不愉快に冷たい壁に凭れる。 身体を嫌な体液が伝った。 生きている意味なんかなかった。 誰とも知らない男から排出された汚物にも似た体液が、もう少しで乾いて身体に張り付くだろう。 それでも、身動ぎひとつ取ることさえ億劫で、そのまま眠りに落ちたかった。 疲れ切ってしまえば、世界を遮断できる。 その為なら、普段は天よりも高く在り続けるプライドでさえ、チンケなものに感じた。 今夜の相手の姿は既に見当たらない。 金だけは死んでも貰いたくなかった。 肉体を売っているわけではない。 飽く迄、相手を世界を遮断するための道具として『使ってやっている』のであって、相手の性的欲求を満たすために自分が『使われた』のではないからだ。 この腐敗しきった世界の在り様が、異様に無様で笑えてくる。 きっと誰かが操り糸で遊んでいるだけなんだと感じる。 実際、その通りかもしれない。 しかし、それは知ったことではなかった。 不意に、切り刻まれたい衝動に駆られる。 死にたいのではなく、殺されたいと願う。 そんなちっぽけな望みさえ叶えられない神とやらを呪う気も失せた。 負の感情を維持し続ける方が疲れた。 何でこんなに、覇気に欠けるのだろう。 そんな時ちらつく、あいつの影。 そうか、あいつから逃げたかったのか? 知った口ぶりで『愛』とやらを語るあいつから。 あいつといると、窒息しそうで気が狂う。 優しく、優しく、『愛』と言う真綿で口を塞がれ、首を絞められる。 死んでしまう。 違う。 死にたいのではない。 殺されたいんだ。 残酷に見下され、蔑まれ、あらん限りの力で身体をぶった切って転がして欲しい。 それが、望みだ。 『愛』なんていらない。 そんなもののために生まれたのでも、生きてきたのでもない。 血に塗れるだけが、生き様だった。 だから、こうして、あいつを裏切り続ける。 そうしなければ、心の傷が治癒してしまう。 自分で刻んで、常に鮮血を見ていなければ気がすまない。 そんな自分が滑稽でまた笑えた。 ざまぁみろ。 おまえが言う『愛』なんざ、こんなもんなんだ。 ざまぁみろ。 自分を貶めることでしか、相手を傷つける方法を知らない。 くだらない、何もかも。 中に出された体液が、自嘲で使った腹筋の蠕動で外へと零れる。 気持ち悪い。 疲れた。 そろそろ世界を遮断しよう。 あばよ、今を生きるくだらなくも愛しい生き物たち。 闇へ落ちるこの一瞬だけは、おまえをも愛せそうだ。 尤も、そんな刹那の愛情を、おまえは偽モノだというのだろうけれど。
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