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2016年10月30日(日) |
「ハドソン川の奇跡」 |
すごくいい映画だった…というかすごくいい話だった…!離陸直後にバードストライクによって両翼のエンジンが機能しなくなった航空機を、機長が咄嗟の判断でハドソン川に着水させて乗員乗客全員が助かった(&周辺に被害も出さなかった)という実話、まだ記憶に新しい2009年の出来事ですが、これをクリント・イーストウッドが映画化したものです。主演トム・ハンクス。
冒頭いきなり核心の事故シーンから始まります。離陸直後に鳥の群れに遭遇してエンジンが両方失われ、管制塔は空港に戻れというけれども機長は長年の経験から戻る余裕はないと判断、ハドソン川に着水することを決める。その機転と卓越した技術によって着水を成功させ実際に人命が救われたものの、後の調査で左側のエンジンが実は生きていたかもしれない、という可能性が示される。となると機長は英雄から一転、管制塔の指示を無視して危険を冒し旅客機を川に沈めた容疑者になる。事故調査委員会は厳しく彼を追及し始めます。
しかしこの機長は誠実で職務に忠実、英雄扱いされても驕ったところが微塵もない人格者なのね。事故発生時も決して取り乱さず、とにかく乗客の安全を第一に考えてるのが伝わってくる。アーロン・エッカート演じる副操縦士もそこは同じで、機長を全面的に信頼し、川に着水という通常ありえない選択を全力でサポートします。 また助けたいという気持ちは管制官も同じ、なんとか空港に緊急着陸させようと必死に動く(だから着水すると聞いたときの落胆ぶりが印象的です。市街地を巻き込まないための自爆行為だと思ったはず)。そして無事に着水してからは、周囲の船がすごかった。一斉に駆けつけ(漕ぎ着け?)て手分けして、あっという間に全員を救出するんです。まさにNYの良心が集結という感じ。この一連の流れは本当に感動的でした。機長の偉業は間違いないけどそれだけではない、それを支えた乗員やパニックにならず行動した乗客そして周囲の人々の協力あってこそ成し得た奇跡、NY+航空機というと誰もがあの惨事を想起する中で非常に意味のある奇跡だったと言えるでしょう。
クライマックスの公聴会シーンは法廷モノみたいな緊迫感があって、すごく引きつけられました。コンピュータのシミュレーションでは人的要因が介入できない、事故が起きて事態を把握しその上で最善の道を探して決断するその時間が加味されてないって、言われてみれば至極当然のことなんだけど言われるまでは意外と気づかない盲点だよね…。何もかも機械任せのこの時代だからこそ生身の人間のポテンシャルを軽視してはならないと思いました。
それで公聴会でのシミュレーションを見ると、映画の中でたびたび挿入されていた機長の白昼夢――マンハッタンの街中に墜落&炎上する飛行機のイメージは、空港に戻っていたら起きたであろう現実だったのだとわかります。なんというか、構成が実に見事だった。事故のシーンも何度も繰り返されるんだけど、話の進み具合によってそのたびに違った面が見えてくる。イーストウッドさすがです。これだけの話を96分とコンパクトサイズにまとめ、さんざん感動させておきながらラストは軽やかに締めくくるそのセンスに脱帽。最後おいしいとこはぜんぶ副操縦士が持ってったしね!(笑)
そんなわけで悪い人が一切出てこない、人の善意に素直に感動できて後味すっきりの映画なのでとてもおすすめ。万人におすすめ。あ、調査委員会側の人間が悪役といえばそうだけど、結局彼らも職務に忠実なだけなんだよね。真実が明らかになったときの引き際が潔いし、私はそれほど悪印象はなかったです。それに2009年1月といえばリーマンショック(あれは忘れもしない2008年の9月でしたが)からまだ半年も経ってない頃、保険会社がシビアになるアメリカの経済事情も納得できます。
あとエンドクレジットでは本物の機長と妻と乗客たちが登場するので必見。このときのBGMがまたいいのよ。ほんと、あらゆる意味でイーストウッドのセンスが光る作品でした。実話だから結果はわかってるのにハラハラドキドキ、脚本と演出と編集の妙でとことん見せる。イーストウッドは観ててしんどい映画もいろいろ撮ってるけど、たまにはこういうのもいいよなー。公開終了間際に駆け込んで正解でした!
****** ハドソン川の奇跡 【SULLY】
2016年 アメリカ /日本公開 2016年 監督:クリント・イーストウッド 出演:トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リネイ (劇場鑑賞)
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