窓を開けて昼寝をしていると、
――ブサブサブサ。
足元の窓から、身も凍るような羽ばたき音。
見るまでもない、「 」だ!! この音がすれば私は骨髄反射で逃げることにしている。 私は0.001秒で足を引っ込めると、すぐさま匍匐前進を始めた。
刺激するな…気づかれないよう…慎重に…
ブサ。
ぎくり。
ブサブサ。
ギャ――!!な、な、な、なんでお前寄ってくる?!
ブサ。ブサ。ブサ。ブサ。
飛び上がり、尻餅をつき、じりじりと後ずさる。 ――背後を見せればやられる。 睨み合うこと数十秒。私にはそれが永劫にも思えた。
ブサ。
が…後がない。 壁に追い詰められる格好になった私。
ブサ。
もはやここまで! 私は戦う覚悟を決めた。 なぜなら手を伸ばした距離に虫除けスプレーがあったからだ。
殺虫剤もあるにはある。 しかしこの場合、使えないのだ。
仮に私が勝利したとして、「 」の死骸は誰が片付けるのだ?! 生きているものよりもさらにこなこなしてぐにぐにしてるものを!! おえっ 書いてるだけで気持ち悪くなってきた。
虫除けスプレーを構える。
ブサ。
来た。覚悟しろ。 いや?この場合どこに噴射すればいいんだ!?私自身?!まさか!
ブサ。
ひ、ひいいい!!! 恐怖のあまり、つい指に力が入る。
ぷしゅー
ブサ!!
変なものをかけられ、奴は驚いたらしい。急に動き回る。
ブサブサブサ!!
殺虫剤と間違えて、どうやら慌てふためきもがいているらしい。 失神寸前の私はもはや動くことなどできず、 ただこちらに来ないことだけを祈りながら、
ぷしゅー
これだけが命綱とばかりに握り締めた虫除けスプレー。 頼むから出て行ってくれ!それだけでいいんだ!
おっ
ブサブサ…
き、効いているのか?! 奴はゆっくりと私から離れていく。 よ、よしこの調子で追い出すのだ。
もてる勇気を振り絞り、追いかけてぷしゅー
ブ!ブサブサ!
スプレー噴射の勢いも有効に働いているらしい。 「 」は窓にゆっくり近づいていき…
ブサー
出た! 瞬間、ばん!窓を閉める。
ぱぱぱぱぱーらーらーぱっぱぱー♪
ゆうしゃは がを やっつけた せかいに へいわが もどった
…はー…死ぬかと思った。
ところで… 虫除けスプレーをかけられた虫は、どうなるんだろう… 「げっ、なんだよお前、寄るなよ!」 みたいなことでいじめられてやしないだろうか…
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