MEMORY OF EVERYTHING
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携帯電話のメールボックスを覗くと、いつでもそこにある名前。 最後のメールは3月1日。 一言の文章も送られてこなくなってから、1ヶ月経った。 「エイプリルフールか……」 気付いたのは少し遅かったかもしれない。紛れもなく今日は4月1日だ。 桜前線も足音を経てて駆け寄ってきた。 嘘をつけなかったあの日吹いていた冷たい風も、もうここにはない。
嘘をつく。 そんな簡単で残酷な行為が、許される日だ。4月1日。 鈍い温度の携帯電話を握って、ゆっくりとボタンを押していった。 メールボックス。 3月1日。 見慣れた名前。
返信。
どうせ簡単にバレる嘘だ。 1ヶ月も断絶状態だった後で、突然にこんなものを送って信じられる訳がない。 送信。 胸が躍ってきた。なんと返してくるのだろうか。 『嘘つけ』 それでもいい。 『騙されるかよ』 それもいい。 そうしたら『やっぱりね』と私が返しておしまい。 万が一、もしこの嘘が見破られなければ。 そうしたら、鼻で笑ってやる。 『バカね、今日はエイプリルフールでしょ』
携帯電話が震えた。小刻みな振動が全て終わってから、開いた。 新着。 1ヶ月ぶりの名前がそこにあった。
そして本文を読み、私はそのまま動けなくなった。
『会いたいと思ってた』
・・・バカね。ひっかかるなんて。 今日はエイプリルフールだって・・・知ってるでしょう。 『会いたいと思ってた』。 たったその1文が頭の中を駆け巡って、行き場を無くしているようだ。 出口は私の送った言葉しかない。 しかしそれは、偽りだ。幻の出口は通れない。 『会いたいと思ってた』。 駆け巡る。頭を抜けて、心臓までやってきて、暴れ出す。 そして指が。 真実を打ち出す為に動き始める。今日という日を裏切る、「真実」を・・・
『わ』 『わたしも』 『私も』
『あ』
突然の振動が、ボタンを打つ指から、機体を握る手から全てを揺るがした。
新着。 名前。
『なんて、嘘。騙された? 今日、エイプリルフール。』
だるい指で、言葉を作った。
『私も、嘘だったから』
送信。 送信完了。 メールボックス。 送信済みメール。 名前。 本文。
「好き」
削除。
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