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2004年04月16日(金)
「傲慢な人質」と「優しい日本人」

日刊スポーツの記事より。

【15日にイラクで解放された人質の1人、高遠菜穂子さん(34)は、今後もボランティア活動を続ける意向を示した。

 バグダッドのイラクイスラム聖職者協会の事務所でアルジャジーラの取材を受け「今後も活動を続けますか?」という問いかけに対し「続けます。すごく疲れてショックなこともたくさんあるけど、イラク人のことを嫌いになれない…です」と話し、泣き崩れた。

 また、解放後、家族に電話で「今後もイラクにとどまって写真を撮りたい」と話したフリージャーナリストの郡山総一郎さん(32)は報道陣からカメラを向けられシャッターを次々と切られる状況に「(自分は写真を)撮るのが仕事なんだよな、おれは」と苦笑するシーンもあった。】

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共同通信の記事より。

【イラクで解放された日本人人質側から今後もイラクで活動したいとの希望が示されたことに対し、日本政府内で16日、不満や戸惑いの声が広がった。

 政府高官は「信じられない」と驚き、「どうしても(帰国が)嫌だと言うなら、イラクに亡命してほしい。あれだけ国費を使っているのだから損害賠償させたい気持ちだ」ときつい表現で今後の活動を控えるよう促した。

 別の政府関係者も「またイラクに戻りたいと言っているようだが、今度は政府も保護できないと言っておく必要がある」と強調。外務省幹部は「特殊な環境にいて、世間の感覚がまだ分かっていないのではないか」と冷ややかな反応をみせた。

 川口順子外相も16日午前の記者会見で「助かった命だから大事にしてほしい。退避勧告が出ている今はそういう(活動継続の)時期なのかどうか」と指摘した。

 解放された3人は帰国を拒否したり、直ちに再入国する意向を強く主張しているわけではないが、政府高官らの発言は解放による安堵(あんど)感に加え、人質事件と自衛隊撤退論が結び付けられたことへのいら立ちが背景にあるようだ。】

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 とりあえず、まず3人、無事に解放されてよかった。

 まあ、この解放された人々のリアクションというのは、「常軌を逸して」いますよね。周りからすれば「あんなに苦労して助けてあげたのに…」と思われてしまうのは、いたしかたないところでしょう。せっかくの自分たちの努力を水の泡にされてしまうような気持ちにもなるでしょう。
 「反省の色がない!」って。

 考えてみれば、解放されたばかりの3人は、自分たちが誘拐されたことによって、どんなに日本国内が騒然としていたかとか、家族も含めてバッシングの声も強かったことなども知らないのですから、多少なりとも不用心な発言になるのもやむをえない気もします。「そのくらい考えればわかるだろ!」と言ってみても、拘束された状態では自分たちのことで精一杯でしょうし、もともと「日本の世論」とかに気を遣う人たちであれば、こんな時期にイラクに行ったりしなかったでしょうし。

 ただ、僕は彼らの「またイラクで活動がしたい」という意志を「身の程知らずのバカ」と一笑に付してしまうほどの自信もないんですよね。いくら「危機意識が低い人々」であったとしても、今のイラクが危険なところだというくらいは当然理解していたはずだし。
 今回の事件の前に、僕はある雑誌(たぶん、週刊「SPA」だったと思う)で「イラクで活動している民間人」として高遠さんが取り上げられていたのを読みました。日本で自分の生きがいを見つけられなかった彼女は、イラクのストリート・チルドレンのなかに自分の安息の場所を見出して、そこで救援活動を続けていたのです。3人の「戦時下のイラク」でのああいう活動も、テレビのドキュメンタリーとかで感動的なナレーションとBGM付きで放映されれば、多くの視聴者が感動の涙を流していたのではないでしょうか。

 ロバート・キャパという有名な戦場カメラマンがいます。
 彼はスペイン内乱での「崩れ落ちる兵士」という作品で一躍脚光を浴びたのですが(ちなみに、この写真には、後々まで「ヤラセ疑惑」があったそうです。まあ、人間の考えることというのは、70年やそこらではあまり変わらないのかもしれません)、1954年にベトナムで地雷を踏んで亡くなりました。しかしながら、現代ではキャパに「キケンな戦場にノコノコ出かけていくなんてバカだ!」とう人はいません。多くの人は「彼には、戦場に身を晒すだけの『理由』があった」と理解しているのです。もちろん、彼が生きた時代には、「戦場に行くなんてバカだ!」と言っていた人はたくさんいたんでしょうけど

 今回人質にされた3人はキャパではありませんが、たぶん彼らにも「イラクのような危険な土地に行くこと」に意味があったのでしょう。むしろ「そういう危ないところだから、行きたかった」のではないかなあ。
 名声を得ているかいないかの違いだけで、「そういう危険な場所で何かをすること」に生きがいを見つけ出す人というのは、少なからず存在するはずです。

 僕はジェットコースターに対して、「なんで金を払って怖い思いをしないといけないの?」しか考えられませんが、それが好きな人にとっては、「このスリルがどうしてわかってくれないの?」という感じなのと同じように。
 そういう「価値観の差」というか、「温度差」みたいなものは、おそらく厳然として彼らと僕の間には存在しているのです。
 山で遭難しても登山を止めない人がいるように、イラクで誘拐されたからといって、そういうキケンな場所に惹かれてしまう人だって、いるんだろうなあ。

 今回のことで、僕はいろんなことを考えました。
 そして、考えも変わっていきましたが、今の時点でのひとつの結論は、「彼らがイラクに政府の勧告を無視して行ったことは『自己責任』には違いない」ということです。彼らは誰に強制されたわけでもないのに、自分たちの意志でイラクに行ったのですから。
 でも、そのこと自体は「彼らの勝手」です。他人が非難すべきことではないでしょう。彼らは彼らなりの「イラクに行く理由」を持っていたのでしょうから。それが、僕たちに理解可能な理由かどうかはさておき。
 本来「自己責任」というのは、「自己責任だろ!」と他人を責める言葉ではなく、例えば冬山で遭難した人などに「自己責任だから、しょうがないね…」と、嘆息交じりに呟かれる言葉のような気もしますし。
 「日本に迷惑かけやがって!」とか怒るというのも筋違いなんですよね。3人や家族に対して「どうしてイラクに行った!」と責めるより、日本政府に「好きで行った人たちなんだから、放っておいていい、救出しなくていいよ」と訴えるほうが、より彼らの希望にも沿っている気がします。
 要するに、彼らの意志を尊重し、責めることもしなければ、助けることもしない。ただ「放っておく」だけ。自衛隊撤退とかは、全然別問題。
 けっこう文句を言いながら3人を助けるために全力を尽くした日本政府は、それなりに優しくておせっかいなのかもしれませんね。

 それでもね、やっぱり3人が無事解放されて、僕は安心しています。こう言ってはなんですが「あの人たちを助けるためだって、日本政府はこれだけ頑張ってくれたんだから、きっと僕が乗った飛行機がハイジャックとかされたら、全力で助けようとしてくれるよね」って思いますから。
 それに、実際に自分が迷惑を被ったわけでもないし。
 「税金をムダにして!」とか言う人もいますが、税金を集める用途のひとつは、本来「そういう不測の事態に対応する」ためでもあるはずです。一種の生命保険の掛け金みたいなものですから、僕はそれは「無駄遣い」だとは思いません。とはいえ、その救出費でイラクの子供たちはかなり大勢助かるのではないか、などとも考えなくはないのですが。
 それでも、自分が誘拐されたら、いくら税金使っても助けてもらいたい。
 わがままですみません。

 どんなに渡航を禁止しても「行く人は行く」のだと思うのですよ、たぶん。となると、日本政府としては「これから勝手に行くやつはどうなっても知らないよ」とアピールしておく必要はあるでしょうね。
 まあ、そんなことしなくても、この人質バッシングを目の当たりにすれば、イラクに行って一旗挙げようなんて人は、ほとんどいなくなるでしょうけど。
 そういう意味では、今回の事件の「予防効果」は、ものすごいモノがあると思うし、まあ、これはこれでよかったのかもしれません。
 なんのかんの言っても、みんなけっこう気にしてたしねえ。