徒然草日記...至都

 

 

老いた背中に - 2004年04月04日(日)

彼はゆっくりと伴奏者の肩をかりて現れた
万雷の拍手とは裏腹にその老いたる姿に胸が詰まる
どさりとイスに倒れ込むように座り
大きく広げた両手を後ろにまわすようにして
グランドピアノに巨体を寄りかからせた
右後ろを振り返り合図を送ると
ピアノが涼やかな音を奏で始めなんテンポめかに
彼のくぐもった声が聞こえ始めた

最初は自分の耳がおかしいのかと思った
マイクが入っていないのかと思った
席が2階で彼の右斜め後ろだからなのかと思った
けれど違う此処はサントリーホール
どの席にいても音は均等に響き渡るはずだから

ピアノの奏でる音が涼やかなだけに
彼のくぐもった声がつらい
キングオブハイCと云われた彼の声がつらい
上がりきらない高音の調べがつらい
ピアノの音より低い声がつらい

びりびりと空気を震わす声が
頭の上からドッカーンと突き抜けるような声が
天上から降りそそぐような声が
大好きだったのに


2年前のW杯3テノールの夕べ
他の2人に助けられるように歌う彼が痛々しかった
老いたなと感じられるのが悲しかった

最後の最後だから此れでホントに聞き納めだからと
此の場にやってきたけれど


涼やかで美しいピアノの音色
それに合わせて力強く響き渡るソプラノの声
それらと響きあわない彼の声

淋しかった悲しかった切なかった

万雷の拍手やブラボーの声やアンコールの声の中
ひとり客席に張り付いて彼の老いたる背中を
黙って見つめていた
目頭が熱くなり涙がこぼれたのは決して感動ではなく

忘れないだろう彼の此の老いたる背中を

さようならキングオブハイC






...




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