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2003年07月19日(土) ■ |
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愛で殺した、「辛口」コラムニストの記憶。 |
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「ザ・ベリー・ベスト・オブ『ナンシー関の小耳にはさもう』100」(ナンシー関著・朝日文庫)
(アントニオ猪木の元第一秘書・佐藤久美子氏の告発状の一節 「(猪木議員は)永田町にプロレスを持ちこみ…」を引用してのアントニオ猪木論)
【猪木が国会議員になったことはおもしろかったが、でもちょっと嫌だった。これがプロレスラー猪木の幕の引き方かと思ったからだ。当時、レスラー猪木に対して思うところはいろいろあったが、やっぱり私も猪木に「紙一重」を認めている、プロレスファンだったから。古館は「藤波!愛で猪木を殺せ!」と実況したことがある。告発のニュースを見てから、なぜかこのロマンチックなフレーズばかり思い出す。猪木にはロマンチックに逝ってほしかった。ちょっとおセンチになってしまいました。】
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ナンシーさんが亡くなられてから、もう1年以上になるわけですね(ちなみに、亡くなられたのは昨年の6月)。 彼女の消しゴム版画コラムは、まさに一世を風靡していたのですが、僕自身は、彼女が亡くなられてから、彼女の作品に接することは激減していました。 もちろん、連載がなくなったというのはあるのでしょうけれど、本屋に並んだ一連の追悼本なども、手にとることはほとんどありませんでした。 というのも、彼女の作品は「文学作品」というような類ではなく、その時代の芸能人やテレビ番組、世相に対するものがほとんどで、「リアルタイムじゃないと面白くないんじゃないか」という意識が働いていたんだと思います。 あまりに「時代」を描きすぎているために、古い時代のものを読むことに意味は見出せないのではないか、と。 描かれているのは、所詮、そんな大仰な問題ではないし、というような気持ちもあって。 作家が亡くなった直後って、「もう、この人の書いたものを読めないんだ」なんて思うと、読んでいて作品に対してもセンチメンタルな気分になってしまいますしね。
でも、今回本屋で、この「ベリー・ベスト・オブ…」を買って読んでみて、全然古さを感じないことに気がつきました。むしろ、その芸能人が出ていた番組やその事件のことを鮮明に思い出すことができるのに驚くばかり。 ナンシーさんという人は、文章で画面を情報として伝える、ということが非常に巧い人だったんだなあ、と思わされます。 彼女の書いた文章を(しかも、当時の「リアルタイムでその番組を観ていた人たち」を対象にしていたはずなのに)読んでいると、その番組の存在自体を忘れていた現在でも、実際の画面を思い浮かべられるのです。
そして、今回ナンシーさんの作品を読み直して感じたことは、生前「毒舌」「辛口」と評された彼女の文章には、実は、対象への深い観察と愛情がこめられていたんじゃないかなあ、と。 実際の作品中には、「悪口のための悪口」は、ほとんど含まれていませんし。 今読み直すと、すべて「愛情の裏返し」みたいな気がして仕方がないのです。
ナンシーさんもまた、「愛で殺して」いたのかもしれませんね。
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