観能雑感
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2007年07月16日(月) |
座・SQUARE 第10回記念公演 |
座・SQUARE 第10回記念公演 国立能楽堂 PM1:00〜
面白いそうな番組構成だったのでチケット購入。金春流の能を観るのは久し振り。中正面前列に着席。目付柱の正面で少々哀しかった。見所はほぼ満員で盛況。
『翁』 シテ 辻井 八郎 三番三 山本 東次郎 千歳 山本 凛太郎 笛 一噌 幸弘(噌) 小鼓 鵜澤 洋太郎、古賀 裕己、田辺 恭資(大) 大鼓 柿原 弘和(高) 地頭 本田 光洋
蜀江紋の袷狩衣は苔色地の玉虫色。一方指貫はやや退色したような薄色で、調和に欠ける組合せに見えた。シテは無論披きであるし、真摯に勤めているのは判るものの、文字通り緊張しきっていて、その場でやるべき事をやるのが精一杯という態だった。金春流の持ち味である伸びやかさに欠け、袖を被き扇を面の前に翳す翁の象徴的な型も前のめりになってしまったのが残念。そんな翁とは対照的に千歳の凛太郎君は凛々しく颯爽としていた。 何と言っても秀逸なのが東次郎師の三番三。大地の温もりを感じさせる土着性を持ちつつ舞台芸術として洗練されており、心の奥底を揺り動かすような躍動感に満ちていて、神々しくさえあった。揉之段では実りを約束する種撒く妖精のようで、『翁』という曲の本質は祈りなのだと思った。
能 『羽衣』替ノ型 シテ 高橋 忍 ワキ 宝生 欣哉 ワキツレ 大日方 寛、御厨 誠吾 笛 松田 弘之(森) 小鼓 大倉 源次郎(大) 大鼓 安福 光雄(高) 太鼓 観世 元伯(観) 地頭 金春 安明
松の作り物はなく、小袖は一の松付近の欄干に掛けられた。サシ以降ワキの謡が大分省略され、長閑な春の海辺の風景の描写がなくなってしまったのは残念。 シテは白地縫箔腰巻、天冠には牡丹があしらわれており、鍛えられた謡の声だった。呼掛け以下の問答は全身で警戒感を露にしており、天人という言葉に連想される優雅さやおっとりした雰囲気はなかった。しかし考えてみれば非常に無防備な姿であるのでこの方が自然なのかもしれないが、やはりそこは天人という、常人とは違う空気を纏っていてほしいところ。シテの声が聞こえると、ワキは僅かに後ずさるが、突然聞こえてきた声に警戒しているという様子が自然に伝わってきた。欣哉師はこういうさり気ない演技が実に上手い。 シテの登場時から目を奪われてしまったのが面の見事さ。小面としてはすっきりとした頬に笑った時に出る自然な膨らみがあり、目は優しく、無垢であどけなく、上品だった。どうやら流儀として大切にしている名品らしいむべなるかな。シテによく似合っており、始めは緊張していたが、羽衣を返してもらった後は晴れやかな表情になった。 物着でシテは紅舞衣を着用。長絹の方が面と合うような気がしたが、これは好みの問題。小書付きのため序之舞は初段オロシ以降盤渉。破之舞はなし。橋掛りの姿は地上を慈しむように見下ろしていた。 よく出る曲だけれど流儀が違うと謡も異なり新鮮に聞こえた。 囃子方が退場する際「ゴトン」という音が聞こえた。目付柱で見えなかったが、どうやら立ち上がった時笛筒が抜け落ちてしまったらしい。楽器は無事だったのだろうか。
狂言 『素袍落』 シテ 山本 則直 (代演 山本 則俊) アド 山本 則孝、山本 則俊(代演 山本 東次郎)
突如伊勢参りを思い立った主人は、予てから約束していた伯父のもとへ太郎冠者を使いに出す。突然のことで伯父は同行できない旨伝えるように太郎冠者に命じ、酒を振舞い餞別にと素袍を与えた。すっかり酔った太郎冠者は千鳥足で帰路に着く。帰りが遅いと迎えに出ていた主人と出くわすが、酔いが廻っているので返答も覚束なく、貰った素袍を落とし、それを主人に拾われてしまう。今回初見。
あくまでも主の伯父と甥の家人である太郎冠者という立場は逸脱せず、陽気に酒を酌み交わす二人の姿が楽しい。もっともこの伯父は大分寛大で太郎冠者が気に入っているようではあるが。東次郎、則俊両師のやり取りは円熟と緊張感が共存しており、品位が保たれ非常に気持ちの良い時間だった。
仕舞 『船弁慶』キリ 金春 安明
能 『石橋』古式 シテ 山井 綱雄 シテツレ 井上 貴覚 ワキ 森 常好 間 山本 則重 笛 一噌 隆之(噌) 小鼓 観世 新九郎(観) 大鼓 柿原 光博(高) 太鼓 吉谷 潔(春) 地頭 高橋 汎
前シテの尉はやはり難しく、登場の瞬間に若く見えてしまい、深山に住まう神秘的な老人という姿からは遠かった。間狂言は大蔵流なので狂言早笛で登場。一畳台は中央部が重なる形で二列に据えられた。シテはツレより動きが小なく、ツレが俊敏に動き回るが、双方若いため動きはあるが、それぞれ重量感と機敏さが今ひとつの感あり。地謡は本日一番良かったと思う。 光博師は演奏中の表情や瞬きのタイミングが父上にそっくりである。
シテを務める方がそれ以外では地謡に加わっていたり、全曲に地謡で参加する方がいたり、そうでなくとも二番以上に参加する方が多かった。ある意味有難いことで、鍛錬に繋がれば良いと思う。お疲れさまでした。
こぎつね丸
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