-殻-
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飲みかけのコーヒーカップをテーブルに置いて、僕は言った。
「たまにね、」 君は読んでいた「花とゆめ」から目を離して、僕の方を見た。 「なに?しんくん(仮名)」 「たまに、何もかもをさらけ出してしまいたくなるんだ。」 「それがどうかしたの?」 君はまた「花とゆめ」に視線を落として、あまり関心がないといった風に答えた。やっと再開した「ガラスの仮面」の先行きが気になって仕方ないらしい。しかし美内すずえは今や白泉社の社長よりも偉いというのは本当だろうか、と僕もどうでもいいことを考えながら続けた。 「本当に、何もかも、なんだ。」 「いいことじゃない、私たちの間には隠し事なんてマ、マヤ!気付いてしまったのね真澄さんが紫のバラのひとだったって」 「そんなの気付かない方がアホじゃがふっ」 言い終わる前に君の後ろ回し蹴りを延髄に喰らって、僕は軽い脳震盪を起こした。 「・・・な、なつみ(仮名)」 まだぼんやりとした頭で、僕は君の名を呼んだ。 「なに?しんくん(仮名)」 君は何事もなかったように僕のコーヒーをぐびっと飲み干して、ようやく「花とゆめ」を読み終えた。 「なにもかもっていうのは、僕の持ってる汚いところも全部っていうことなんだよ」 「誰にでも汚いところはあるものよ、多かれ少なかれ」 「それはわかってるんだ、なつみ(仮名)。問題なのは、僕がそれを、後先も考えずに吐き出してしまいたい衝動に駆られるっていうことなんだ」 「それはつまり、(削除)が(削除)なのに(削除)だったとか、本当は(削除)したいのに(削除)たりとか、普段は(削除)なフリしてるけど(削除)したいとか、(削除)と(削除)に(削除)で(削除)な(削除)を(削除)(削除)(削除)(削除)(削除)ってこと?」 「ずいぶんはっきり言ってくれてありがとう、なつみ(仮名)」 「どういたしまして、しんくん(仮名)」 「それはわがままなのかい、なつみ(仮名)?」 「それはわがままなのよ、しんくん(仮名)」 「わかってもらいたいのとは違うのかい、なつみ(仮名)?」 「わかってもらいたいのとは違うのよ、しんくん(仮名)」 「そうか、なら理性的に振る舞うように努力するよ、なつみ(仮名)」 「そうね、理性的に振る舞うように努力してね、しんくん(仮名)」 「ところで、なつみ(仮名)」 「なにかしら、しんくん(仮名)」 「どうしてなつみ(仮名)は僕が本当は(削除)が(削除)なのに(削除)だったとか、本当は(削除)したいのに(削除)たりとか、普段は(削除)なフリしてるけど(削除)したいとか、(削除)と(削除)に(削除)で(削除)な(削除)を(削除)(削除)(削除)(削除)(削除)ってことがわかるんだい?」 「適当に言っただけよ、しんくん(仮名)。あなたは本当に(削除)が(削除)なのに(削除)だったとか、本当は(削除)したいのに(削除)たりとか、普段は(削除)なフリしてるけど(削除)したいとか、(削除)と(削除)に(削除)で(削除)な(削除)を(削除)(削除)(削除)(削除)(削除)ってことを考えてたの?」 「ああ、それどころか(削除)を(削除)じゃ飽き足らなくて(削除)とか(削除)とか(削除)たりとか、その上(削除)(削除)で(削除)(削除)な(削除)が(削除)(削除)(削除)を(削除)(削除)(削除)、更に(削除)(削除)(削除)な(削除)を(削除)に(削除)、(削除)な(削除)は(削除)して(削除)して(削除)(削除)して(削除)(削除)してついには(削除)(削除)(削除)みたいなことまで考えてたよ。もちろんその後(削除)(削除)を(削除)するし、(削除)なら(削除)して(削じょがはっ!!」 僕は君の渾身の右ストレートを顔面に喰らって床に崩れ落ちた。 「そこまで聞いてないわよ、しんくん(仮名)」 君はそう言い放つと、何事もなかったように「なかよし」の今月号を開いた。 薄れてゆく意識の中で、ああやっぱりなつみ(仮名)は僕のことをよくわかってくれているなあと、僕は感心していた。 それが君をあれほど追い詰めていたなんて、あの頃の僕には思いもよらなかったんだ。 そう、君が突然僕の前から姿を消すまでは。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |