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2004年09月24日(金) 「16歳の合衆国」

これは意外な拾いモノだったなあ。決して万人向けではないです。少々リリカルに過ぎる感じで映画としての完成度も高くはない。でも例えばサリンジャーが好きな人とかは何かしら感ずるところがあると思う。そういう作品でした。いや私が言うんだから間違いないよ(笑)。サリンジャー(厳密に言うと「ライ麦」のホールデン)を意識したことは監督自身もインタビューで明言してたし。

ごく普通の16歳リーランド君がある日唐突にガールフレンドの弟を殺してしまう。殺された少年は知的障害を持っていて、リーランド自身も彼女と一緒によく面倒を見ていたのだった。なぜリーランドは殺人を犯したのか? 
日本においても少年犯罪が多発する近年、この手の事件がおこるとメディアは必ずネット依存だの引きこもりだの育った環境だの家庭問題だのを持ち出して「心の闇」とか何とか謎の言葉を大仰に掲げて犯罪者としての背景を作り上げるじゃないですか。それが無意味だとは言いませんけど、でも、そうやって画一的なものの見方で理由をつけて犯罪者というレッテルを貼るだけでは見えてこない部分も確実にあると思うのね。リーランド少年は独白します。「彼等が求めているのは『理由』だ。僕に謝罪させ、母親や父親の所為だと言わせたいんだ。あるいは映画やテレビの影響だと」 ―― 理由なんて、実は彼自身にもはっきりとは説明できない。彼は普通の少年でした。暴力的でもないしドラッグにおぼれてるわけでもない。彼を殺人に駆り立てたのは哀しみです。この世は哀しみに満ちているというティーンエイジャー特有の切ない悟り、そして絶望。

サブカル用語に「セカイ系」というのがございます。これは端的に言うと、自分自身で感覚できる範囲のみをこの世の全てだと受け止めてしまう世界観のことだそうで、サリンジャーなんかもこの一派と言われておりますが(笑)、要するに多感な年代にありがちな心理状態なわけで、そのへんが、この映画では上手く表現されていた(と思う)。リーランド君は人より鋭い感受性を持て余しています。まるで神経が肌に露出しているかのごとく、感覚が異様に鋭敏になっている。だから少年院の教師の浮気を匂いで敏感に嗅ぎ取ります。その種の不実と犯罪との違いがわからない。NYのカルデロン夫人の哀しみが胸をよぎる。
被害者の少年ライアンは、リーランドの目の前で、木の枝によって塞がれた通学路を一生懸命自転車で乗り越えようとしたのでした。ただまっすぐに進むことしか知らない純粋な魂。ほんの少し横にずれて障害物を回避することすらできない。この卑俗で理不尽な世界では彼は、この先ずっと同情や嘲笑の対象としかなり得ないだろう。そして彼自身もそのことを心得ているだろう。それは16歳のリーランドにとってこの上ない、絶対的絶望的な哀しみだったのです。

「人生は断片の総和よりも大きいのよ」とカルデロン夫人は諭します。合衆国というのは複数の支分国が連合して構成する国家を指しますが、リーランドは鋭すぎる感受性ゆえに受け止めた断片を統合できなかった。それが原題「THE UNITED STATES OF LELAND」なのだと思います。




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16歳の合衆国 【THE UNITED STATES OF LELAND】

2002年 アメリカ / 日本公開 2004年
監督:マシュー・ライアン・ホーグ
出演:ライアン・ゴズリング、ドン・チードル、ジェナ・マローン、
クリス・クライン、ケヴィン・スペイシー、レナ・オリン
(劇場鑑賞)


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