ムッキーの初老日記
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うちで借りている月決め駐車場の隣の家では、庭で犬を飼っている。
たぶん柴の雑種であろうその子は、とても可愛い顔をしていて、
私が車に乗り込んだり、帰って来たりすると、
いつもジイっとこっちを見つめて尻尾をふった。
私やオットはその子を「イヌきち」と呼んで、たまに撫でたりしていた。
イヌきちが、あまり飼い主に可愛がってもらってないのは明らかだった。
ものすごく伸びきった爪は、散歩に連れて行ってもらってない事の証明だ。
犬小屋の周りにはイヌきちのフンが何個もあった。
水のみのボールにはいつも水がほとんど入ってないか、汚れていた。
庭の片隅に「いる」だけの、忘れられた存在。
いつもイヌきちを撫でながら、心の中で語りかけていた。
「おまえは幸せなのかな・・・。思い切り走った事はあるのかい?
私には何も出来ないけど、許してね」
ある日駐車場に行くと、隣の家の中から子犬の声がした。
家人の楽しそうな声も聞こえる。子どものはしゃぐ声、笑う父母の声。
どうやらもう一匹、室内犬を飼ったようだ。
その声を聞いているのか、イヌきちは家のほうをじっと見つめていた。
イヌきちだけが、ひとりぼっちだった。
それからもイヌきちの存在は無視され続けていた。
家の中から聞こえる楽しそうな声を聞きながら
いつも背中を丸めてじっと時が過ぎるのだけを待っているようなイヌきち。
最近では私が近づいても、あまり顔をあげなくなった。
チロっと目だけをこっちに向け、また丸くなる。
一匹の犬を幸せに出来ないくせに、どうして新しい犬を飼うのか。
ペットはおもちゃじゃない。感情もある。
古いおもちゃは捨てればいいが、イヌきちは生きているんだ。
庭の片隅に鎖に繋がれたままで放置され、
死ぬのを待たれているようなイヌきちを思うと、胸がつぶれる。
何のために生まれてきたのか。
何のためにあの家に来たのか。
どうか、どうか、イヌきちにも幸せがありますように。
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