もくじ|楽しい過去|明るい未来
近所のスーパー駐車場に移動焼き鳥屋さんがいる。
あの香ばしい香りについつい誘われてしまう。
土日などはお客が多くて、焼き鳥屋のおじさんはヒーヒーいいながら焼いている。 これがうれしい悲鳴というヤツだろう。
見た目はベテランなのだが 長年のリズムというのができているようで、実はできていないこのおじさん。 パニックがパニックを呼び、焼き鳥販売車の中では大パニック大会が開催されるのだった。
こちらが注文しても、今手元で焼いている焼き鳥に意識がそれるらしく
「え?もう一回言って。」
と言うものだからもう一度言い直すと
「……え?今、つくねって言った?」
と、再度確認が入ったりするのだった。
「いえ、皮です。」
「あぁぁ、皮!!えっと、皮ね。」
バタバタバタ!(焼き鳥をストックしている引き出しを無計画に開いている音)
「今、つくねって言ったよね。」
「いえ、皮です。」
「あぁぁ、皮は今日終わりなんだー。」
そんなやり取りをしている間にもお客はどんどんやってくる。
あまりにもおじさんが大変そうなので ある日メモ用紙に注文内容を書いて渡したことがあるのだが、 おじさんはそのメモ用紙を受け取るなり遠くにかざしてみたり自分の顔の前に持ってきたりして
結局
「書いてもらってもオレ目ぇ見えないからだめだ。」
という結論に至り、 毎度のように上記のような口頭でのやり取りに。
でも… 不思議なことにこのあわただしい落ち着きのない商法が、 なぜか焼き鳥をおいしく演出しているような気がする。
目の前までおいしい匂いが漂っていて、 手が届くところに焼きたての香ばしい焼き鳥があるのに…
気の遠くなるような大変な道のりをたどらずして手中におさめることのできないこのもどかしさ…。 まるで悲恋。
以前「ハラペーニョ」という焼き鳥が販売されていたのだが いつも販売されているわけではなく、珍しいと思い購入してみることに。
相変わらずおじさんはパニックの真っ最中だった。
私と同じ考えの人が多いようで 物珍しさからかこの日はハラペーニョが大人気だったようだ。
おじさんは独り言ともつかない比較的大きな声で
「つくね1本、皮2本、ハラペー2本の、モツ1本。」
と、販売車の中をラテンな感じで右往左往していた。
ハラペーニョをハラペーと略するなんてすごいと思った。 おじさん、すごいや。
少し時間をおいてから再びおじさんの近くまで行ってみるとやはり
「ヒナ5本、ハラペー3本、皮6本」
と、己に言い聞かす感じで右往左往していた。
この一件以来 私はおじさんを「ハラペー」と呼んでいる。
つい1週間程前だろうか、 開店したばかりの時間帯でお客がゼロだったとき、 ハラペーが
「いらっしゃい!いらっしゃい!おいしい焼き鳥はいかがですか〜!!」
と販売車の中から声を出していた。 お客がいないときぐらい少しゆっくりすればいいのに、真面目な人だと思った。
…と同時に お客に囲まれていないレアなハラペーを目撃できたなんてちょっと得した気分だとも思った。
今後もハラペーを見守っていきたいと思う。
もくじ|楽しい過去|明るい未来
|