『たけぐせの随・弐』
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うすうすは分かっていた。 この生活で、奴を復活させることは厳しいことを。 その想いが奴を見てみぬフリさせていたのだろう。 保険が切れ、車検が切れ、その間にも時間は流れ、 奴はぴくりとも動かなくなった。 方法はあったのだ。 たまにでも、エンジンもかけていれば。 たまにでも、洗車をしてやれば。
いつの日か、必ず奴を復活させてやる。 そう思いながら、何もしてこなかった。 想いだけだった。 想いだけの月日は長過ぎた。 不自由のないラインで金を稼ぎ、 その分時間を得ていたのに、 その時間でしてきたことの狭隘たること如何に。
対象への「想い」ありて、 その想いに准ずる「行為」が伴わなければ、 何をもなしえない。 時間が流れる限り対象も変化する。 変化していく対象をも捉え続けなければ、 何をもなしえない。
時すでに遅く、 奴はもう動かない。 念すでに遅く、 後悔は立たない。
愛車にして、10年来の相棒、 『マイティーボーイ』。
本日、廃車。
さようなら。
ありがとう。
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今後、如何なる物事においてもこんな結末にはしまい、と 『マイティーボーイ』に誓ってみる。
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