うと本には書かれている。種類はニューキノロン・ST合剤・テトラサイクリン系が多いようだ。
セカンドチョイスとして、漢方薬や、抗不安薬などが使用されている(これは論文のアンケート結果)。
自分はセカンドチョイスとしてαブロッカーを頻用しているのだが、どうも、今回のアンケートを見ると、そういった使用法をされる先生は少ないようだ。

いずれにせよ、医学が進んでもまだまだ謎は多く、EBMとか言われているけど、人間の身体ってそう簡単にすぱっと割り切れるものではないことは確かだ。
だから、この一対一で向かい合う診療という原始的な形態が残ってゆくのだろう。
でも、科学的実証は絶対必要だ。
直感とかイマジネーションは医療をより高度なものにするが、我々は西洋医学の申し子で、あくまで理論に裏打ちされた言葉で語ることができなくてはならない。

自戒を込めて。


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