2003年07月12日(土)/(略)(補足)/蒼き狼 |
前回は、スブタイたんがジェベを好きであろうことについてあれこれ書きましたが、ジェベやスブタイ関係にあれだけ字数を費やしている当日記を見た方が、むしろお前がスブタイとジェベを好き過ぎなのではないかとご指摘になりたい気持ちはよく分かります。勝手に分かってみました。ええとても好きですよ。でも私としましては、使用する演算子は+とか&ですでにもう十分すぎるくらいなのです。乗算や除算方面は、私にはちょっと御することがかないませんので他の方に委ねたい所存です。委ねられた方の身にもなれという感じ。 そのようなわけで、不幸なことに私にとても好かれてしまっているジェベですが、実は、ジェベというのはチンギス・ハーンにつけられたあだ名であり本名は別にあるのです。本日はこのあだ名について語りたいと思います。
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気になる点:あだ名問題 「蒼き狼」では、ジェベが投降してきたおり、チンギスさんは、彼の名前(本名)を聞きもしないでいきなりあだ名をつけていたので、とても不思議に思いました。ジェベ本人も黙っておとなしくあだ名をつけられ、以後ずっとその名で呼ばれていたので、とうとう作中では彼の本名すら分からない始末。あだ名をつけるにしても、とりあえず名前くらい聞いてからでもちっとも遅くはないと思うのですが。また、耶律楚材が投降してきた時は、「前にも投降してきた奴にジェベというあだ名をつけたし、お前はウト・サカル(長いひげ)だ」とか言ってハーンはまたもあだ名をつけていらっしゃいます。おまけに今度は、立派に名前があるのにもかかわらずです。被あだ名者であるこの両名に共通するのは、敵対勢力からの投降者であるということの他に、ハーンに大層気に入られたという点です。どうやら成吉思汗は気に入った人にはあだ名をつけてしまうという習性でもあるのでしょうか。 彼らの場合、つけられたあだ名に不満はないようだったので、まあ幸運な例といえますが、これで意に染まぬおかしな名を強引につけられて、以後そのように呼ばれ続ける羽目に陥ってしまったらどうしたらいいのだろう。文句を言おうにも相手は世界帝国の支配者なので一苦労です。余計なお世話ですか。
そんなわけで、目下注目(私限定)のあだ名問題ですが、陳舜臣氏著の「耶律楚材」という小説でも耶律楚材がチンギスハーンに気に入られてあだ名をつけられております。(こちらの本でのあだ名表記は「ウルツサハリ」)この本によると、なんでもモンゴルの人は、人に敬意を表したいときには、名前呼び捨てを避けるためにあだ名をつける習慣があったそうなのです。なるほど。しかし、だからといって、うっかり変なあだ名をつけてしまったらまずいことになるという問題が解決したわけではありません。いやどうしようもないですが。 「ウルツサハリ」にしても、ふとしたきっかけで楚材自身がもうひげなんかやめたいと思ったりした時などには非常に困るのではないでしょうか。まあ、あまりそういう事態にはならなかったようですが。あだ名をつけるのも一苦労ですね。余計なお世話ですか。
ところでその後、「元朝秘史」を見てみたらジェベには「ヂルゴアダイ」という名があったことが判明。何やら微妙な感じのする語感なのはさておいて、やっぱりちゃんと名前があるではないですか。あだ名命名の場面では彼に名を尋ねるくだりは省略されたのでしょうか。「蒼き狼」を読んだ限りでは、チンギスさんが人の名前を聞きもしないで、自分で考えた名前をつけてしまう人のように見えてしまうので少々愉快です。むしろ、この際なので、そういう設定として有効利用させていただこうと思うのですがよろしいですか? 設定?
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関連本: 耶律楚材 上 耶律楚材 下 共に陳舜臣著 集英社文庫 ↑この作品もとても面白いのでお勧めです。
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2003年07月11日(金)/キノコ(略)/蒼き狼 |
すみません。鉄木真とジャムカが寝所を共にしたことについて、その期間を半年と書きましたが、後から再度確認してみたら、実に一年半にわたって共にしていたようです。そんな。増えとる。いや増えてはいない。単に間違えていただけです。あと、「蒼き狼」では別に二人は寝所を共にしておらず、あくまでも別の本から得た情報を参考としてお伝えしたにすぎぬのでご注意ください。
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お勧め人物複数編その2:
スブタイとジェベ(順序や演算子は以下略) 成吉思汗の四狗であるお二人さん(ちなみに残り二人は、ジェルメ、クビライ)。ホラズム侵攻により逃亡したホラズム王を追討せよとの命を受け、まずは二手に分かれてどんどん追いかけたが、ターゲットは彼らが手を下すまでもなく死亡。目的を失った彼らは今後の行動について、二人揃って成吉思汗に「これからコーカサス山脈を越えて進軍したい」と言ってよこし、返事も聞かずにとっとと両軍揃って仲良くロシア方面に進軍し始めたと思ったら、みるみるうちに連絡もよこさなくなってしまう。両将軍が意気投合していたかどうかは定かではない。ともかくも、命令を聞かぬ上に君主にろくに使いも出さぬというのはかなりまずい気がするのだが、成吉思汗も「もう彼らは止められまい」とあきらめ放置気味。そんな。長男の命令違反には超むかついていたくせに。何がハーンをそうさせたのやら。 前々回ジェベの項で書いたとおり、二人が長征を切り上げて成吉思汗のもとへ帰る途中、ジェベの方は死んでしまうのだが、スブタイが、ジェベの死を成吉思汗に報告した時の台詞はこの作品中でも白眉といって良い。 「彼は戦闘にも病にも殺される男ではない。命数を使い果たして死んだのだ」とか言う。いや普通にかっこいい台詞だと思うが、なんかもうとりあえずジェベのことを大好きだろうスブタイたんは。そんなスブタイたんが私も大好きだ。でも、スブタイの気持ちはわからないでもないが、この説明では、結局ジェベがどんな死に方をしたのやらよくわからないのだが…。戦死でも病死でもないなら何だというのだ。過労死? それとも憤死? 成吉思汗もわりとむりやりに納得していたようでしたよ。
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ということで、続きます。まだあるのか。だんだん日記のタイトルをつけるのが困難になってきましたよ。
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2003年07月10日(木)/毒キノコ(以下略)/蒼き狼 |
昨日の不謹慎感想の続きです。不謹慎とか称して本性をあらわした途端に登場人物を萌えキャラっぽく扱っていて大変よくない傾向であり、こういうのは感想とは言わぬ気が。
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お勧め人物単体編その2:
ベルグタイ 鉄木真の腹違いの弟。同腹の兄ベクテルがいたころは、兄の影響なのか鉄木真に反抗的だったが、兄が亡くなるとあっさり鉄木真に従うという主体性のなさそうな感じ。血族の他の者に比べると、作戦の遂行等にわずかに疎漏があったゆえに、鉄木真内で駄目な子エントリーされたかと思ったら、途中から全く登場しなくなってしまう。ないがしろにされている感じがたまらぬ。心に沁みわたるヘタレぶり。よもや行間で読者が知らないうちに抹殺されたのでは?と思って心配していたら、最後の方でちょっとだけ名前のみ登場。ああ、いたのか。この存在感が希薄な様子が美味なわけですよ。わけですよって言われても。
耶律楚材(やりつそざい) 世界史にも登場する契丹王族の末裔。契丹人だが金朝に仕え、漢族の文化風習にも通じる知識人。オゴタイ・ハーンの時代には宰相となり活躍する彼も、成吉思汗時代のこの話ではまだ占い師。占いが外れたらどうするとの成吉思汗の問いに、「可汗が欲するなら死を与えよ」などと返したりする、潔く爽やかな人柄が魅力。基本的に素朴な武辺者ばかりのモンゴル陣営に文化の風を吹き込む。 成吉思汗にあだ名をつけられた人その2。成吉思汗のあだ名問題については、稿を改めて綴りたい所存なので今はおく。
お勧め人物(複数(・・・)):
ジャムカと鉄木真 (固有名詞の順序や間に入る演算子(+、&等)は任意でどうぞ) ジャムカはモンゴルの有力氏族ジャダラン族の長。まだ力の弱かった頃の鉄木真が妻をさらわれた時ジャムカを頼り、彼の助けもあって妻を取り戻したのを皮切りに、利用したりされたりして最終的に敵対関係となり、鉄木真が勝利することになる。盟友でありライバル同士のお二人さん。 「蒼き狼」にそういう記述があるわけではないが、始めに二人が協力関係にあった頃は、大変仲がよろしかったので臥所を共にすること半歳に及んだりしている。ここでのポイントは、鉄木真の方はさらわれた妻を取り返したばかりだというところであろうか。いや、おそらくは、仲良しの友人同士は寝所を同じくするというような習慣があってそれに従ったにすぎないのだろうとは思うのだが。さらに、「蒼き狼」とは関係ないが、ゲーム「チンギスハーン4」のジャムカの顔グラフィックは、智謀に長けた策略家風の美形キャラであることも申し添えておきたい。 あと、ハリーさんは、私がこういう話をしたときに、テムジャムとか即座にジャンル名を作成し提案してくるので素晴らしく頼もしいですとても困ります。韻を踏まれても。韻とかそういう問題ではない。
というわけで、続きは次に回します。テムジャムの説明が長すぎです。
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2003年07月09日(水)/どちらにしろ、毒キノコにあたったとしか思えない。/ 蒼き狼 |
これからは蒙古で不謹慎なことをやるつもりだと何気なく表明しているわりに、昨日は思いのほか真面目に読書感想文を書いたりしており少々薄気味悪いのですが、大丈夫。萌えています。ここからが本番です。不謹慎な感想もちゃんとあります。普通にムカリたんとか言ってます。ムカリたんなどと言われても皆さんお困りでしょうが、いずれ言及するのでしばらくお待ちください。……たん…? どこが大丈夫なのか。オオオオ。
「蒼き狼」不謹慎感想↓
実はこの作品は私が中学生のころ一度読み、その時も感銘を受けたのです。そして現在、十数年の歳月を経て再読したところ、かつては同じ個所を読んでも全く思い至りもしなかったさまざまなお勧めポイントが散見されて仕方なく、このまま黙っているのが苦痛なので今ここに表出しようとしているわけですが、果たして蒼き狼とはこんな作品だったろうか? 否。作品が変化するはずはないので、受け止める側に問題があることは明白であり、なんだか、自分という人間の上に流れた歳月の長さとその重さを、驚きと戦慄をもって眺めるばかりです。昔から全く成長が見られないわりには、それなりの変化があったんだなあ。おお嫌だ嫌だ。でも楽しい。
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お勧め人物(単体):
トオリル・カン 冷たい容貌を持つ、有力勢力ケレイト部の汗。鉄木真の擁護者にして協力者にして敵対者。必要以上にたくましく成長した狼のような鉄木真に対して、こともなげに雛とか言い放つ。口数少なくクールな連中がひしめく本作品においても冷静最高峰。クールに助け、クールに戦い、クールに死んでいった。普通にかっこいい。でも高価な贈り物をされた時はとても嬉しそうにしており愛らしかった。
ジェベ タイチュウト族出身。鉄木真とタイチュウトが戦ったおり、鉄木真の馬と頸脈を射抜き鉄木真をかなりの重症に至らしめる。投降してきた際、そのことを自ら申告して居直ってみたりする不敵な若者。それが鉄木真のお気に召し、ジェベというあだ名をつけられる。意味は「鋭い矢」。ていうか本名は? 弓の名手で戦に並々ならぬ才能を発揮。多くの戦闘で先陣を切り、赫々たる戦功をあげる。スブタイとともに、逃亡したホラズム王の追討を命じられてからは、まさしくその名が示すとおり、放たれた矢のようにどこまでも駆け抜けてゆき、ついでにロシア方面を平らげた後ついに長征を切り上げて帰路につくも、その途上で死亡。登場から退場まで常にかっこよすぎなので、対外的に一番お勧めできる物件。
ムカリ 戦闘のみならず政治面でも大変有能な、成吉思汗の四駿のうちの一人。金国攻略の総司令官を任され「国王」の称号を与えられる等、大きな期待をかけられ、見事その期待に応える働きをするも、これからという時にあっさり病死して成吉思汗に惜しまれたりするあたりがお勧めポイント。果たした役割が極めて大きいわりにジェベあたりと比べると地味めなのが玄人好みでは。玄人って。
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なんか、すでに相当長いのでいったん切ります。何が何だか。
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2003年07月08日(火)/その真面目さは、毒キノコにでもあたったとしか思えない。/ 蒼き狼 |
蒙古方面について、現在一応通史らしきものには目を通したという状況ですが、当初はほとんど知識がない状態から始めたためか、一つ文献にあたるたびに自分内の蒙古観がどんどん変貌してゆくので、少し前に自分が何を考えていたのかあまり思い出せなくなってきました。もう年でしょうか。かような状況ですので、薄れゆく最初の印象を今のうちにとどめおいておくのも一興かと思い、自分内蒙古ブームの嚆矢となった「蒼き狼」について感想を述べてみます。こういった有名な文学作品にネタばれも何もないような気もしますが、一応、以下ネタばれているのでご注意ください。
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「蒼き狼」感想
モンゴルの一氏族に生まれた鉄木真(テムジン = チンギス・ハン)は、実は父親がメルキト族の人かもしれないので、自分はモンゴルじゃないのかと大変悩むが、ある時、とある老人に「モンゴル(族)は年をとると狼になる。狼になるかそれ以外になるかは実際の生まれに関係なく自分で決めればいい」みたいなことを言われ、じゃあ俺は狼になるんだと決意し、たまに弱気になることもあったがおおむねそのように生き、大陸を次々に征服していった。
というのがあらすじでしょうか。こんなひどいあらすじでは伝わらぬと思いますが、大変面白かったです。さらに、さながら叙事詩のような高い調子の淡々とした文体が、往昔の蒙古高原の雰囲気を見事に伝えており素晴らしいです。
しかしながら、そこで語られているのは、シビアな生殺与奪であったり、苛烈な戦闘であったりして厳しく荒々しいこと極まりありません。もう少し生ぬるくても罰はあたるまい。何万人も皆殺しとか、いついかなる時も淡々とした文で書いてあるので、厳しさ倍増。読んでいる私も眉間にしわが寄り厳しい表情に。 成吉思汗(チンギス・ハン)がやったことというのは、小さな氏族同士で小競り合いの絶えなかったモンゴル系の民族を統一 → 金ほか他国への侵攻という感じなのですが、モンゴル統一以前などは、攻め込んだ一族の男子のことごとくを降伏も許さずに景気良く滅し去ってゆくので、人事ながら蒙古高原の人口の激減を憂えてしまいました。もったいない。貴重な人的資源だろうに。
井上氏自らがあとがきで述べている「成吉思汗の征服欲とはどこから来るのか」という問いの答えは、やはり「蒼き狼であるために」ということになろうかと思われますが、長征を始めてからは、ほとんど故郷のブルカン山麓に帰ることなく、常に移動しながら、各地で戦闘に明け暮れるというのは、いくら本人の意思であるといっても、随分と過酷な選択をし続けているように見えます。ある程度大人になってくると、ありたいような自分であるために行動したり選択をするというのが、いかに難しいことであるかが骨身に沁みてしまうので。単に私が駄目なだけか。ほんと一体どこで間違ってこのような日記を書いているのやら。
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