-殻-

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2002年03月10日(日) 誇りと意地

滅多なことで泣かない君が、電話越しに泣いた。

いや、僕が泣かせた訳じゃない。うんと、厳密に言えば泣かせたのかな?
僕の彼女は看護婦なんだけど、仕事柄どうしても腰を酷使する。
彼女は最近ヘルニアを患って、時折手足の痺れに悩まされている。

僕も腰が悪い。これも仕事柄。
屈んだ姿勢で長時間集中して細かい作業をするので、自然と腰に負担がかかる。
だからその苦しみはとてもよくわかる。


泣いたのは別に腰が痛くて、じゃない。
ここ数日彼女の腰の調子はひどく、手足がずっと痺れっぱなしだそうだ。
僕は彼女に、勤務を誰かに代わってもらって休んだ方がいい、と言った。
とにかく休んで、ひどい時期を乗り切らなきゃならない。

ヘルニアの痛みには波があって、立ち上がれないくらいひどく痛む時期と、別段なんともない時期が交互に訪れる。放っておくとどんどん痛む時期が長くなり、頻度も上がり、最後には痺れっぱなしになる。そこまで進むと、手術が必要になってしまう。
だから今のうちに治すために、まずは休息をとって痛みが引くのを待って、病院に行くべきだって言ったんだ。

でも彼女は、「仕事は休めないよ。」って言った。
「せめて力仕事をしないで済むようにできないの?」と僕は言う。
「できないよ。患者さんに『助けて』って言われたらやらないわけにはいかないもの。」
「他の看護婦さんに手伝ってもらうことはできないの?」
「みんな受け持ちの患者さんがいるの。あたしにはあたしの患者さんがいるの。」

そして彼女は泣いた。
自分の体が思うようにならなくて、どうしようもなくて泣いたんだ。

でも僕も、その腰のつらさがわかるだけに「じゃあそうすれば?」とは言えない。
どうしようもない。わかってる。
仕事だもの。


ただね、そういうことで泣ける君を、僕はすごく誇りに思うんだ。
それだけ自分の仕事に責任を持って、一人で立とうとする君を、尊敬するよ。

だからどうか、無理はしないで。
お願いだから。






追加:
さっき彼女からメールが入って、結局仕事はシフトを代わってもらって休むことにしたらしい。余りにも動けなくて、迷惑をかけるという判断からだ。明日病院に行くけど、下手すると入院することになるかも、と言っていた。心配だ。


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