観能雑感
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2007年06月17日(日) オペラ 『ばらの騎士』

オペラ 『ばらの騎士』 新国立劇場 PM2:00〜

 R.シュトラウスのオペラ作品として唯一の喜劇。とは言うものの、根底には哀愁が漂っている。
 前日よく眠れず不調。上演時間が長いのでつらいところだが仕方がない。3階席最後列若干上手寄りに着席。最前列の手すりに数箇所付いている黒い柵が視界に入って邪魔だった。客席は9割方埋まっていた。

『ばらの騎士』 全3幕

【作曲】リヒャルト・シュトラウス
【台本】フーゴー・フォン・ホフマンスタール

【指揮】ペーター・シュナイダー
【演出】ジョナサン・ミラー
【美術・衣裳】イザベラ・バイウォーター
【照明】磯野 睦
【舞台監督】大澤 裕

【元帥夫人】カミッラ・ニールント
【オックス男爵】ペーター・ローゼ
【オクタヴィアン】エレナ・ツィトコーワ
【ファーニナル】ゲオルグ・ティッヒ
【ゾフィー】オフェリア・サラ
【マリアンネ】田中 三佐代
【ヴァルツァッキ】高橋 淳
【アンニーナ】背戸 裕子
【警部】妻屋 秀和
【元帥夫人の執事】秋谷 直之
【ファーニナル家の執事】経種 廉彦
【公証人】晴 雅彦
【料理屋の主人】加茂下 稔
【テノール歌手】水口 聡
【帽子屋】木下 周子
【動物商】青地 英幸
【レオポルド】三戸 大久

【合唱指揮】三澤 洋史
【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

 舞台は部屋と廊下を斜め上から俯瞰しているような設計。本来の時代設定は18世紀半ばだがあえて1912年に変更したそう。作品のテーマである時の移ろいをより強調するためで、登場人物達が繰り広げる生活や価値観は、間もなく過去のものとなる。元帥夫人が惜しむのは個人的な時間だけでなく、時代そのものなのだ。現代の演出によく見られる極度に簡素化した調度や衣装ではなく、当時の上流階級に相応しい豪華さを簡潔に表現していた。
 時代設定を変更せずとも舞台美術が現代的なのはよくある演出だが、そうすると作品世界にどうしても馴染まない部分が出てくる。今回は剣がそうだった。元帥夫人の部屋で朝(と言っても実際の時間は昼に近い)を迎えたオクタヴィアンが、召使達が部屋に入ってくるから隠れるよう夫人に言われるも、剣を置き忘れる場面があるが、20世紀の貴族が日常剣を携帯しているという不自然さはぬぐえない。このような細部を検証していったら、オペラそのものが成立しなくなるけれど。
 最も魅力的だったのは元帥夫人役のカミッラ・ニールント。この役には若干声が若いような気もしたが、歌唱そのものが安定しており、聡明さと気品を持って夫人の複雑な心の内を表現していた。また立ち姿が素晴らしく、第1幕終了間際、オクタヴィアンとのそう遠くない別れを予感しつつ窓辺で降りしきる雨を見つめる横顔、第3幕終了直前、若い二人の新しい恋を見守りながら、一度だけ振り返ってオクタヴィアンを見つめ立ち去っていく後ろ姿が実に雄弁だった。
 オクタヴィアン役のエレナ・ツィトコーワはすらりとした肢体と美貌でズボン役にはぴったり。声量は豊かだが高音がややヒステリックで、この役としては自分の好みではなかった。オックス男爵役のペーター・ローゼは得意としている役ということで余裕たっぷり。貴族という特権を振りかざして己の欲望にどこまでも忠実なとんでもな人物だが、今の世にもこういう輩が存在していることに変りはない。
 オケは弦が繊細な表現力を発揮して健闘した。

 登場人物達は時を止めたいと願うけれど、時間は流れていくからこそ良いのだと思っている。
 


こぎつね丸