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僕たちの未来■2006年11月16日(木)
僕は生徒に思いを伝えた。
僕は生徒の全てを欲した。
彼女は「ちゃんと考えて答えを出す」と言った。
告白のあとも我々は一度会い、互いに言いたいこともはっきりと言えない雰囲気のまま別れた。
そして、その結果発表のときが来た。
「先生、泣いてるの?」
泣いてなんかいないよ。
僕は、生徒に対する告白の答えを電話で聞いた。
彼女は、「ごめん、けど、先生とは付き合えない」と答えた。
「先生には気持ちをストレートに出してほしいの。だって、先生は私が楽しいときに楽しいと言えて、悲しいときに悲しいと言えるところが好きなんでしょう?」
だから、先生が「好きなこと」をしないのはフェアじゃないわ、と彼女は言った。
それを聞いて、僕の目から熱いものがあふれた。
僕は生徒の前で初めて泣いた。
感情を出せ、吐くように感情をもっと出せ。 僕の意思に反する声が僕の中に聞こえた。 辛いならば辛いことを表現せよ、そうすれば「僕」は楽になれるから。 泣くことは苦痛を乗り越えるための方法なのだ。
僕は生徒に関係する全ての出来事を、カメラに収めるようにありのままに、記憶してきた。 そしてその記憶にまつわる感情をも心に刻んできた。 自分が彼女を受け止められたという証拠を残したんだ。 けれどあの時、僕は記憶することが出来なくなった。 僕は僕の中の魂と呼ぶべきものの存在を感じた。 僕はこれまでどおり彼女のことを心に刻みたかったけれど、僕の「魂」はそれを許さなかった。 魂は僕に苦痛を回避し、前を向くことを強いた。
ああ、記憶が薄れてゆく。 この涙が枯れてしまったあと、いったい僕の心はどうなってしまうのだろう。 彼女の声は聞こえてきても、それがどういう意味なのか頭の中に入ってこなかった。
否定的な感情は涙として体外へと放出される、だから人は生き続けて行くことが出来る。 けれど人が生まれながらに持つこの残酷な機能を僕は恨んだ。
電話を切ったあと、僕は生徒が最近言った言葉を思い出した。 この日記を見せた後、今は当事のような勢いでは書けないなと言った時、生徒は僕にこう返した。
「今の気持ちを書くことがいちばんいいでしょう?」
そうなのだ。 いつまでも過去を振り返ってばかりいるのではない。 僕たちという繋がりは今歴然と存在しているだけでなく、将来にも続かせることが出来る。
もともと僕が生徒にこの「過去」の日記を見せた理由も、「未来」のためであった。 僕はこうやって君を見つめ続けてきた、そして今も、これからもずっと君を見つめ続けていたいという想いを伝えるために。 生徒は僕の告白を受け入れなかったけれど、「先生を失うのは嫌だ」と僕を欲した。
僕は彼女の「何者か」に成り得たのかもしれない。
僕の思考をさえぎるように、生徒からの電話が鳴った。
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