-殻-
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仕事が終わって、電車で君の街に向かう。
台風が近づいて、空は重い雲に覆われている。 君が駅まで迎えに来てくれる。 助手席のドアを開ける。 「お疲れさま。」 君が言う。 小雨がぱらついている。 君の部屋で、僕はビールを飲みながらテレビを見ている。 君が夕食を作ってくれる。 「大したものはないけど。」 君が言う。 僕はシャワーを浴びたあと、「ピアノ・レッスン」のビデオを観る。 最後のシーンで、義指が鍵盤に触れるかちりかちりという音が、 僕がギターを弾いているときのきゅっきゅっという音にダブると言う。 僕は君を抱く。 君は僕を抱く。 夜が更ける。 雨は上がっている。 目が覚めると、君が隣にいる。 僕が髪をなでると、ふっと目を開ける。 僕は君を抱きしめる。 台風が通り過ぎて、痛いくらいに空は晴れ渡っている。 君が駅まで送ってくれる。 「じゃあ、いってらっしゃい。」 君が言う。 「いってきます。」 僕が言う。 助手席のドアを閉じる。 君が走り去るのを見送る。 ふと、 「幸せ」かな、と思う。 今日はきっと暑くなる。 僕は駅の階段を駆け上る。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |