-殻-
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滅多なことで泣かない君が、電話越しに泣いた。
いや、僕が泣かせた訳じゃない。うんと、厳密に言えば泣かせたのかな? 僕の彼女は看護婦なんだけど、仕事柄どうしても腰を酷使する。 彼女は最近ヘルニアを患って、時折手足の痺れに悩まされている。 僕も腰が悪い。これも仕事柄。 屈んだ姿勢で長時間集中して細かい作業をするので、自然と腰に負担がかかる。 だからその苦しみはとてもよくわかる。 泣いたのは別に腰が痛くて、じゃない。 ここ数日彼女の腰の調子はひどく、手足がずっと痺れっぱなしだそうだ。 僕は彼女に、勤務を誰かに代わってもらって休んだ方がいい、と言った。 とにかく休んで、ひどい時期を乗り切らなきゃならない。 ヘルニアの痛みには波があって、立ち上がれないくらいひどく痛む時期と、別段なんともない時期が交互に訪れる。放っておくとどんどん痛む時期が長くなり、頻度も上がり、最後には痺れっぱなしになる。そこまで進むと、手術が必要になってしまう。 だから今のうちに治すために、まずは休息をとって痛みが引くのを待って、病院に行くべきだって言ったんだ。 でも彼女は、「仕事は休めないよ。」って言った。 「せめて力仕事をしないで済むようにできないの?」と僕は言う。 「できないよ。患者さんに『助けて』って言われたらやらないわけにはいかないもの。」 「他の看護婦さんに手伝ってもらうことはできないの?」 「みんな受け持ちの患者さんがいるの。あたしにはあたしの患者さんがいるの。」 そして彼女は泣いた。 自分の体が思うようにならなくて、どうしようもなくて泣いたんだ。 でも僕も、その腰のつらさがわかるだけに「じゃあそうすれば?」とは言えない。 どうしようもない。わかってる。 仕事だもの。 ただね、そういうことで泣ける君を、僕はすごく誇りに思うんだ。 それだけ自分の仕事に責任を持って、一人で立とうとする君を、尊敬するよ。 だからどうか、無理はしないで。 お願いだから。 追加: さっき彼女からメールが入って、結局仕事はシフトを代わってもらって休むことにしたらしい。余りにも動けなくて、迷惑をかけるという判断からだ。明日病院に行くけど、下手すると入院することになるかも、と言っていた。心配だ。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |