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2004年10月26日(火)
「セクハラ」と「スキンシップ」と裸の王様

西日本新聞の記事より。

【福岡県警は二十五日、解任から一カ月でホークスタウン前社長の高塚猛容疑者(57)の逮捕に踏み切った。企業トップが部下へのセクハラ容疑で逮捕されるという異例の事件。県警は別の社員らからの相談も受けており、「悪質性、常習性の立証は可能」(捜査幹部)と判断して強制捜査の方針を選んだとみられる。
 県警によると、逮捕容疑となった二件は事件当時、周囲に複数の社員が居合わせた。また、キスされた被害者の一人は十代で「悪質」と判断した。
 大野敏久・県警捜査一課長は「立件できる自信を持っている」と言葉に力を込めた。
 一方、関係者によると、ホークスタウンでは高塚容疑者の著書を年間約一万冊以上も「営業用消耗品」として購入。ホークスの日本シリーズ放映権獲得を狙う地元テレビ局などに、著書の購入や主催パーティーへの参加を強く求めていた、との証言もある。
 ホークスタウン側は「(高塚容疑者と)取引先との不透明な資金の流れがあり、限りなく黒に近いグレーの案件が五十から百ある」として民事訴訟や刑事告発も視野に入れている。
 これらの問題について県警幹部は「金銭面の問題については会社が被害届や告訴状を出すなどの処罰意思を示さなければ捜査に踏み切ることはできない。現時点では会社側の調査を見守るしかない」と慎重な姿勢をみせている。】


共同通信の記事より。

【「うちとはもう関係ない人」。女性社員に対する強制わいせつ容疑で、福岡ダイエーホークスの元オーナー代行で、「ホークスタウン」前社長の高塚猛容疑者(57)が25日、逮捕された。ホークスタウン従業員らは一様に硬い表情。球団関係者からは、突き放す言葉が続出した。
 福岡市中央区のホークスタウン事務所。中に入ろうとしていた女性は「(逮捕を)知らなかった」と絶句。高塚前社長は、東京都港区赤坂のホークスタウンが使用していたマンションで就寝中、捜査員に起こされて逮捕されたという。別の女性も「そうなんですか」と驚いた様子で足早に立ち去った。
 午前9時前に球団事務所に出勤してきたホークスの高橋広幸球団社長は「本当ですか。私は全く聞いていない。確認できていないから何も言いようがない」と驚きを口にした。木村寛広報部長は「たまたまうちの社長をしていただけ。うちには関係ない」と言い切った。】

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 被害者が十代の女性社員だったからとくに「悪質」というのは、ある意味「年齢差別」のような気もしなくはないのですが、なにはともあれ、とんでもない社長がいたものです。
 彼こそが「ダイエー最大の不良債権」だったのかもしれなません。

 しかし、この高塚元社長、人格はさておき、業績をみると、こちらのページにもあるように、かなり「やり手」の経営者であったことは間違いないようです。実は数年前にもセクハラ疑惑が持ち上がり、進退が問われたことがあったそうなのですが、その際にはダイエーの中内会長が強く高塚氏を支持したために、現職に留まれたと言われています。もっとも、中内会長としては、それまで大赤字を垂れ流していたダイエーの「福岡事業」を黒字に転換させてくれた大功労者であり、ダイエーという会社にとって不可欠な人材であったという「お家事情」もあったのでしょうけど。
 
 ちょうど一年前くらいの冬、僕はダイエーの福岡3点セット(ダイエー球団・シーホーク(ホテル)・ホークスタウン(リゾート施設))のうちのひとつである、シーホークに宿泊する機会がありました。確か、5年前くらいにも泊ったのですが、そのときと比べて大きな違いに気がついたのです。それは、ホテルのあちこちに置いてある、「高塚社長づくし」とも言えるような、気持ち悪くなるほどのたくさんの高塚社長の著書の数々。ホテルのロビーやレストランの待合室、さらに客室にまで彼の著書が置いてあって、「好評発売中」とか書いてあるのです。まさに、「教祖」という感じだったのですが、一介の宿泊客としては、そういう異様なまでの持ち上げ方には、「自分の会社の社長を客に向かって誉めそやすなんて、非常識だなあ」と呆れ返りました。「シーホーク」のスタッフにはとくに変な人はいませんでしたし悪い印象はなかったのですが、その「教祖本責め」に関しては、正直かなり不愉快だったのです。「なんでお金を払って他人の自慢話を聞かされないといけないんだ?」って。
 こうなってから思い出すと、いくら「カリスマ」でも、やっぱり異常な状況だったのでしょう。
 逆に、よくあんなになるまで、みんな黙っていたなあ、と不思議なくらいで。
 本を買わされて余っていたのなら、ヤギの餌にでもすればよかったのに。

 それにしても、この高塚社長をここまでつけあがらせた周囲の人たちの責任というのは、問われることはないのでしょうか?ダイエーの中内会長をはじめ、明らかな「セクハラ」を「スキンシップ」と言い換えて全肯定した取り巻きのイエスマンたちは、高塚氏が解任されてしまえば「たまたまうちの社長をしていただけ。うちには関係ない」と突き放して自己保身を図ろうとしています。
 この問題の背景には「あれだけの手腕があるのだから、多少の問題には目をつぶろう」という経営側の「本音」が感じられるのです。あの赤字事業を黒字に転換させたのだから、セクハラくらい、いいじゃないか、という視点や「ダイエーという巨大船が沈むことを考えれば、生贄を何人か差し出して済むなら、それでいいじゃないか」という諦め。

 こんな「暴走」を止める人が誰もいなかったなんて、たぶん、ダイエーは「潰れるべくして潰れた」会社なのでしょう。僕はこのニュースを聞いて、あらためてそう感じました。
 でも、この「セクハラ社長」のアイディアに僕も踊らされて「3点セット」を利用していたのですから、偉そうなことは言えませんが。
 そして、人間というのは、「能力」と「モラル」がかならすしも比例するものではなくて、本当に「恐ろしい人間」を造るのは、本人の力だけではなくて、周りの「協力」があるのだろうなあ、とつくづく思います。
 これだけ多くの利用者の「ニーズ」を的確に分析できていた人が、自分の目の前にいる女性が「スキンシップ」を嫌がっているかどうかの判断もできなくなってしまうなんてね…