-殻-

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2002年05月03日(金) 睡蓮

今日は、某市の美術館で行われているモネ展を観に行った。

例の後輩(2月26日の日記参照)が近くの街で働いているので、待ち合わせをした。彼女は遅刻してきた。

遅刻したことにそれほど意味はない。
そんなことはどうでもいい。

大事なのは、僕らがまたこうして面と向かって話をするという事実にある。
不思議なほどわだかまりもなく、自然に時間を共有できるということ、それが大事なのだ。


美術館を観た後、遅めの昼食を取る。
彼女はいつからかタバコを吸うようになっていた。
でもそれも重要なことじゃない。

とりとめもなく話は続く。
喫茶店に場所を移して、たいしてうまくもないコーヒーを啜りながら、やはりとりとめない話をする。

お互いの視点を探りながら、ある時は牽制しながら、でも近づきながら、同じところと違うところを少しずつ摺り合せていく。
その作業の、なんとスリリングで楽しいことか。


はっきりと僕は気付く。
僕には彼女が必要なのだ。


表現することを選んでしまった人間の、ささやかな慰めなのかも知れない。
それでもなお、僕らは求めずにはいられない。


モネが睡蓮の葉の上に置いた、一筋の赤い絵の具のように、彼女の言葉は僕から離れたところで焦点を結び、輝きを増す。

僕がリンゴの上に置くことができなかった、黄色や緑の絵の具のように、彼女の世界は僕の閉じた世界に彩を添える。


光の要素を分解できる、ほんの一握りの天才たち。
僕にとって彼女は、言葉で関係性を分解できる数少ないアーティストなのだ。


軽く酒を飲んだ後、終電ぎりぎりでお互いに家路についた。
きっと、またすぐに会うだろう。

僕には、彼女が必要なのだ。




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しんMAIL

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