女の世紀を旅する
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2003年05月28日(水) 《 急速なドル安ユーロ高 アジアへの影響 》

《 ドル安ユーロ独歩高 アジアへの影響 》

2003.5.28


急速にドル安が進んでいるが,それはもっぱらユーロに対してである。日本もその影響で円高になっているが,ユーロに対しては円安が進んでいる。

現在 米1ドル=1.178ユーロ 

日本円 米国1ドル 117.6円
    豪州1ドル 76.9円
    英国1ボンド192.6円
    1ユーロ  138.6円





●急激なユーロ独歩高の背景

 為替市場でドル安ユーロ高が進行している。ドル安は、ユーロに対してだけの動きで、円など他の通貨に対してはあまり変化していない。つまり「ドル安」というより「ユーロ高」である。

 イギリスのポンドが世界通貨の座を降りた後、ドルは世界で唯一の基軸通貨だった。だが今年2−3月、フランスとドイツというユーロを支えている2大国がイラク侵攻への反対を強め、アメリカの世界支配に正面から反対して以来、ユーロの国際通貨としての地位が高まった。

 その後、イラクの復興を英米だけが手がけるのではなく、欧州勢や国連にも参加してもらうことを象徴として、欧米が再び同盟関係に戻っているように見せる動きもあるが、それをしり目にユーロ高ドル安の傾向はますます強まっている。

 1ドルの価値が1ユーロより小さくなったのは昨年7月のことで、ブッシュ政権がアメリカ内外の反発を押し切ってイラク攻撃を行う姿勢を見せたときだった。それ以来、ブッシュ政権が無理やりイラク侵攻しようとするとドル安ユーロ高が加速し、逆にアメリカがイラク問題を国連に持ち込むなど単独行動主義を控えるとドル安がおさまるという傾向が続いた。

 今年3月、いよいよアメリカがイラク侵攻する段になって、ドルは一時値を上げたが、フセイン政権の崩壊後は再びドル安ユーロ高の流れとなり、そのまま動きが止まらずに今日に至っている。つまり、ドルとユーロの為替は、欧米間の政治関係に沿って上下してきた経緯がある。ユーロ高は、経済を反映した動きというより、むしろ政治的な動きだと読める。


 ユーロ高の背景にある政治的な動きとして挙げられる例として、世界の産油国が石油を売る際の決済代金をドルからユーロに代えていることがある。最近では、インドネシアとマレーシアが、石油販売をユーロ建てに変えていくと表明している。


 アメリカはこの間「強いドル」政策を掲げ、ドル安には抵抗する構えを見せていたが、5月19日、アメリカのスノー財務長官は「ドル安はアメリカの輸出産業を振興させるので米経済にとってプラスだ」と述べ、ついにドル安を容認する姿勢を見せた。


 この財務長官の発言から「アメリカは欧州経済を潰すためにドル安ユーロ高を意図的に誘導したのだ」と考えることもできる。確かに、ユーロ高はヨーロッパの輸出産業に打撃を与え、欧州の景気を後退させるのではないかとの見方も出ている。しかし、ドル安に後押しされているはずのアメリカ経済もヨーロッパに負けずに悪く、アメリカがドル安の恩恵を受けているとは言いがたい。






●アジア通貨に影響を与えないドル安ユーロ高

 この一年間で、ドルはユーロに対しては23%値を下げたが、円に対しては6%しか下がっておらず、韓国ウォン、中国人民元、タイバーツ、マレーシアリンギットなど他のアジア通貨に対しては、ほとんど為替は変動していない。経済的に見ると、アメリカ対ヨーロッパの対立の中で、アジアはアメリカの側にいることになる。

 実は、アメリカはアジアとの間で、アメリカ自身の国家存亡にかかわるような特別な経済関係を築いている。以下にそれを説明しよう。

 冷戦時代、日本やドイツ、韓国など、高度経済成長期に入った国の多くは、対米輸出の増加によって得られたドルを使って米国債を買い、ドルをアメリカに戻してやる代わりに、アメリカは国債発行で得た資金を使って日独韓などに展開する米軍の費用をまかなうという「軍事と経済のバーター」の状態を保っていた。

 冷戦が終わった後、この機能はアジアでさらに強化され、アメリカはアジア諸国の大きな輸出市場として機能し続けた。日本や韓国、台湾、東南アジア諸国、冷戦後に高度成長期に入った中国などは、アメリカに製品を輸出し、その代金で米国債などアメリカの金融商品を買い続けた。

 アジア諸国では、民間企業がドルを自国通貨に換金しようとするのに対し、中央銀行がそのドルを吸い上げて外貨準備として蓄えた。輸出の増加は、売上代金としてのドルを売って自国通貨を買う動きを強めるが、これを放置すると自国通貨のドルに対する為替が上がり、結果的に輸出企業を苦しめることになる。これを防ぐため、中央銀行はどんどんドルを買い、やがて巨額のドルを保有するようになり、そのドルで少しでも利益を得るために、アメリカの国債や社債、株式などを買うようになった。同様の意味で、民間企業のアメリカ投資も奨励された。

 1995年からアメリカはドル高政策を掲げるようになった。ドル高によってアメリカの消費者はもともと人件費の安いアジア諸国の製品をますます安く買えるようになり、アメリカ人はたくさん消費し、世界全体の経済成長の3分の2をアメリカが担うようになった。

 アメリカの消費ブームはアジア諸国の経済成長を加速させ、アジアからウォール街に還流するドルも増え、株式市場は上昇を続けた。今や、米国債の45%、米国企業の社債の35%、米国企業の株式の12%は外国人投資家が持っており、その多くはアジアの金融機関などである。





●北朝鮮を攻撃しにくいアメリカ

 不景気とはいえ、日本も中国も外貨保有は増え続けている。中国のドル保有は昨年の2800億ドルから今年は3300億ドルに増え、日本も5000億ドルから6000億ドルに増えると予測されている。これだけ巨額だと、簡単に他の投資先に変えることができない。すでにユーロも金地金も上昇傾向にある。日本や中国が外貨準備の一部を、ドルからユーロや金にシフトさせるだけで、ユーロや金の上昇傾向が強まってしまい、割高になる。

 結局、アジア諸国は手持ちのドルで米国債を買い続けるしかない。アメリカがドル安宣言をしても、米国債の買い手は多いままでなので国債金利は上がらず、下落傾向にある(買い手が減ると金利を上げないと売れなくなる)。ブッシュ政権は戦費調達のため多額の国債を発行しているが、これらは日中などアジア諸国に買ってもらっている。「湾岸戦争のときは日本などが戦費を出したが、今回のイラク戦争ではアメリカ独自で戦費を捻出した」と言われているが、間接的にみると、今回も、日本や中国が米国債を買ってアメリカの戦費を出してやっていることになる。

 日本や中国は、アメリカとの経済的な関係が国の繁栄の土台となっているので、イラク侵攻にも反対できない代わりに、アメリカは北朝鮮を武力侵攻する可能性も少ないことになる。北朝鮮と戦争すれば、日中や韓国の経済基盤が大打撃を受け、アメリカの金融市場を支えるアジアからの資金も失われてしまうからである。

(余談だが、アメリカは似たような状態をサウジアラビアとも持っている。サウジの石油をアメリカがふんだんに買う代わりに、サウジはアメリカから武器を大量に買い、サウジに駐留する米軍の費用も出すことで、オイルマネーをアメリカに戻してきた。米軍がサウジから撤退することは、こうしたアメリカとの緊密な関係が解消されるということで、サウジ王室は「国民に嫌われていた米軍がいなくなる」と手放しで喜ぶわけにはいかない不安を感じていると思われる)





●錬金術的なドル本位制

 アメリカはこれまで、単にドル札を刷るだけで、アジアに安く商品を作らせて輸入し、しかも自国の金融市場も発展させてきた。金の保有高が増えないとドルを刷れなかった1971年までの金本位制の時代なら、こんな成長は不可能だった。

 世界的なドルの保有高は、金本位制だった1949年から69年まで20年間に約1.5倍にしかならなかったが、金本位制からドルを自由に刷れる「ドル本位制」だった1969年から現在までの30年あまりの間に20倍になった。それだけ、人類が持つ「価値の総額」が急増したのである。


 とはいえ、これは何か錬金術的な、詐欺的なにおいのする話だ。お札を20倍刷っても、お札の価値が下がらないのは、アジアから還流したドルがアメリカの金融市場に入り、株券や債券に化けているからで、金融市場の右肩上がりの上昇が続いているからこそ、米当局がどんどんドル札を刷っても、それがインフレにつながらず、価値そのものが増殖しているように見えるのだと思われる。

 問題は、右肩上がりの上昇が永遠に続くことなどあり得ない、ということだ。米政府は1990年代に入り「経済グローバリゼーション」のかけ声とともに、発展途上国の金融市場を育成することに力を入れたが、これは世界中に右肩上がりの市場を作ることで、ドル本位制のもとで急拡大し続ける人類の富を吸収する場所を増やそうとしたのだと思われる。

 クリントン政権のこの政策は、1996年のアジア通貨危機の後、崩壊への道をたどり、アメリカ経済そのものも、2001年にクリントン政権が終わるのとほぼ同時に、雲行きが怪しくなった。すでに日本は金融バブルが崩壊して久しいが、本家であるアメリカの金融も、バブルの状態になっているのではないかという指摘があちこちで見られるようになった。






●アメリカ金融市場のリスクを忘れるな

 最近アメリカ金融市場の危機として語られていることの一つに、デリバティブ市場の崩壊の危険性がある。デリバティブは株や為替など金融相場の下落リスクを回避することを目的に作られた金融商品で、この商品そのものが儲けを生む投資対象として拡大したが、実はリスクを回避しているのではなく先送りしているだけで、デリバティブの拡大はいずれ金融市場の暴落を引き起こす懸念がある。

 現在、約51兆ドルのアメリカのデリバティブ市場残高のうち約28兆ドルは、アメリカ第2位の銀行であるJPモルガンが販売したものだ。1998年にデリバティブで儲けていたアメリカの金融機関LTCMが破綻したとき、彼らのデリバティブ残高は1兆2500億ドルだった。JPモルガンは、その20倍以上の残高を持っていることになる。


 アメリカの中央銀行にあたるFRBのグリーンスパン議長は5月8日、演説の中で「(デリバティブ残高の多くをJPモルガンなど数社が持っているという)現状のような集中した状態になってくると(JPモルガンなど)1〜2社が(倒産などで)撤退した場合の影響の大きさについて、考えていく必要がある」と述べた。


 JPモルガンに対する懸念は、アメリカのダウ平均株価が8000ドルを割った昨年10月ごろに広まり、その後株価がやや戻したのに合わせて一時懸念が薄れていた。だが今年3月にかけて再び株価が下落し、また懸念が出てきた。その後、ダウ平均はまた上昇しているが、ドル本位制が無限の相場上昇を前提としている以上、それは常にバブルを生み、それが崩壊する危険性も常に存在している。


 イラク戦争の開始直前にEUがアメリカから離反したのをきっかけに、ユーロの上昇にはずみがついたということは、それだけドルという通貨が持つ潜在リスクをおそれ、ドル以外の通貨に投資を移行させたいと思っている投資家が世界に多いということを示唆している。そんな中で、日本や中国など東アジア諸国がドルとの談合体制から脱することができない状態を続けるのが安全かどうか、大いに懸念が残る。


カルメンチャキ |MAIL

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