僕の、場所。
今日の僕は誰だろう。
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「アンタは何にも知らないくせに」 彼女の口癖だった。 「知らないくせに。勝手な事ばっかり」 そうだね、と僕は殊勝に頷いてみせる。 だって彼女の言うとおりだ。僕は何も知らない。 すべてを知っている彼女に比べれば、無知もいいところだ。 「アンタのことなんか、アンタより私のほうが分かってるんだから」 さすがにそんな事、知っているけれど、彼女が自分から口にするのは珍しい。 どうしたのだろう。機嫌が悪いのかもしれない。 「アンタは何にも知らないくせに」 そうさ、僕は何も知らない。 ただ、確かに分かっている事はある。 僕の、彼女への気持ちだ。 僕が口にしなければ、彼女だって知りようがない。いくら彼女とはいえ、胸に秘めた想いまでは知らない。 もし彼女が知らないのなら、僕は生涯に渡って彼女に伝えないのだろう。 もし彼女が知っているとするなら、僕はいつか彼女に伝えてしまうのだ。 今のところ、この想いは墓場まで持っていくつもりだけれど。 彼女が知っているけれど黙っているのか、それとも本当に知らないのか――つまり僕は黙秘を続けられるのかどうか――は、まだ僕にも分からない。
「いい? 私は、全部、知っているのよ」
それは。 知っているんだから、アンタはいつか言うんだから、さっさと言いなさいよこのノロマ、と意訳されるものだろうか。
未来予知ができるのよ、と豪語する、彼女。
僕と彼女の未来がどうなるのか、今のところ、彼女だけが知っている。
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