Experiences in UK
DiaryINDEXpastwill


2006年03月28日(火) 第137週 2006.3.20-27 昨年夏のスコットランド旅行2

(第四〜五日:スカイ島)
四日目、フォート・ウィリアムから真っ直ぐ西に進路をとって、スカイ島へと渡るフェリーが出るマレイグの港を目指しました。
途中、グレンフィナン(フィナンの谷)という場所で車をとめる事が出来ます。前方に見えるのは、映画「ハリー・ポッターと秘密の部屋」の撮影で使用されたことで有名な、世界最古のコンクリート製鉄道橋であるグレンフィナン橋です。谷間を縫うように走る西ハイランド鉄道が通る地上三十メートルの高架橋で、映画を見たことのある方はすぐに思い出すと思うのですが、空を飛ぶハリーの車と機関車が競走する印象的な場面の撮影に使われていました。

一方、後方にはシエル湖を望むことができ、湖畔に屹立するモニュメントが目に入ります。この場所は、1745年、ジャコバイト最後の反乱を指揮したボニー・プリンス・チャーリー(The Young Pretender)がフランスから戻って最初に本土に上陸した場所であり、モニュメントはジャコバイト軍が蜂起の産声をあげたことを記念するものです。
ジャコバイトは、スコティッシュによるイングランドへの反抗の歴史を象徴する意味を持っており、スコティッシュ(特にハイランダー)にとって現在でも深い意味をもつキーワードの一つのように感じられます(ジャコバイトに関する詳細はウィキペディア、参照)。スコットランドのハイランド地方を回っていると、方々でジャコバイトの歴史の刻印に触れることになります。

さて、現在、グレンフィナン鉄道橋を走っているのは観光用の機関車(保存鉄道)であり、ハリー・ポッターの映画以降、がぜん人気が高まっているようです。我々は、マレイグに到着してからしばらく時間があったので、マレイグのプラット・フォームを機関車が発進していく様子を眺めていました。その名も「ジャコバイト号」という機関車が子供たちを満載にしてもうもうと白い煙をはきながらホームを離れていく様に息子は大喜びでした。

ブリテン島本土(マレイグ港)とスカイ島の間はフェリーで小1時間の距離です。
スカイ島は、面積が1,656平方キロと沖縄本島(1,206平方キロ)よりも一回り大きい島です。島内は、見渡す限りの荒野に一筆書きのように細い車道がくねくねと伸びています。内陸部には一千メートル級の山があり、また不気味な静けさの湖もところどころで見られました。
多くの車道は車一台が通れる程度の細いもので、ところどころに設置されているエスケープ・ポイントで時折やってくる対向車をやり過ごすことになります。つねに対向車に注意する必要があるため、運転するのがとても疲れます。
また、これらの細い車道を我が物顔に通行しているのは、しばしば周辺に放牧されている牛や馬や羊だったりするため、運転の際はこれらへの気配りも欠かせません。英国内の一部国立公園などでも同様に車道で動物に出会うことがあり、それは動物たちとの思いがけない遭遇といった感じの心温まる体験なのですが、スカイ島においては様子がちがいます。ここでは彼らが完全に「主」としての存在感を放っているため、彼らが跋扈する中を車で通過するのは言いようのない緊張感を強いられ、ちょっと怖い感じすらしました。
スコットランド北部(ハイランド地方)の風景は総じて荒涼としたものですが、スカイ島はそれを凝縮したような印象があります。海沿いのドライブで見ることができる荒々しい海岸線の様子もその辺では見ることのできない迫力でした。
一言でいって、スカイ島はかなり濃厚なアナザー・ワールドです。

スカイ島で二泊した宿は、Shorefield House という名のB&Bだったのですが、ここは我々が英国に来てから宿泊した数あるB&Bの中でも指折りの素晴らしい宿でした(ファミリー・ルーム一泊70ポンド)。部屋は清潔で十分に機能的な設備がそろっており、リビング・ルームはビデオ鑑賞やゲームができるように開放されていて、建物に隣接した芝生の庭でこどもたちを遊ばせておくこともできます。また、朝は通り一遍ではないおいしいスコティッシュ・ブレックファストが供され、何よりもホストの夫婦が客と適度な距離感を保ちながらも気持ちの良い対応をしてくれました。
ホストのおじさんによると、近年はなぜか日本人の客が増えているとのことでした。実際に、我々と同宿していた2組の客のうち1組はロンドン在住の日本人家族でした。こんなところにまで来て日本人と出会うとは思わなかった、とは向こうも思ったことでしょう(しかし、今回の旅行中、意外な場所で日本人の観光客と遭遇することが多かった)。

さて、スカイ島には大変有名なレストラン、スリー・チムニーズ(The Three Chimneys)があります。英国ではありえないような美味な食事を出してくれる高級レストランとの評判は我々も事前に聞き知っていました。値は張るのですが、折角なので冷やかしにいくことを楽しみにしていました。
スリー・チムニーズは、スカイ島の中でも北部の奥まった場所にあります。我々が泊まったB&Bからはさほど遠くないのですが、途中の道は荒野の一本道を延々と進むという感じで、とても高級レストランが出現するようには思えません。
我々は、ランチにトライすべく、午前中少し早めの時間に宿を出ました。

結論から先に言うと、実は我々はスリー・チムニーズの高級ランチにはありつくことが出来ず、苦い思い出だけが残る結末となってしまいました。顛末は次のとおりです。
荒野の一本道を進んでいる途中、息子(四歳)がかなりせっぱ詰まった様子で「うん○」と言い出したため、アクセルを踏み込み気味にして、件のお店を目指しました。道中、他に目ぼしい建造物はほとんど皆無です。レストランに到着したのはランチには少し早い時間帯だったのですが、スリー・チムニーズはB&Bも併設しているのでトイレくらい貸してくれるだろうと考え、小雨が降る中を妻と息子がとりあえず店内に駆け込みました。
しかし、かれらは間もなくあたふたと車に戻ってきました。妻の報告はこうでした。「ランチ予約とトイレ拝借をお願い仕りたい」と丁重に申し出たところ、スカイ島の中でも辺鄙な場所というロケーションにまったく適合していないおしゃれな黒服を着込んでツンケンした感じのウェートレスが出てきて、「ランチは翌日まで予約でいっぱい。トイレは貸せない。2マイル先の公衆便所を使え」とつれない返事を返された。「アージェント」と言ったにもかかわらず。
どんなうまい飯を食わすか知りませんが(本当にものすごく高い)、我々にとっては感じ悪い店でした。ちなみに、息子はこの先のトイレで用を足すことができて事なきを得ました。

(第六〜七日:ネス湖、インヴァネス、)
六日目、スカイ島から出る際は島と本土を結ぶ橋(カイル・オブ・ロハルシュ橋)を利用して、陸路でかの有名なネス湖を目指しました。途中にあるアイリン・ドナー城やネス湖畔のアーカート城は風情のある古城でした。
ネス湖周辺は、当然のことながらネッシー一色という様子で賑わっていました。そんな賑わいとは対照的に、深い緑の山々に囲まれてヘビ状に細長い形状をしたネス湖が黒々とした湖水をたたえて静まりかえっているのが印象的でした(地質の関係でネス湖の水の色は黒く濁っている)。

ネス湖は海に近づくと短いネス川に変わり、そのネス川が海に流れ込む場所にハイランド地方の中心都市であるインヴァネスがあります。空にカモメの飛び交う海辺の町インヴァネスは、適度に賑わっていてショッピングがし易く、街並みもきれいで、好印象が残った街でした。
我々は、インヴァネスを基点にしてさらに北上して、ハイランド地方の奥地を回ってきました。北海油田の石油関連施設を右手に見やりつつ海辺の道を北上し、途中にあるダンビロン城などに立ち寄り、目指したのはグレート・ブリテン島の最北端であるダネット・ヘッドです。奇岩の眺めが圧倒的なダンカンスビー岬のとなりにあるダネット・ヘッドは、海と断崖を一望できる絶景の場所でした。
ブリテン島の最西端であるランズエンドを訪れた時と同様、お約束のように息子は「おしっこ」と言い出して、最北端の地でも立小便をして引き返してきました。

インヴァネスで連泊した宿は、中心部から車で十分程度の場所にあるB&Bでした。お婆さんが一人で切り盛りしている小さな宿で、我々ともう一組の宿泊客がいました。もう一組の客とは二日間朝食のたびに同席することになったのですが、彼らはイングランド南部のケント県在住の老夫婦でした。
年齢が60才台後半くらいと思しき男性の方は、英国ジェントルマンの威厳を体現したような貫禄十分の方でした。慈愛に満ちた容貌のなかにもこちらに緊張を強いるような厳しい雰囲気を持った方で、正直言って彼らとの毎朝の会話は非常に気疲れがしました。
妻が「子供連れの車の旅で車内がぐちゃぐちゃだ」とこぼすと、「それは子供たちがエンジョイしている証拠だよ」と優しい言葉をかけてくれるかと思うと、何気なく私が「こいつら(当家の子供たち)やんちゃで困ったものです」と言ったのに対して、「子供は親の鏡だ」とぼそっと返されてドキッとするといった按配でした。後者はいかにも英国風の皮肉が効いた返しのコメントと言えましょう。

ところで、インヴァネス(Inverness)とは少し変わった地名ですが、ものの本(紅山雪夫著「イギリスの古都と街道」←英国のガイド的読み物の白眉)によると、「インヴァ」とはゲール語で河口を意味するらしく、インヴァネスでネス川の河口という意味になるようです。そして、同書によると、「アクセントは必ず川の名前の上に置く」(つまり「ネ」の上)とのことです。
興味があったので、B&Bの主人の婆さんに発音を尋ねてみたところ、「インヴァ」のvの音はやたら強調していたのですが、アクセントはそのvの上に置いて発音していました。私としては、「書いてあることと違う・・・」という感じだったのですが、翌朝にケントのおじいさんの発音に聞き耳を立てたところ、やはり後ろの「ネス」にアクセントを置いて発音していました。正調イギリス英語では、ガイドブックどおりの発音になるということでしょうか。


DiaryINDEXpastwill

tmkr |MAIL