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「暗幕」日記

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2002年05月04日(土) 狼に食べられた怠け者の話

昔子どもだった私が好きだった話を一つ紹介しよう。

森にすむおばあさんに、どうしたらお金もちになれるか聞きに行くよう言われた男がいました。おばあさんは、男の質問をあとまわしにして、男がおばあさんを訪ねる途中で会った三人の願いについて先に答えました

それは男が帰り道で出会うはずの順番でした。
のどがいたくてなにも食べられないさかなのなやみには、こう言いました。"そのさかなののどには、おおきなダイヤモンドがつまっている。ダイヤをとりのぞけば、のどは元どおりになるよ。"

子どもだった私は思いました。いいなあ。おおきなダイヤが自分のものになるんだ。もんだいは、どうやってさかながあんまりいたくないように、のどのダイヤをとりだしてあげるかだ。


みのならないリンゴの木のなやみには、こう言いました。"その木のねっこのそばに、ぎんかが一杯つまったつぼがうまっている。つぼをほりだせば、みがまたなるようになるよ。"

ぼくは思いました。いいなあ。つぼいっぱいのぎんかだって。スコップを持ってこなくちゃ。もんだいは、ぼくがつかれちゃうまえにちゃんとつぼがほりだせるかということと、ぎんかのいっぱいつまったおもいつぼを、ぶじにうちまでもって帰れるかということだ。


いつもはらぺこの、おおかみのなやみには、こう言いました。"おまえさんのめのまえにいる、なまけもののおとこをたべるがよい。"

うん。それをきいたあと、おおかみは次にだれかとおりかかるのを待てばいいんだね。私は間違えていました。


森のおばあさんは、男にはこう言っただけでした。"おまえののぞみはすでにかなっている。"
さかなのいる池に着いた男は、おばあさんに言われたことをそのまま告げただけで池を立ち去りました。さかなは男に何か言っていましたが男はふりかえりませんでした。
りんごの木に会って男は、また、おばあさんに言われたことをそのまま告げて先を急ぎました。りんごの木は男になにか言っていましたが男はふりかえりませんでした。

どうして? さかなをたすけてあげれば大きなダイヤが手に入ったし、りんごの木をたすけてあげればぎんかを持って帰れたのに。私はなまけものではなかったので、なまけもののすることがわかっていませんでした。おおかみのところでも間違えました。なまけものの男の運命はここで決まりました。

おおかみは、おばあさんの言ったことを男にききました。そして、おばあさんの家に行く途中で最初に会ってからそれまでのことを男に話させました。男の話が終わるや否やおおかみは、「なまけもののおとことはおまえだ」と言って男を食べてしまいました。


食べられる前に男は何か言ったでしょうか。言ったとしたら、何を。

男の帰りを待っていたおかみさんは、帰って来ない男を心配していたでしょうか。本当のことを知って、おばあさんを責めたでしょうか。(事実経過については、さかなとりんごの木という証人がいます。)
いいえ、私は言えないと思います。「さかなやりんごの木を助けなければ、おおかみに食べられてしまうよ、となぜ、はっきりあの人に言ってくれなかったんですか」とは。

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