-殻-
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僕等の時間が止まったのは、4年前の10月だった。
些細なことだったけど、君の警戒水位をついに越えてしまったんだ。 訳がわからないままに僕は飛行機に乗り、帰ってきた。 きっといつもの喧嘩みたいに、すぐ元通りになるさ。 ところが、だ。 どう取り繕っても君は聞く耳を持たなかった。 今思えば、きっと君はとっくに決断していたんだろう。 ただ、その結論に一歩踏み出すために、僕の一言が必要だっただけなんだ。 11月10日、君の誕生日に、僕は以前からの約束通りに、 壁掛けの時計を贈った。 君から電話があって、ちゃんと部屋に飾ってある、とだけ言った。 僕は、11月の末にもう一度君の街へ飛んだ。 君は、僕が贈ったアクセサリーを何一つ着けずに現れた。 帰りの飛行機の時間ぎりぎりまで、僕は話した。 君をつなぎとめたかった。 君は、僕を見送りもせずに、駅であっさり別れた。 僕はひとり空港に向かい、飛行機に乗った。 空港は雪とのアナウンス。 着いてみると、僕の街はすっかり白く染まっていた。 僕は真っ白い雪を踏みしめながら、冷え切った部屋のドアを開けた。 明かりをつけ、ふとベッドの脇に置いた目覚まし時計を見た。 それは、いつかの僕の誕生日に、朝が苦手な僕のために君がくれたもの。 時計は、電池が切れて止まっていた。 今朝は動いていた。今朝もこの時計で起きたのだから。 僕は、そっとその時計を手に取った。 時計の針は、午後4時を差していた。 それは、 さっき君が最後の言葉を発した時刻。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |