昔の話 - 2003年05月19日(月) 昨日の日記で書いた、不思議な人の話です。 片思いの話ともいうかもなぁ。 前の土地に住んでいた頃のこと。 7年居たうち、Hさんもその土地に居たのは3年だった。 前半1年半は独身で、後半1年半は単身赴任だったが。 私の方が先に前の職場にいて。 後から彼が転勤してきた。 偶然同じ学部に配置になって。 当時、職場で四面楚歌だった私。 職場以外の人間関係もなかった私。 友だちもいなくて、一人浮いていて、淋しそうと、声をかけてくれたそうな。 食事に誘ってくれたり、愚痴を聞いてくれたり。 彼が勉強に通っていたところにも行くようになった。 そこでは、あまり、男女の感覚がなかったようなところもあって。 私も高校時代のクラブ友だちとは、男女の感覚が薄くって。 雑魚寝も抵抗のない人だった。 実際、高校時代の友だちの中には、男一人で泊まりにきても、 お互い、本当にお友達でいられる関係の人もいる。 今となっては、なんのつながりもなくなっているが。 そういう背景があったからよけいだろうな。 お互いの家で食事して、飲んで。 当然アルコールが入ると車だったのでお泊まり。 二人だけの時でも、部屋が1部屋しかなかったHさんの家で隣に寝ていても、 別に特別なことという感覚もなかった。 それ以上に、異常なくらい、中と外を分けたいと思ってしまう私が、 Hさんだけは、自分の家に入られて、泊まっていかれても抵抗なかったことの方が不思議だった。 後にも先にも、Hさんくらいだろう。 あまりに自然に私の家に上がってきて、当たり前のようにくつろいでいて。 あまりに唐突だったので、私も身構える間もなかったのかな。 一度、中と外がどうでもよくなってしまった人に関しては、 0か100かの私にしたら、 後は、どうでもよかったのだろう。 田舎のことだから、 Hさんと一緒に車に乗っているところも何度も職場の人に見られているし、 よく食べにいっているのも知られていたと思う。 だけど、私相手だったからか、表だって噂されたことさえない。 そのくらい、私とHさんの関係に、男と女の関係を感じさせるものはなかったのだろうなぁと思う。 私にとっては、中の人になった、というのは、恋愛関係を通り越して、家族の感覚になるようだ。 恋愛感情の前に、身内、だった。 そのHさんが「結婚することになった」と言った時。 本当にバカな話だけれど、相手は私だと思ってしまった。 考えてみれば、Hさんと遊んでいたのは、平日だけで。 週末はHさん、実家によく帰っていたり、自分の遊びに出かけていたりで。 週末をどう過ごしているかなんて、全然知らなかったんだ。 ちゃんと、お付き合いしている人がいたことも。 私の恋愛感情を漏らすことで、 唯一、職場で私生活でも関係のあって人をなくすことの方が恐かったから。 それ以外の深い人間関係もなかったし。 一言も自分の感情を話したことはない。 Hさんの結婚式も、写真を撮りまくって、割とよくとれたのを大きく引き延ばして 結婚祝いにアルバム付きで渡した。 Hさんから「祝いなんて面倒なことするなよ」と、しきりに言われていたから。 写真は、特に専門の人に頼んでいたわけでもなかったようで、 私の取ったものが一番多かったらしい。 Hさんの奥さんにはとても喜ばれたそうだ。 一応、失恋したんだろうね、私。 その後も、彼が単身赴任の間は、前と同じ生活が続いていたし。 感じることの方が苦痛だったのだろうし。 そのことに関しては凍結したかのように、無感情だった。 時々、淋しいと思う程度で。 涙さえ、出たことがないな。 Hさんは思いきりアウトドア派で。 私もアウトドアは好きだけれど、 女ということや自分の運動神経に方向感覚を考えると、 一人でアウトドアしに行くような根性はなくて。 よく、一緒に連れて行ってもらった。 当然、全部近場の、日帰りだが。 山奥の名前もないような、小さくてきれいな川で泳いでみたり。 海水浴場でなく、磯で泳いだり、素潜りしてみたり。 釣りに連れて行ってもらったり。 私自身、釣りには興味が無くて。 もっぱら、釣りをする磯に行くのが好きだった。 釣りをしている横で、ボーっと海を眺めているのが好きだった。 一人であんなに奥の足下の危ない磯まで行けないしね。 特に、夜釣りは大好きだった。 月の光が水面にきらきらとしていて。 夜光虫の青い光も時々見えて。 波の音や船の音以外、なんの音もしない。 終いには一人でも、あまり足場の悪くない磯へ、夜に行くようになっていた。 磯に素潜りしにいったこともあったっけ。 危険なのは分かっていたが。 それでも、あの場所が好きだった。 一人はやっぱり淋しく、心細かったが。 アウトドアも自力でできる範囲でやるか、やらないかだったからなぁ。 ダイビングのように、金さえかければ、インストラクターがいて、 一人でも参加できるもの以外は。 結婚祝いの写真とアルバムのお返しにと、彼がずっと使っていたサバイバルナイフをもらった。 あの、小さくて、ナイフにハサミにといろいろついている奴。 だけどねぇ。 私一人でできる程度のアウトドアに、そんなもの、必要ないんだよ。 Hさん以外に、そんなことにつきあってくれるような人も、いないんだよ。 今だってね。 捨てられもしないで、持っているはずだけどさ。 引っ越しの後、どこにしまったのか、忘れているが。 Hさんのことも、本当になんにも知らなかったみたいだが。 今の彼に到っては、仕事のことさえ、知らないや。 Hさんとは職場は一緒だったこともあるからね。 仕事を通してみた、彼のことは、多少は知っていたと思う。 今の彼は、世代も違うし、感覚も違う。 仕事のことを話そうものなら、公務員の私は楽しか知らない世間知らず、で終わる。 楽な時代に就職しているものね。 ほかの仕事、したことないものね。 レールの上から降りたこともないものね。 大学だって、親の世話になってね。 彼にしてみれば、自分で道を切り開いて、この時代に就職活動して、 今も苦労している彼のことなんて、私には何も分からないのだろう。 私に言わせれば、レールから降りるという発想すらできなかった私という存在、 楽で世間知らずの公務員と言われる(彼に限らず同業者以外からはほとんどそう)こと、 その中で、ずっと同じことを続けることっていうのは、 彼には理解できないだろうと思うけどね。 私にはそうすることしかできなかったんだ。 その哀しさも、分からないでしょ。 楽と安定と世間体のために、私が捨ててきたものも、分からないでしょ。 一応「今の彼」だが「保留中」の関係だし。 終わるのも時間の問題なんだろうけれど。 失恋の意識さえなかった失恋でさえ、引きずっているらしい、私。 また、何年も、引きずるのかな。 今度は私の影響で彼の嫌いな土地に引っ越しまでさせてしまったという、 負い目もずっと感じ続けるのだろうなぁ。 そして、私にとって、結婚・出産という選択肢も消える。 彼に関係なく、今の精神状態の私に、出産・育児は無理なんだけどね。 今も恋愛感情以上に身内感情の方が強く現れる私。 同棲なんてしてしまったら当然そうなる。 だから、せっせと「保留中」の彼の痕跡をなくそうとする。 彼を「外のもの」としてしまおうとしている。 いつ「保留中」から「消滅」になってもいいように。 -
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