Experiences in UK
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2006年04月10日(月) |
第139週 2006.4.3-10 英国の不動産業界に激震?、サー・ジョン・ソーン・ミュージアム |
(英国の不動産業界に激震?) BBCに“Whistleblower”(内部告発者)という番組があります。英国のメディアがしばしばやる手口ですが、インサイダーに成りすましてある組織や会社などの内部に潜入し、その実態を暴くという趣向のドキュメンタリー番組です。 3月下旬にBBC記者が英国の不動産仲介業者に潜入取材した番組が放映されました。その過激な取材手法に興味があったので、先月、私はたまたまその番組を見ていました(番組ウェブ・サイトはココ。潜入取材を敢行した女性記者がなかなか魅力的)。
番組では、数ヶ月間、英大手不動産仲介業者Foxtonsなどに潜入した様子が、隠しカメラなどを通じて生々しくレポートされていました。そこで判明した事実は、衝撃的なものでした。 売り手や買い手を騙して詐欺的な手法で不動産の価格設定をする手法、手段を問わずに会社の利益をあげるべく社員を叱咤している管理職の姿、契約書におけるサイン偽造の手口、パスポート偽造を依頼し成果に対してキャッシュで報酬を支払う様子などが赤裸々に映し出されていました。ある小さな不動産屋では途中でメディア関係者であることがばれてしまい、記者が叩き出される場面までありました。 隠しカメラの映像に出てくる登場人物のほとんどにはモザイクがかけられることもなくそのままテレビで流れており、日本では考えられないような過激なドキュメンタリー番組でした。取り上げられた不動産屋のイメージ・ダウンは必至でしょう。 番組を放映する前に、BBCは各取材(潜入?)先に対してその旨を通報し、コメントを求めたようですが、すべて真実の姿だからでしょうが、強い抗議の声があったわけではなく言い訳がましいコメントが紹介されていました。BBCも堂々たるものです。
この番組、さすがに反響が大きかったようで、5日付のBBCニュースのウェブ・サイトに“BBC documentary shakes property world”という記事が出ていました。議会においても本件が取り上げられたそうです。 おそらく事前にタレコミ情報があり、入念な事前調査を踏まえたうえでの潜入取材なのでしょうが、当の潜入記者含めて、勇気と根気の必要なドキュメンタリー番組作りです。一視聴者として、もっとも効果的でパワフルな、悪徳業者の告発方法だという事も実感しました。
今回、主として取り上げられていた不動産屋のFoxtonsは、ここ数年の間に派手な広告戦略で急速に頭角を現し始めて大手にのし上がった会社のようです。確かに、ロンドンの街角でガラス張りのお洒落な店舗をかまえた同社オフィスは非常に目立ちます。 業界全体の問題なのか、一部の悪徳業者の問題なのかは定かではありませんが、一般のロンドン市民にとっては驚きの事実でした。
(サー・ジョン・ソーン・ミュージアム) 週末にロンドン市内の博物館・美術館めぐりに出かけました。 もっとも印象的だったのが、サー・ジョン・ソーン・ミュージアム(ウェブ・サイトはこちら)でした。同博物館に置いてあった小さなリーフレットのメッセージはこのように始まります。「ようこそ、サー・ジョン・ソーン・ミュージアムへ。ここはロンドンにあるすべての博物館の中でおそらくもっとも風変わりな博物館です」。
この博物館の建物は、18〜19世紀に活躍した著名な建築家Sir John Soane(1753-1837)の住宅兼オフィスです。住宅街の一角にあり、外観はごくごく普通のタウンハウスなのですが、内部に一歩足を踏み入れると、文字通り非日常の世界がこれでもかというくらいに展開されます。これはありがちな誇張された描写ではありません。館内を回っているうちに浮かんでくる言葉は、「偏執狂」=「モノマニア。一つのことに異常な執着をもち、常軌を逸した行動をする人」(大辞林による)です。 ソーン氏は、建築家として若いころから名を成した人物で、シティ中心部の入り組んだ市街地の中にあって巨大かつ荘厳な外観で人目を引くバンク・オブ・イングランドのビルを設計したり、首相官邸ダウニング10内のインテリアを担当したりしたそうです。サーの称号を持っていることからも分かるとおり、当時の名士の一人だったようです。
そんな名士による「常軌を逸した行動」とは、彼の住居内で展開された世界各地の美術品・骨董品の蒐集癖です。止まる所を知らなかった収集癖のおかげで、当初は一棟だった彼の住居は最終的に三棟まで広がったそうです。さらに、それら膨大な蒐集品の陳列方法が尋常ではありません。心理的または物理的な効果をねらって様々な仕掛けが施された忍者屋敷のような空間の中に、古今東西の人類の痕跡を示す品々がびっしりと展示されています。ある部屋には整然と、ある部屋には雑然と置かれた数々の蒐集品は、置き方ひとつで観賞者に対する無言のメッセージを放っているようで、正直なところ、途中で少し気味が悪くなってきます。 展示されているものは、素人目には良く分からないものの、専門家が一生涯の精魂を注ぎ込んで蒐集したものだけあって、かなり貴重なものも含まれているようです。なかでも、中央ホールに横たわるケース入りの石棺はエジプトで出土された王家のもので、内部にびっしりと古代エジプトの象形文字が書き込まれており、間近でみると素人でも息を飲む迫力です。 そう、この博物館は、あのだだっ広い大英博物館の中のギリシャ、ローマ、エジプトなど花形コーナーを、規模の点で数百分の一に凝縮したようなイメージです。質的には劣っていないのではないかと思えます。
ソーン氏は、自らが蒐集した数多の美術品とめいっぱい意匠を凝らしてそれらを展示した住居をまるごと、自らの死後に国に寄贈して一般公開してもらうことにしました。ただし、そこには条件がついており、その条件とは「可能な限り、自分(ソーン氏)が死んだ時の状態のままを維持すること」だったそうです。展示方法にまで及ぶ彼のこだわりを知ることができます。 同ミュージアムは入場無料ですが、ドネーションとして3ポンド程度の拠出をお願いする箱が入り口においてあります。200年近く前のソーン氏の「狂気」を保存して語り継ぐためであれば、高くないドネーションという気がします。 ロンドンで一箇所だけ訪れて驚いてみたいという方には、オススメのミュージアムです。
なお、私にサー・ジョン・ソーン・ミュージアムの存在とその魅力を教えてくれたのは、以前にも紹介したことのある好著、清水晶子「ロンドンの小さな博物館」(集英社新書)でした。小さな本ですが、博物館に興味があるロンドン観光中級以上の方には、絶好のガイドブックです。
(その他) その後、ナショナル・ポートレート・ギャラリー、サマーセット・ハウス、コヴェント・ガーデン、シアター・ミュージアムなどを回ってこの日の日程を終了しました。 ナショナル・ポートレート・ギャラリーは、有名なナショナル・ギャラリーの裏手にあり、その名のとおり肖像画だけを集めて展示している美術館です。中世(チューダー朝)の時代から現代に至るまで、時系列に従って膨大な量の肖像画が展示されています。その中の一枚として、サー・ジョン・ソーンの肖像画も含まれていました。 美術音痴の私のような人間でもけっこう楽しめる美術館です。ただ、博物館・美術館の類を訪れる際にはいつも感じることですが、その広さには参ってしまいました。 同様のことが、劇場街コヴェント・ガーデンにあるシアター・ミュージアムにも言えます。演劇通にはお腹いっぱいであろうふんだんな展示が果てしなく続くといった按配でした(私はついでに立ち寄ったヤジ馬的な来場者でしたが)。
先週末に続いて敢行した妻と二人で回るいまさらのロンドン市内観光、けっこう新鮮で面白いものです。当家滞在中の義弟にこどもをみてもらえるからこそできるのですが(義弟に多謝!)。
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