「暗幕」日記
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2002年03月16日(土) |
ある老人の死/創作:星を灯す |
今朝、親戚の長老が亡くなった。
脳梗塞で倒れてしばらく入院していた。「あと1週間」と言われておととい母が、意識のない彼を見舞いに行ってきたところだった。高校・大学の保証人になってもらった方なのだが、家にかけてきた電話がまれに見る無礼なものであったことしか今は思い出せない。大人気なく私も「どなたですか」と冷たく応じていやがらせをしていた。家にかかってくる電話で「…ちゃんいる?」と家人の下の名前を開口一番、名乗りもせずに呼ぶのは彼だけなので私も二度目からは察してはいたのだが。
彼からの最後の電話を覚えている。電話口で何を言っているのかわからないほど弱弱しい声で、聞き返すと病院からかけてきたらしかった。彼の用件は何であったか忘れたが、例によって諾えない件であったような記憶がある。
「男だから」「年長者だから」というだけの理由で甘やかす気風は既に私の家にはなかった。
************* 創作:星を灯す
星を灯しに行く もうここへは帰ってこない
あの窓の下に 子どもがひとり 眠っている 井戸のように深い一人部屋 同じ年頃の子どもはあまた居るが 孤独を語る友は 居ない
無彩色な日々 堅い机の上の帳面から顔を上げれば そこだけは青い窓 子どもの手では届かない
あの窓の下に 子どもがひとり 暮すのを私は知っている 私が出たあとの設備を 彼らが 遊ばせておくはずがないと知っている
もう気づいただろうか あの部屋の引き出しに 特別なろうそくを置いてきた 説明書きも一緒に
個室で火を使うことは禁止されている だからそのろうそくは 一度しか使えない 「火をつけてごらん まばゆい炎の中に 一番みたかったものが見えるよ」
あの部屋に 希望をひとつ 置いてきた 辛かった過去の私に その辛さから抜け出した私が贈った
そしてまた 私は星を架ける 見えるはずだ あの部屋の窓からも
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