MEMORY OF EVERYTHING
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ふと、隣にいるこの男が「本物」なのかどうかわからなくなった。
こちらに顔も向けずに、まっすぐにフロントガラスを見つめているこの人は、 こんな時に、どんな顔をする人だった? こんな風に、じっと前を睨みながらハンドルを握る男だった? 急ブレーキひとつかけないで、横から飛び出してきたスピード違反の国産車をステアリングを切って交わしたそんな動作は、今初めて見せたもの?
柔らかい微笑みを浮かべて、楽しそうにカーラジオを聴いていたのは、この人じゃない別の人だった?
思い出せない。この人がどんな人だったか。 目の前のこの人が、本物なのか、偽物なのか、わからなくなっていた。
ただただ、肌で感じた違和感だけを、 助手席から手を伸ばし、ハンドルを奪った私の言い訳にしては、いけませんか。
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