Experiences in UK
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2004年08月16日(月) |
第53週 2004.8.9-16 英国人の愛国心 テムズ河の上流へ |
(英国人の愛国心) 一年間の英国暮らしで思い知ったことのひとつが、英国人のナショナル・アイデンティティへの熱い思いです。以前、英国人のアイデンティティの複雑さについて書いたことがありましたが(4月26日参照)、「英国」であれ「イングランド」であれ、英国人が愛国心を臆面もなく表現する様子は、日本人と大きく異なります。 戦後の日本人は、国に対する過剰な思い入れを自重するように刷り込まれて育ってきているので、善悪はおくとして、素直にまた熱烈に自らの「国」への愛情を表現する英国人を見ていると、日本人とは違うなあと感じます。これら愛国心が具現化される機会としては、ラグビーやサッカーなどスポーツの応援の場面が一般的ですが、ふだん英国人と接していても過去の歴史を含めたBritishとしての誇りや愛国心を感じる場面がしばしばありました。 もちろんこれらの感情は我々日本人も持ち合わせていると思うのですが、日本人にはそのような感情を形にする際にある種の制約を意識下で課してしまうようなところがあります。この点が、邪気なく愛国心をさらけ出す形を持っている英国人との違いなのだと思います。 背景として、英国は過去に大きな戦争で負けた経験がないという点がよく指摘されるのですが、どうなのでしょうか。
(PROMSラスト・ナイト) 英国人の熱烈な愛国心が表現される場の一つとして、PROMS最終日の公演があります。70回あまりの公演の掉尾をかざるラスト・ナイトの熱狂的な模様はPROMSの名物ということで、先週のPROMS初体験後、2000年の最終公演の模様を収録したDVD、”The Last Night of the Proms”を購入し、鑑賞してみました。 最終日の公演は、まず観客の服装が通常とは全く異なります。タキシードを着込みながらも頭の上には英国の国旗ユニオン・ジャックをかたどった帽子などをかぶっている人が多数おり、老若男女を問わず人々はイングランド、ウェールズなどの国旗を手にしています。ホール内にも、ユニオン・ジャックのみならず様々な「国旗」が多数掲げられています。 前半は概ね通常のクラシック・コンサートと変わらないのですが、休憩後の後半に入って毎年定番の曲が演奏され始めると、ロイヤル・アルバート・ホールはアリーナのみならずボックス席も含めて総立ちで半ばダンス・ホールと化していました(ダンスといっても上下に身体を揺らす程度ですが)。ただし、定番曲でも静かなパートでは座って聞き、演奏がある箇所にさしかかるとやおら立ち上がって身体を揺らして合唱するという具合です。
定番の曲は、いずれも強烈な愛国心を表現したものです。例えば、20世紀初頭の英国人作曲家エドワード・エルガー作の”Pomp and Circumstance March No.1(威風堂々)”や、PROMSの創始者である指揮者ヘンリー・ウッドによる”Fantasia on British Sea-Songs”や、18世紀に作られた愛国的唱歌”Rule Britania”などです。そして、もちろん最後に必ず演奏されるのは、英国国歌”God Save the Queen”です。 「威風堂々」には、中間部のサビの部分に”The Land of Hope and Glory(希望と栄光の国)”という歌詞がつけられており、演奏がその箇所にくると指揮者がくるりと観客席の方に方向転換して指揮棒を振り、観客も一斉に立ち上がって歌を歌い始めます。また、”Rule Britania”の歌詞は改めてみると強烈です。サビの部分は「支配せよ、ブリタニア/全ての海を支配せよ/ブリトン人は決して服従しない」という風で、このような調子の歌を全ての観客が高らかに歌い、踊っています。 PROMSラスト・ナイトの模様は、巨大スクリーンを通じてロンドンのハイド・パークやその他の英国内各所に集まった人々に向けても同時中継されます。これら野外会場では、人々は完全にロック・コンサートのノリでPROMSをエンジョイしています。
このようにPROMSラスト・ナイトの後半は、キメの定番ソングを並べて盛り上がるロック・コンサートとまったく同じ状況を呈しています。RCサクセションのコンサートで「雨上がりの夜空に」のギター・イントロが鳴り始めた瞬間、また甲斐バンドのコンサートで「漂泊者」のギター・リフが流れ始めた瞬間、一挙に会場のボルテージが上がり、そのまま観客全員が歌い踊りつつコンサート終了になだれ込むという、あの感じです。 こんな風にクラシック音楽を楽しむことや、愛国心を発揚する機会を持つということは、日本人にとっては新鮮であると同時に、ある意味で衝撃的なものではないでしょうか。少なくとも私にとってはそうでした。
今年も9月11日(土曜)に、ラスト・ナイトの日がやってきます。PROMSラスト・ナイトの模様はNHKでも放映されるらしいので、機会があったらぜひ一度ご覧ください。
(テムズ河の上流へ) ロンドンを東西に横切るテムズ河は、ロンドンの風景に欠かせない重要な一要素ではありますが、大都市(しかもロンドン)の中心を流れる川ということで、目の当たりにしてみるとお世辞にも美しい川とは言えません。ただし、そんなテムズ河も上流に遡ると水も澄んできて、英国カントリーサイドの美しい田園風景に溶け込んで風情ある佇まいをみせてくれます。 そのような風情に絶妙な風味を加えているのが、テムズの大河にまとわりつくように張り巡らされた運河の流れです。産業革命以前の英国イングランドにおいては、運河を利用した水運が産業における主たる交通手段となっていたそうです。鉄道の普及・発達でその本来の役割を終えた現在の運河には、たくさんのレジャー用船舶がゆっくりと就航しています。運河に浮かぶ船はナローボートといって、その名の通りに細長い形状のプレジャー・ボートで、キッチンやベッドなどを完備したこの船で宿泊しながら一週間程度の運河の旅を楽しむというレジャーが英国にはあります。
15日(日曜)、ウィンザーからさらに上流に遡った場所にあるマーロウ(Marlow)、クッカム(Cookham)、メイデンヘッド(Maidenhead)の散策に出かけました。うちからは車で一時間程度の場所です。 マーロウは、川べりにある美しい景色の場所として日本の英国ファンの間で有名な場所らしく、私も赴任前に英国駐在経験のある方からご推奨頂いていました。マーロウといえば、テムズ河に面した世界的に名高いホテル、コンプリート・アングラーがあることでも有名です。クッカム、メイデンヘッドは、マーロウから少しずつテムズ河沿いに南下した村々です。 この辺り一帯には、運河とテムズ河をつなぐ水門(ロック)が多数設けられていて、プレジャー・ボートは、これらの水門を時間をかけて順番に通過していきます。また、川沿いには、水辺の美しい自然環境に引き寄せられるように瀟洒な別荘が建ち並んでおり、田舎でありながらもリッチな雰囲気を醸し出しています。 我々は、白鳥など様々な水鳥が戯れるテムズ河のゆったりとした流れに沿って、豪華な別荘群にため息をつきながら、ハイカー用に設けられたテムズ河沿いのフット・パスを散策しました。マーロー・ロックなどでは水門を通過する船を時間をかけて眺め、途中、地元のパブに立ち寄ってランチをとり、歩くのに疲れたらアイスクリームをなめて休憩するという、平凡なような贅沢なような休日の一日を過ごしました。
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