-殻-

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2002年01月28日(月) あまい果実

なあスティーブ、お前はほんとにフルーツが好きだなあ。

でもなスティーブ、ちょっと考えて欲しいんだよ。
よだれを拭きなさい、スティーブ。ほらほら。

果実っていうものが何のためにあるのか、お前は知っているかい?

食べるため?

うん、そうとも。
人間にとってはそうだよ、スティーブ。
そうだね、こんなに甘くてこんなにジューシーで、まさに食べられるためにあるとしか思えないよなスティーブ。

でもちょっと違うんだよ。

ん?じゃあ何のためかって?
それを考えて欲しいんだよ、スティーブ。

スティーブ、今お前が食べてるそのブドウには種があるかい?
ない?そうか。

おかしいとは思わないかい?

思わない?
種なしブドウだから当たり前だって?

まさかスティーブ、種なしブドウなんてものが元から自然にあったなんて思ってる訳じゃないだろう?

そうだとも、もともと果物っていうのは種があるものだろう?

じゃあ、そもそもどっちが大事なんだと思うかいスティーブ?
僕たちが食べてる果肉と、その中にある種と。

・・・果肉?
違うだろスティーブこらそんな風に育てた覚えはないぞお前なんかこうしてこうしてははは思い知ったか俺をご主人様と呼んでみ(削除)

・・・
そう、種だろスティーブ?
鼻血を拭きなさい、スティーブ。ほらほら。

そもそも植物にとっては、種を少しでも遠くに運んでもらう必要があるわけじゃないか。それには、動物に食べてもらうのが一番効率がいいだろう?そのための果肉なんだよスティーブ。そして種にたっぷり栄養を与えるためでもある。

何が言いたいかと言うとな、果肉だけじゃあ果物としての存在価値はないんだよ。大事なのは実は中身、種の方なんだ。外側の果肉は、種のために存在してるんだよスティーブ。

種のない果物っていうのは、果物の本質を失っているんだよ。

それも時代なんだろうなスティーブ。
俺がまだ若かった頃はな、果物には必ずでっかい種が入っていたよ。
そして酸っぱかったり渋かったり。当たりはずれも多かったなあ。
皮も剥きにくかったしなあ。
それが当たり前だったし、そういうものだと思っていたよ。

でもいつのまにか、それをどうも邪魔に感じるようになった人たちがいたんだな。

ちょっとでも楽をしようとして、いかに種のない果物を作るかってことに一生懸命になって、そして果肉をできるだけ甘く、ジューシーに、どんどん改造していったんだ。

そして、今みたいに種のない、甘い甘い果物ができあがった。
形もきれいで、色つやもいい。皮も剥きやすくて、食べるのに何の苦労もいらない。
個性もなくなったけど、当たりはずれもない。

ただ楽しめばいいんだ。
楽だよなあ、スティーブ。

なのにそれは、果物であってすでに果物じゃないんだよ。
その役割を果たしていないんだ。

なあスティーブ、お前たちの世代にとっては種のない果物は当たり前なんだろうな。だって、それを作ったのは俺たちの世代の誰かで、お前たちが生まれたときから果物には種はなかったんだものな。

種のない果物は、一体どうやって次の世代を作っていくんだい。
教えてくれないか、スティーブ。


なあ、

それにしてもうまそうだなあスティーブ。
俺にも一つ分けてくれないか?

そのきれいな、真っ赤な真っ赤な、種のない果実を。




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