Experiences in UK
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2005年05月02日(月) |
第89-90週 2005.4.18-5.2 テムズ河ウォーキングに出発、「ボートの三人男」 |
ロンドンの春は行きつ戻りつを繰り返しながら、ゆっくりとしたペースで時が刻まれていきます。日向にいると汗ばむような暖かい日があるかと思うと、翌日には長袖一枚では肌寒いような日になったりします。 5月最初の月曜日はバンク・ホリデー(休日)で、三連休となりました。
(テムズ河ウォーキングに出発) 天気のいい休日の一日、テムズ河ウォーキングに出かけました。ガイドとして参考にしたのは、「テムズ川ウォーキング オックスフォードからウィンザーまでの120キロ」(岡本誠著、春風社)という本です。著者のウォーキング体験を綴ったもので、著者自身の手になるスケッチや分かりやすい地図が豊富に用いられていて、実用的にはもちろんのこと、読み物としても楽しめる好著です。
今回、テムズ河畔の街レディング(Reading)を起点にして、河に沿って設けられているフットパスを家族で歩きました(10ヶ月の長女は専用の背負子で背中に背負って)。 英国には、ウォーキングやトレッキングに適した場所には必ずパブリック・フットパス(Public Footpath)という散歩道が設けられています。フットパスはそこかしこに無数にあり、英国内の至る所に縦横無尽に張り巡らされています。多くの場合、とくに舗装も何もしていない草の道に標識が立っているだけなのですが、フットパスに沿って歩くと、ある地点からある地点までを踏破できるようになっています。
(「ボートの三人男」) 最初、レディング橋の西側のコースを二キロほど往復しました。折り返し地点にしたのは、河沿いにある"Three men in a boat"という名のパブです。 "Three men in a boat"とは、1889年に書かれた英国のユーモア小説のタイトルです。「ボートの三人男」という題名で邦訳も出ており(ジェローム・K・ジェローム著、丸谷才一訳、中公文庫)、私も読んだことがあります。 この小説は、気心の知れた三人の仲間(と一匹の犬)が、ロンドンからオックスフォードまでテムズ河をボートで遡る二週間旅行をするという話で、能天気なスラップスティック・コメディですが、そこはかとなく絶え間なくおかしいところがいかにも英国風です。そもそもはテムズ河の観光ガイドを企図して作られたものだけに、さりげない形でテムズ河の歴史や地理に関する蘊蓄や見どころ案内が散りばめられています。 19世紀の外国小説であるにもかかわらず現在も日本で入手可能なことからわかるとおり、一貫して不思議な可笑しさが醸し出された楽しい味わいの小説であるとともに(解説で井上ひさし氏が絶賛)、格好のテムズ河ガイドにもなっています(19世紀に書かれたガイド・ブックが、現在でも古くて使えないわけではないところが英国らしい)。
ところで、テムズ河沿いを歩いているとすぐに気づくのが、今でも船(プレジャー・ボート)をテムズ河に浮かべて悠然と進んでいく人々がたくさんいることです。これらの多くの船は、ナローボートと呼ばれる細長い船で、船内には生活するのに必要な設備が一式そろっているそうです。 河岸には船を繋ぎとめておくポイントが随所にあり、船遊びをしている人たちが休憩している場面にしばしば遭遇します。自家用船で休日のレジャーを楽しんでいるリッチな人もいるでしょうし、ナローボートは借りることもできます。聞いたところによると、リタイア後に家を売り払ってしまって、残りの人生を船上で過ごすという老人も少なくないようです。私もそれらしい人々の船をいくつか見かけました。 日本にはないレジャーの光景ですね。
さて、テムズ河文学の最高峰(?)とも言える古典小説のタイトルを店名に借用していることから、ちょっと期待していたパブ"Three men in a boat"ですが、実際にはえらく近代的な店構えのパブで、私としては期待はずれでした。しかも、我々が行った日は閉店だったので、やむなく隣のホテル(ホリデー・イン)にてビールを一杯あおって休憩をとりました。
(名店パブThe Bullは今も健在) 休憩後、来た道をレディング橋まで取って返し、次は東の方に伸びるフットパスへと歩を進めました。目的地は、約五キロ先にあるパブ"The Bull"です。 河沿いの光景は、広い原っぱから細い林道まで様々な変化を見せてくれて楽しいものでした。ところどころに河の水位を調整するロックがあって、数隻のボートが滞留していました。さらに、我々同様に散歩を楽しむ多くの人々とすれ違うのもまた楽しいものでした。若いカップル、老夫婦、子供やペットを連れた家族といった様々な人々が、フットパスの散歩を楽しんでいます。 まさに英国は、散歩(あるいはトレッキング)王国だなと実感することができます。
ウォーキング後半戦の目的地であるパブ"The Bull"は、ソニング(Sonning)という名の美しい村にあります。さすがにへばりつつあった三歳の息子(と10キロの荷を背負った私)は、”The Bull”のパブ・サインが見えてくると、ようやく終着点にたどり着いたことで安堵しました。レディング橋を出発したのは二時過ぎでしたが、このとき六時半でした。 古い教会の脇に立つこのパブは、正真正銘の伝統的英国パブでした。重厚な作りの建物の中に入ると、暗めの照明と低い天井、立派な暖炉というお決まりの光景を目にすることができ、ほっと落ち着くような気がしました。パブの前は、ベンチでおいしそうにビールを飲むたくさんの人々で賑わっていました。
到着してから知ったのですが、小説「ボートの三人男」の中で推薦されていたのが、何を隠そうこのパブでした。当時から現在にいたるまで何ら変わることなく、パブとしてまた宿として(二階はB&Bになっています)、あり続けているのがこのパブなのでしょう。パブの壁には、同小説の該当箇所の抜粋が、額に入れられて誇らしげに飾られていました。 小説では何と書かれているのか、少し引用してみましょう。まず、ソニングという村について、「テムズ河で最も浮世離れのした小さな村」と紹介されています。そして、「ソニングに滞在するなら、教会の裏にあるブル・ホテルに泊まるのがよい」と推薦の辞が続きます。「これは昔の田舎の宿屋を絵に描いたような家」だそうです。 各店員の対応も気持ちよくて、食事も質量ともに十分に満足の行くものでした。歴史のある名店パブとして、私としても推奨したい店です。
食事の後、パブの店員にタクシーを呼んでもらって、車をとめてきたレディング駅前の駐車場まで戻りました。
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