「暗幕」日記DiaryINDEX|old|new
昔子どもだった私が好きだった話を一つ紹介しよう。 森にすむおばあさんに、どうしたらお金もちになれるか聞きに行くよう言われた男がいました。おばあさんは、男の質問をあとまわしにして、男がおばあさんを訪ねる途中で会った三人の願いについて先に答えました それは男が帰り道で出会うはずの順番でした。 のどがいたくてなにも食べられないさかなのなやみには、こう言いました。"そのさかなののどには、おおきなダイヤモンドがつまっている。ダイヤをとりのぞけば、のどは元どおりになるよ。" 子どもだった私は思いました。いいなあ。おおきなダイヤが自分のものになるんだ。もんだいは、どうやってさかながあんまりいたくないように、のどのダイヤをとりだしてあげるかだ。 みのならないリンゴの木のなやみには、こう言いました。"その木のねっこのそばに、ぎんかが一杯つまったつぼがうまっている。つぼをほりだせば、みがまたなるようになるよ。" ぼくは思いました。いいなあ。つぼいっぱいのぎんかだって。スコップを持ってこなくちゃ。もんだいは、ぼくがつかれちゃうまえにちゃんとつぼがほりだせるかということと、ぎんかのいっぱいつまったおもいつぼを、ぶじにうちまでもって帰れるかということだ。 いつもはらぺこの、おおかみのなやみには、こう言いました。"おまえさんのめのまえにいる、なまけもののおとこをたべるがよい。" うん。それをきいたあと、おおかみは次にだれかとおりかかるのを待てばいいんだね。私は間違えていました。
どうして? さかなをたすけてあげれば大きなダイヤが手に入ったし、りんごの木をたすけてあげればぎんかを持って帰れたのに。私はなまけものではなかったので、なまけもののすることがわかっていませんでした。おおかみのところでも間違えました。なまけものの男の運命はここで決まりました。 おおかみは、おばあさんの言ったことを男にききました。そして、おばあさんの家に行く途中で最初に会ってからそれまでのことを男に話させました。男の話が終わるや否やおおかみは、「なまけもののおとことはおまえだ」と言って男を食べてしまいました。 食べられる前に男は何か言ったでしょうか。言ったとしたら、何を。
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