女の世紀を旅する
DiaryINDEXpastwill


2003年05月06日(火) 《 北朝鮮の核危機 窮地に立つ盧武鉉(ノムヒョン)政権 》


《 北朝鮮の核危機 窮地に立つ盧武鉉(ノムヒョン)政権 》

                 2003.5.6





 盧武鉉政権が核危機への対応をめぐって窮地に立たされている。北朝鮮の反対で、3カ国協議からはずされ,南北閣僚級会談でも軽くあしらわれた。一方で、米ブッシュ政権との意思疎通もままならない。ブッシュ政権が検討中の対北朝鮮強硬策でも蚊帳の外に置かれているとの不安が消えない。


 今年後半から来年にかけて,北朝鮮の核施設に対する米軍の空爆の可能性があるのでないか,もはや話し合いでの解決に米国は関心をもっていない。
朝鮮有事が現実のものになる確率は高く,事態は深刻な場面をむかえるのではなかろうか。




●盧武鉉政権を震撼させた北の核保有宣言の衝撃


 盧武鉉政権が発足して2ヶ月、北朝鮮の核保有宣言は同政権の対北朝鮮政策を根本から揺さぶることになった。まず、同政権が掲げた公約、韓国が米朝間の「仲介役」となり、核問題を「主体的に解決する」という根拠が崩れた。北朝鮮の核保有は91年の南北非核化宣言に違反し、韓国に対する直接の脅威となる。米朝の「仲介役」などと言う立場ではなく、当事者なのだ。


 また、「主体的に解決」の目標にも支障が出た。盧武鉉政権は「主体的解決」を目指して米朝に韓日中ロを加えた6ヶ国協議を計画。このための「ロードマップ案」を作製して、3月から米日中ロの間を精力的に根回しした。北朝鮮の同意を得るため、国連人権委員会の北朝鮮非難決議に初めて棄権した。ところが、実現したのは米朝中3カ国協議であり、韓国ははずされた。しかも、これは北朝鮮が強く要求したためだった。


 米ブッシュ政権との意思疎通が思わしくないことも明らかだった。北朝鮮の核保有発言は3カ国協議初日の4月23日に飛び出した。しかし、盧武鉉政権がそれを知るのは翌24日、米メディアの報道を通してだった。ブッシュ政権がまず米主要メディアにリークし、韓国に知らせたのは25日午後になったからだ。米国が重要な機密情報を韓国には渡していないという疑惑を裏付けることになった。


 問題はそれだけではなかった。27日から平壌で行われた南北閣僚級会談で、北朝鮮は「核問題は米国と解決する問題」と主張。「非核化宣言の履行」をせまる韓国をかわした。その結果、共同発表文は「韓半島(朝鮮半島)の核問題を平和的に解決するため協力する」という表現になった。韓国のメディアは、これも重大なミスと批判する。北朝鮮にとって「朝鮮半島の核問題」とは、「米国が核で北朝鮮に脅威を与えている」ことであり、この解決に韓国も協力すると解釈できるからだ。





●米国の不信,米韓間の認識の格差は埋まらず


 もう1つの問題は、問題解決をめぐる米韓の対応の違いである。尹永寛外交通商相は4月30日外国人記者団との会見で、北朝鮮の核保有は「朝鮮半島、中国、日本、台湾の軍拡競争を引き起こす悪夢」と述べた。


 しかし、それを解決する手段として北朝鮮に経済制裁を加えることには強く反対し、むしろ経済協力を進めるべきだと強調した。盧武鉉政権はこの方針に沿って5月2日、北朝鮮に肥料20万トンの支援を決めた。北朝鮮が核計画の廃棄をするまで対話も支援もしないというブッシュ政権の姿勢と大きく違うのだ。


 しかも、ブッシュ政権のこの立場は3ヶ国協議を契機に一層強固になった。北朝鮮は同協議で核保有宣言とともに、問題解決のための「大胆な提案」をしたが、この提案が同政権内に強い反発を生んだ。同提案が米による体制保証、重油供給再開、食糧支援など数々の援助を北朝鮮が受け取ったあと、最後に核開発放棄をするという内容だからだ。それ以後、ホワイトハウスのフライシャー報道官は「核計画の廃棄が先決」、「北朝鮮の不埒な行為に褒賞を与えない」という2項目を繰り返し強調している。


 ブッシュ政権の態度硬化に対して、北朝鮮も4月30日「米国が核問題を国連に持ち出し、経済制裁をするなら、我々はそれを戦争への青信号として自衛手段を取る」というKCNA(朝鮮中央通信)の論評を出した。3カ国協議のあと、確かにブッシュ政権内には経済制裁など強制措置を取るべきだとの主張も強まっている。核施設をピンポイント攻撃する限定的武力行使もその選択肢には入っているのだ。


 ブッシュ大統領は3月初め、新聞編集者を集めた席で「外交的手段で充分だと考えるが、それで充分でなければ、軍事的手段が必要になるだろう」と述べた。同大統領が軍事力行使に触れた最初の発言だった。当時大きく報道されなかったが、会議に出席していた保守派の論客ジョージ・ウイル氏がその後ABCテレビで紹介、ブッシュ政権の基本方針として知られるようになった。それ以来、強硬論を主張する保守派はこのブッシュ発言を一種の公約と見なしているのだ。




●38度線の在韓米軍を後方に移転させる米国の真意


 韓国国内には、このブッシュ政権の強硬姿勢に強い警戒感がある。核施設をねらう限定的武力行使でも、北朝鮮が反撃すれば全面戦争になりかねないからだ。しかし、イラク戦争以後、武力行使論が現実味を帯びていることも間違いない。


 オーストラリアのダウナー外相は4月22日シドニーのラジオで、「米国防総省が作戦の1つとして北朝鮮の核施設爆撃を計画しているのは事実」と述べた。また、クリントン前大統領は4月3日、フロリダ大学の演説で、「ブッシュ政権が北朝鮮に進攻した場合の各国の支援を模索している」と発言した。


 ブッシュ政権はこれについて具体的に言及したことはない。しかし、関連する動きとして関心を集めているのが、38度線近くに駐屯する米第二歩兵師団をソウル南方のはるか後方に移転させる動きだ。4月5日の中央日報によれば、米軍は今年下半期にも移転させたいと提案。これに対し、韓国は核危機が解決していない状況下で移転するのは危険として反対している。米側が移転を急ぐのは、核施設への武力行使をする準備の一環との見方があり、韓国の反対はこれを防ぐねらいも含んでいる。


 第二歩兵師団1万7,000人はソウル北方東豆川に駐屯し、38度線防衛の中心的存在である。北朝鮮の第一撃を受ける位置にいるため、警報機(Tripwire)役とも呼ばれてきた。米軍が北朝鮮の核施設を爆撃した場合、北朝鮮は報復としてまずこの部隊を攻撃するというのが一般的な見方だ。そこで米軍は、この部隊を北朝鮮軍の第一撃の射程外に移し、核施設攻撃をしても米軍は報復攻撃の対象にならない作戦を計画しているとの見方があるのだ。


 ブッシュ政権は在韓米軍を再配置する理由として韓国側の要請に答えるためと説明している。盧武鉉大統領は今年2月の就任後、「米との対等な関係」を掲げて米軍の再配置や基地の見直しを要求したのは事実である。昨年の選挙時、反米感情が韓国全土に拡大し、ソウル中心地の米軍司令部や全国各地の基地の移転縮小が世論の大勢となったからだ。米側はこの韓国側の要求を理由にして、第二歩兵師団の移転を提案。盧武鉉政権が待ったをかける事態になった。




●同盟の今後を左右する米韓首脳会談のゆくえ


 盧武鉉大統領は5月14日、訪米してブッシュ大統領と会談する。議題のトップはもちろん北朝鮮対策だ。ブッシュ大統領は5月3日、オーストラリアのハワード首相をテキサスの牧場に招いて会談したが、ニューヨークタイムズによれば、会談の大部分は北朝鮮問題だった。それも、ミサイル輸出を阻止するための海上封鎖や経済制裁などについてだったという。盧武鉉大統領との首脳会談でも、ブッシュ大統領は同じ問題を取り上げ、盧大統領の反応を探るだろう。


 もう1つの議題は米軍再配置の問題だ。米国防総省の高官は3月18日、ワシントンの韓国特派員団と匿名を条件に会見し、ブッシュ政権が在韓米軍の再配置とともに米韓相互防衛条約の改定を計画していることを明らかにした。その時期として、今年10月の同条約締結50周年が目標と述べ、さらに「もし韓国が望むなら米軍は明日にでも撤退する」と付け加えたという。ブッシュ政権が盧武鉉政権の姿勢に強い不満を抱いていることがわかる。


 盧武鉉政権が北朝鮮に対する強硬措置に反対し、経済協力を強調するのは、それによって北朝鮮の姿勢が変わるとみたからだ。金大中前政権以来の太陽政策によって南北の交流が拡大し、北朝鮮が韓国を攻撃することはありえないとの判断もある。だが、北朝鮮の核保有発言はじめ一連の動きは、韓国内に疑問を生んでいる。ソウル大学社会発展研究所と三星経済研究所が4月10日に発表した世論調査は、「北朝鮮が核兵器を開発しても支援を続けるべきか」という質問に対し、反対61.1%、賛成19.1%となり、反対が圧倒的に多かった。


 盧武鉉大統領は昨年、米軍装甲車が女子中学生2人を轢殺、全土で反米機運がたかまった最中の選挙で当選した。人権弁護士出身で国会議員暦も一期だけ、訪米は今回が初めてだ。米国内では政治的にまったく未知の存在である。米国大統領との会談は世界のどの国の指導者にとっても重要なことだが、今回の盧武鉉大統領の場合は特にそうだ。


 米側は同大統領の真意を探り、同盟国の指導者として信頼できるかどうかを見定めようとするだろう。米国の不信感は根強い。その結果は、今後の米韓同盟関係、ひいては東アジアの安全保障にも影響することになるので要注意だ。日本にとっても重大な会談となるので目が離せない。






カルメンチャキ |MAIL

My追加