≪☆+ココロの隙間を喰らう悪魔+☆≫
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×ジオラマ。×
今、アタシは病院にいる。
残り少ない余命をこの様な形で過して居る。 最愛の彼氏とも別れた。 ――12月24日。 今年は珍しくイヴの日にチラホラと雪が舞った。 恋人達が目まぐるしく通りを埋める。 アタシは気持ちが晴れないまま貴方に会いに行く。 陰鬱でしかないこの通りを抜けて、真っ直ぐに貴方に会いに行く。 息を弾ませる事ももう2度と無いと、貴方に触れる事も、 名前を呼んでくれる事もないと、大好きな貴方。 アタシの最後のワガママを聞いて…。 午後8時に待ち合わせた、銀座のある喫茶店。 早く会いたい。抱き締めて貰いたい。そう言う気持ちにして待って居た。 カラン。小さくドアベルが店内に鳴り響き、貴方はアタシの前に現れた。 「ご免。待った?」 朗らかに貴方は笑ってアタシを見やった。 「うぅん。待って無いよ。それより、どうしたの?それ」 彼のズボンのポケットが妙に膨らんで居る。 ソレをあたしは、みやって彼に聞いた。 「嗚呼。コレ?……手出して…」 頬をピンクに染めた彼は、コホンと咳をするなりポケットに手を突っ込み 中身を取り出した。 ソレは、まぎれもないダイヤの指輪。 そして彼は恥ずかしそうに、アタシの左薬指にその指輪をはめてくれた。 「…有り難う。」 物凄く嬉しくって思わず泣いてしまった。 泣くなよ。って言われても何とも言えない感情が込み上げて来る。 嗚呼、もう直ぐ別れなきゃイケナィ。そう思うと苦しく胸を締め上げる。 「夜はこれからなんだ、さ、予約入れといた店に行こう?」 「…うん。」 そう言って彼がアタシの手を取って、店の外に出た。 外はネオンにともされ恋人達を祝して居るかのようにチカチカと灯る。 簡単に食事をした後、街をフラフラと歩いたアタシ達は、公園で一息をついた。 言わなきゃ、早く言わなきゃ。 アタシは、妙に詰った。小さな雪だるまを作って居る貴方の後ろ姿を見ながら。 「ねぇ…?…」 「何?」 彼は、笑顔で振り返った 「…別れたいの……」 「ハッ?」 「好きじゃなくなったの。」そう言って 貴方は何度も「嘘だ」そう呟いて、アタシの瞳の奥を見詰めた。 只、アタシは怖かった。そして、辛かった。 「ご免。」 そう呟いてアタシは、滝の様に流れ落ちる涙を堪えて彼の前から走り去った。 彼は、追い掛けてこない。そう願って全力で走った。 あれから何度か、彼から電話はあったけど出なかった。 出れなかった。ホントは出たいのに。 留守電にも彼の声が録音されていた。 消しても消しても、何度も録音されるから、番号をかえた。 それから、彼からの連絡は無い。 そして、アタシの持病は悪化し、もう半年も持たないと宣告された。 アタシには、家族も居ない、友達も居ない。 彼だけだった。アタシの唯一帰れる場所は彼だけだった。 でも、もうそれは叶わない。 そして、入院し、長い闘病が始まった。 あれから1年。…。 ―神様が居るならもう1度だけ彼に会わせて下さい。― 今になって病に怖気づいたのか。何度かその願いを打ち消した。 けれども、会いたい。 無意識のままアタシは街をさ迷った、彼の面影をさがして。求めた。 居ない。って、解ってる。 彼との思い出の場所を後を追って歩き回った。 ……胸のざわめき、…発作がアタシを襲った。 しかも、ココは人通りの少ない奥の公園。 意識を失いかけたその時、 「美奈子ォ!!!」 大きな聞くに懐かしい彼の声が聞えた。 等々アタシも幻聴を聞くまでになったのか…そう意識を深い闇ヘ落とした。 起きたらココは病院だった、アタシの病室。。。 ぐるぐるする目を一生懸命こらして、状況を確かめた。 何本もの点滴がぶら下がりアタシの血管に送り込まれている。 冷たくなった身体を暖める様に何枚か重ねられた布団。 そして、冷たい手を優しく包む大きくて暖かい手があった。 アタシの顔を覗き込む困った顔がボヤけて見えた。 「……気がついたか?」 優しく聞いて来た声。 答える事は出来なかった。 只、何も言えなかった。 「……全部、主治医から聞いたよ。」 彼は、ずっとアタシにこう話し続けた。 「如何して、病気の事隠してた? 俺、そんなに頼りないかな? なぁ、今でも好きだよ。遣り直せないか? …………なぁ、如何して黙ってんだよ。 何か言えよ。」 彼は、感情を顕わにしてアタシを聞こうとした、 「…なぁ…」 そう言い掛けた彼の唇に手を当てた。 喋らないでそう意を込めて。 「眠いの。長い夢見てたの。ちょっと疲れちゃった。。寝ても良い?」 アタシは、彼に聞いた。 「…嗚呼。ご免。良いよ。」 そう言ってくれた言葉に甘えて、アタシは深い眠りについた。 そして彼女は、その後目覚める事は無かった。 *************************** イェイェ。僕は、元気デスヨ。 只、それだけなんですよ。それだけ…。 逃げないで下さい。 只、それだけの事。 2002年06月26日(水)
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