「暗幕」日記
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私は花がきらいだ。 特に「花いっぱい」というのがきらいだ。 大きな花びんからあふれるように投げ込まれた大輪の花、 緑の斜面を飾るように咲き誇る一面の花がとくに大きらいだ。
これだけ花がどこにでもあるということは 私のようなのは少数派らしい 好意のつもりで花をくれたらしい 私はそれから、花はきらいなのだと公言するようになった。
・・・
うるさい、いい夢をみていたのに。 怒鳴りつけた、美しい夢はすでに消えて闇ばかりが残った いま見ていたのは花畑だったような気がする おだやかで平和なユートピアが具現化されたような そうか、花とは本来そうしたものだったのかもしれない
回復したあとで聞いた そのとき私は生命の危険があったのだという 数少ない友達が半ば覚悟しながら 嗚咽まじりに呼んだ声が幻の花を 私から遠ざけた らしい。
忘れていた 最初の花の記憶は 祭壇の白い菊と百合だった 美しい人は美しい花に囲まれて 生命なき彫像となって眠っていた
花の記憶には 死の匂いがする 私の直観は花と死の恐怖を結びつけて 魂に刻んだのだ
花はきらいだ 私に仕掛けられた時限装置を おりにふれ思い出させるからだ そしてその通り 私に残された時間は短い
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