2005年02月21日(月) |
『学園天国』(ヨコヒナ) |
坂道を登ると、校舎が見えてくる。 必然的に、校門が目の前に見えてくるわけで。 校門の前に、毎朝たってる人物も見えてくるってわけで。
「・・・よし」
金髪で、インナーは派手で。 きくずれされた制服に身を包んだ、一人の男が、坂道登りきる前で、かがみをじっと見つめていた。
いわゆる、「不良」といわれる風体のこの男。 学園でもちょっとした有名人である「横山裕」関西全域で名の知れた暴走族「環八連合」のトップをつとめる。 あきらかに、夜型、こんな朝早い時間に起きてるなんて思えない。まして、時間通りに学校に登場するなんてありえないだろうと。誰もが思うだろう。
けれど、実際。 毎週月曜だけは、必ず時間通りに登校している姿があった。
「横山、おはよう」 そんな横山を気にしたふううでもなく。気軽に声をかける人物がいた。 片手にチェックノートを持ち、「風紀委員」の腕章をつけている。嫌われるだけの存在である風紀委員なのに、何故か学園のアイドルとなっている。八重歯の眩しい「村上信五」であった。 毎週月曜は風紀委員が門の前にたち、服装チェックをしている。普通ならばうざいと嫌がられるであろう存在だったが。村上の人柄と。この笑顔のせいか。うざいと感じる人がほとんどいないどころか。 「今日もちゃんと来たんやな〜」 「・・・おう」 この、横山のように。月曜だけは遅刻も欠席もせずに登校しようとする生徒が増えていた。 毎朝笑顔で迎えてくれる、それが楽しみで。一年から三年まで。優等生から不良まで。この日だけは真面目に登校するのだった。
「あ、ちょっと待って。エリがおかしくなってるわ」 言って、横山の後ろエリを、そっとふれて。きれいに立たせる。 「ちょ・・・・おい」 「なに?」 「これ、おかしいちゃうか?」 きゅうに声をかけられたこと、てがのびできて、ふれたこと。それらすべてが心構えのないことだったので。横山は内心ドキドキしながら。それでも一生懸命平常心を装った。
普通であれば、立たせるのはおかしい。きちんとした身なりにさせなければならないのだが。 「横山はこのほうが似合うんやもん」 あっさりと言う村上。それは、風紀委員としてええんか?なんて思うけれど。 「そのほうが、かっこええもん」 「・・・・かっこええ?」 「うん、かっこええ。横山はかっこええよ」
かっこええやって・・・ かっこええ・・・ かっこええって・・・・俺のことを・・・
うっわ、バリ嬉しいわー!
明日から、エリをアイロンかけてぴっちりとたたせてこようと、心のなかで固く誓っていた。
「横山?」 「え・・・な、なんや!」 「いや、いきなりぼーとしたから。どないしたんやろ思って」 「なんでもないわ。阿呆!」
村上のアップに驚いて、心臓が飛び跳ねそうになっているのだが。 それを出さないようにして。クールな横山を装ったまま。 「じゃあな」 などと挨拶をしながら、校門をくぐった。 「ほな、またな〜」 後ろから聞こえてくる村上の大きな声に。ふりかえらずに手をあげて答えた。
いや、ふりかえることが出来なかったというのが、正しいのか。
(今週はいっぱい話せたわ〜!!)
思わぬオプションあったし・・・・幸せやわ。 なんて、にやけてる顔をしていたから、振り返ることが出来なかった、なんて。 同じ仲間の人がしったら、「うちのヘッドがおかしくなったーー!」と倒れてしまうとこだろう。
残された生徒達は、心のなかで舌打ちをしていた。
(あんなことされるんやったら) (かっこええって、言われるんやったら)
(俺もしたのに!)
それからしばらく。 学園でエリと立たせるのがブームになっていた。
|