生まれ出づる - 2005年02月01日(火) 産は女の出陣だ。いい子を生むか死ぬか、そのどっちかだ。 だから死際(しにぎわ)の装いをしたのだ。 とある手術の終わり際、突然の依頼が舞い込んできました。 『今から緊急カイザー(帝王切開術)お願いしたいんです』 『緊急ですか?』 『はぁ、ソーハクで…』 んん?ソーハク??蒼白???(…出血多量って事かしら) 固まる私に、産婦人科部長が笑いながら一言。 『胎盤早期剥離(※注)。国試でやったやろ(にやっ)』 すみません。確かに勉強したはずでした…。急ぎます! 〔※胎児とお母さんをつなぎ、酸素や栄養を送る胎盤が、何かの拍子にはがれていってしまう病態。胎児の仮死・死亡の原因となり、母親にも大出血が起こりやすくなる〕 それから後はもう嵐のようでした。 今の患者さんを覚醒させて抜管し術後の指示を出してお部屋に返し、その一方で麻酔科部長が病棟へ走り同意書やら承諾書やらを貰って来てついでに麻酔科的術前診察もやって、その間にスタッフに使うオペ室の準備をしてもらって、私も機械やら道具やら薬やらの準備をして、そうこうしてる間に妊婦さんが運ばれてきて確認やらセットやらモニタリングやら導尿やら内診やら凄い勢いで進めて、ラボナールで一気に寝かせて一気に挿管しつつさくっと消毒して手術開始! 最初の連絡から手術開始まで15分。 手術開始から赤ちゃんが出てくるまで1分半。 感動する余裕、まったく無し。ひたすら必死な研修医でございました。 ※とりあえず児の娩出の瞬間、 ずっぽん! という音がした(本当に!)事は印象深かったです…。 最初、真っ青(これはマジで「蒼白」だった)だった赤ちゃんは、麻酔科部長とベテラン小児科医の集中的な蘇生によりみるみる血色を取り戻し、力強い産声をあげました。よしよし。よく頑張ったね! お母さんの方も安定して、当初心配された出血もそれほどなさそう。 子宮収縮剤による痛みが少し強かったようですが、弛緩出血を起こさないためにも必要。申し訳ないけれど我慢してお部屋へ帰って貰いましょう。 『それにしても随分痛がっておられましたね…』
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