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■ 花粉症だから、と私は言う。
母が笑いながら言った。 「乳がんで、入院して手術するから」 あまりにも軽い口調だったので、私は理解できないでいた。 ちょうど仕事に行こうとしていたときだったので、気には留めたがそんなに心配していなかった。 家を出て、会社に向かって歩いている間に、段々と実感がわいてきた。 ……癌、だろ? 例え早期だったとしても、癌には違いない。 笑っていえるようなものじゃないだろう。 次第に母の笑みが、自分の中で辛くなった。 どんな人間だって自分が何かしらの病気であるといわれたら落ち込むはずだ、それが癌であるならばなおさらだと思った。 はりぼてのような、それでいて強い微笑が悲しく思えて仕方がなくなった。
仕事の間もずっとそのことばかり考えていた。 元々涙もろい人間なので、少しでも気を許すと涙を流しそうになる。 鼻なんかずっとかみっぱなしだ。 自分に何が出来るかといえば、実際たいしたことなんて何一つ出来ない。 見舞いに行って、洗濯物を家から病院に運ぶくらいのことしか思いつかない。それと母のいない間に家の負担を少しでも軽くする必要があった。 そうするとまず最初に考えたのはFFの引退だった。 夜遅くまでやっていれば、午前中の空いている時間に病院にいくこともかなわない。 そのためにやめる決意をした。 なんだか、また涙が出てきた。 元々FFを辞めるときは泣くだろうなぁって思っていたが、ちょっと考えただけで涙が出てきてはもうどうしようもない。 まだたくさんやりたいことが残っていて、たくさん好きな人たちがいて、まだ喋りたりないことがたくさんあって、伝え切れないものがたくさんあって……正直、苦しい。 母の病も嫌だし。 引退も嫌だった。 でも、まずは母の問題に立ち向かわなければならない。 ある種、願掛けのつもりでFFを辞めるのだ。 そう自分に言い聞かせて、LSの掲示板にその旨を書いた。 誰も見ていなくて、ログインしたときに皆きょとんとしていた。 なにを言ってるんだろうって言う感じで。 私はゆっくりと自分の覚悟を確かめながら話を始めた。 皆静かに話を聞いてくれた。 そして、励まし、待ってるって言ってくれた。
辞めたくない。 辞めたくないよ。 まだここにいたい。 ここにいて、皆と…なにもしなくてもいい、ただ一緒にいたい。
この一年、色んな人と出会った。 辛いことも、嬉しいことも、悲しいことも……たくさんの思い出を私はもらった。
どうしてこんなに涙が出るんだろう。 書いている間、ずっと出ている。 そんなに好きだったのかな……。
LSに挨拶をしている間に、母が起きてきて私の部屋を覗いた。 あまり顔を合わしたくはなかった。 だが、私は顔を見られ、鼻の下が赤くなっていることに気付かれた。 「花粉症だから」と私は母におどけて言った。
2004年01月27日(火)
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