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2007年05月09日(水)
「実在の人物を描いた映画」が増えている理由

「日経エンタテインメント!2007.5月号」(日経BP社)の記事「インサイドレポート」の「映画業界」の項より。

【アカデミー賞男女優賞で実在の人物を演じた俳優の受賞が多くなっている。今年第79回は『ラスト・キング・オブ・スコットランド』でアミン大統領役フォレスト・ウィテカー、『クィーン』でエリザベス女王役ヘレン・ミレンが主演賞を受賞した。昨年は『カポーティ』でフィリップ・シーモア・ホフマン、『ウォーク・ザ・ライン/君に続く道』でリース・ウィザースプーンが主演賞に輝いた。
 2年連続、主演男女優賞ともに実在の人物をそっくりに演じた俳優がアカデミー賞を制する結果となった。こうした「なりきり映画」が高評価を得る傾向は21世紀に入ってから顕著になっている。
 この「なりきり映画」ブームの背景には、ハリウッド映画業界が抱えるいくつかの問題点が深くかかわっている。1つは、オリジナルストーリーを書ける脚本家の不在だ。原因は、脚本家に対する待遇の悪さにある。今や映画は劇場公開の後、DVDやネット配信など2次使用の機会が多く、著作権料はそのつど発生する。そのことを盾に、製作者が最初の脚本料を低く抑え出したのだ。
 しかし、必ずしもすべての映画が大ヒットし2次使用に恵まれるわけではないので、脚本家は映画だけでは生活できず、テレビ界へと活躍の場を移しつつある。最近、海外ドラマが好調なのはこうした要因もある。

 次に、知名度のある人物を描いたほうが企画が成立しやすいということがある。製作費をスムーズに集めることができるうえ、よく知られた人物の周知の物語は新進の脚本家でも書くことができ、脚本料を安く抑えられる。
 実際に、渡辺謙主演で今回アカデミー賞候補となり、実在人物を描いた「なりきり映画」でもある『硫黄島からの手紙』は脚本料が通常の映画の4分の1程度だった。
 さらに「なりきり映画」ブームに拍車をかけるのが、昨今のデジタル技術の進歩。『クィーン』のエリザベス女王役ヘレン・ミレンは、デジタル画像によって表情にかなり細かいシワが加えられた。また、『カポーティ』ではフィリップ・シーモア・ホフマンの声色をデジタル音声でよりカポーティ本人の声に似せていった。俳優を実在の人物に、よりそっくりにすることが可能になったのだ。
 今年は名ジャズメン、マイルス・デイビスの半生がドン・チードルの主演兼監督で映画化され、早くも賞レースに絡んでくるのではと予想されている。
 実在の人物を演じることが高評価を得る傾向は今後いっそう強くなりそうだが、実は「鬼門」がある。歴代の米大統領だ。これまでにもニクソンをはじめ有名大統領を主人公にした映画は多くつくられてきたが、興行的に厳しく、賞レースに絡むことはできなかった。かのスティーブン・スピルバーグでさえリンカーンを主人公にした映画の企画がなかなか進まず、苦慮しているといわれる。
 だが、この先、「なりきり映画」ブームが大きくなれば、歴代大統領を主人公にした作品がオスカーに輝く日がくるかもしれない。】

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 確かに、最近の「なりきり映画」に対しては「ここまで実在の人物に似せるための努力をするなんてすごいなあ」と感動する一方で、「『似ている』ということだけが役者の価値ならば、いっそのこと役者を使わずに、CGで本人を描いたほうが良いんじゃない?」と疑問にもなるのです。『Ray』でレイ・チャールズを演じたジェイミー・フォックスや『アビエイター』でキャサリン・ヘップバーンを演じたケイト・ブランシェットの「実在の人物に似せるための努力」を全否定するつもりはありませんが、「なりきり映画」ばかりが氾濫してしまうというのは、ちょっと寂しいような気がします。

 昔のように「見た目はモデルと似ていないけれど、それぞれの役者なりの解釈で歴史上の人物を表現していた時代」のほうが、デジタル処理までして「本物そっくり」にしようとする現在よりも、役者にとっては、演技の幅があったのではないかと思うのです。映画って、「そっくりさんショー」じゃないはずですし、結果がわかっている歴史上の人物の事跡を辿るばかりではなく、「この物語は、これからどうなるんだろう?」とワクワクするような「未知の夢物語」を楽しみにしている人だって多いはずです。全ての映画ファンが過去の有名人の秘められた葛藤にしか興味がないとは考え難いですし。

 しかしながら、この「なりきり映画の氾濫」には、映画の脚本にお金がかけられなくなったことによって、「夢物語」を描ける優秀な脚本家が映画から手を引いていったこと、オリジナルの企画では製作費を捻出するのが難しくなっていることといった、ハリウッド映画が現在抱えている問題が反映されており、「そういう映画のほうが、安上がりで興行収入も見込める」のであれば、今後もこの傾向は続いていきそうです。まあ、「なりきり映画」というのもきちんと作ればけっこうお金はかかりそうですし、全ての映画が「そっくりさんショー」になるというのもありえない話なのですが。

 アメリカ大統領を主人公にした映画が「鬼門」だというのは初めて知りました。個人的には、スピルバーグ監督の『リンカーン』って、ぜひ観てみたい作品なのですが、屈指のヒットメーカーでも企画が通らないくらい「ヒットしない」と考えられているのですね。
 言われてみれば確かに、アメリカ大統領が主人公でヒットしたアメリカ映画って、『インディペンデンス・デイ』くらいですしね(もちろん架空の大統領)。そういえば『華氏911』もある意味「大統領が主人公」なのか……