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2007年10月10日(水) 「パンズ・ラビリンス」

うん、強烈だったなー。形式的には確かにファンタジー、しかしまるでホラーを観たようなインパクト。ダークで残酷でグロテスクで哀しいのに最初から最後まで目が離せない。すっかり引き込まれた二時間でした。
舞台は1944年、内紛最中のスペイン。内戦で父を亡くした少女オフェリアが、臨月を迎えた母とともに新しい義父ビダル大尉の元にやってくる。しかし冷酷で残忍な義父になじめずに心を痛めていたオフェリアはある日屋敷の奥の迷宮でパン(牧神)に出会い、自分が本当は魔法の国のお姫様であり、三つの試練を乗り越えればそちらの世界に帰れると聞かされる。
映画はこのオフェリアの試練の物語と現実世界が同時進行するんだけど、二つは決して混ざり合わない。パンはわざわざオフェリアに「一人のときに読むように」と注意して本を託すし、オフェリアは常に誰もいない場所で試練に挑み、終盤オフェリアがパンと言い争う場面でも、その場に居合わせたビダル大尉にはパンの姿が見えていない。全てオフェリア自身による空想だったという可能性を否定しないままあの結末に至るところが非常に切なくて、彼女にとっては間違いなくハッピーエンドなんだと思ってみてもやはり胸が痛みます。“オフェリア”という名前が暗示するものを考えてみると余計に。最後に出てきた一輪の花が唯一の救いなのか。

残酷だダークだと言ったけど考えてみると目を背けたくなるシーンは現実の方で起こったことばかりで、義父であるビダル大尉の非道っぷりは幻想世界に出てくる怪物を凌ぎます。ほとんど悪の象徴。しかし妙なところでスタイルにこだわったり父親の時計をひそかに持っていたり、彼もまた自分の信じるロマンとファンタジーの中で生きていたのかもしれません。対ゲリラ戦におけるヒーロー像をひたすらに追い求めるという形で。

オフェリアに課せられた三つの試練、一つ目は恐怖、二つ目は誘惑、最後のはなんだろう、自己犠牲?とでも言えばよいかな? 少女が乗り越えるイニシエーションという視点で宮崎映画(「千と千尋〜」とか)との共通点が指摘されてるみたいですが、オフェリアの場合は誰かを救うためでも自分が成長するためでもないんだよね。助けてほしい、そちらに行きたい―― そのための試練なので、はじめから見ていてどこかもの悲しいというか。とりあえず「頑張れ!」って応援しつつ、でもほんとにこれでいいのか?と不安にもなる。そういう意味で最後までハラハラ感が続きます。

牧神パンを始め幻想世界で出てくるクリーチャーたちは、グロテスクで親しみはわかないんだけどどれもものすごく印象深い。特に二番目の怪物、あれよく考えたなあ(笑)。てのひらに目をはめこんでバァー!って、素晴らしい発想だよ!子供が見たら絶対夢に出てきちゃうと思う。ペイルマンというこの怪物はパンと同じ俳優さんが演じてるそうです。二役。
それと最初のカエルのところではちょっと昔のクローネンバーグを思い出しました(笑)。「裸のランチ」とか「イグジステンズ」みたいな。ああいう気持ち悪いドロドロぐっちゃぐっちゃ感。

オフェリアを演じた彼女はすごく可愛くてこのお話のヒロインにぴったり、監督が一目見て惚れ込んだそうですがなるほどどのシーンも魅力的に撮られてるなあという感じでした。浴室で着てた緑のバスローブ姿とかもう完璧だったね!
あとはオフェリアの味方になるメルセデス、注意深く見てると序盤は無表情で無機質な印象だった彼女が後半は感情を顕わにしたり見た目も髪を下ろしたりしてさりげなく母性を感じられるように撮られてる、そのへんの演出も上手いなと思いました。
こないだのアカデミー賞では撮影賞とか美術賞とか受賞してましたが、映像の美しさもこの映画の魅力。現実世界が灰色で寒々しく徹底的に暗鬱に描かれている一方でオフェリアの世界はキラキラと輝き、その対比が見事でした。特に彼女が最後に辿り着いた世界はどこまでも金色に眩しくて、美しかった。

しかし美しくも哀しいファンタジーでありましたよ…。でもハリポタとどっちが好きか訊かれたら、私は断然こっちを選ぶな(笑)。




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パンズ・ラビリンス
【PAN'S LABYRINTH】

2006年 メキシコ・スペイン / 日本公開 2007年
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:イバナ・バケロ、セルジ・ロペス、
マリベル・ベルドゥ、ダグ・ジョーンズ
(劇場鑑賞)



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