2007年09月19日(水) |
あとがき。感謝を込めて。 |
長い記録を、たくさんの記憶を、読んでいただき、ありがとうございます。
あたしと彼は6年前の夏に出逢いました。 当時、あたしには夫がいて、彼には恋人がいました。
この6年の間に、たくさんの出来事がありました。 それらのことを、ひとつひとつ確かめる様に、あたしは綴っていました。
不倫という関係ではじまったこの=青い部屋=は8ヶ月で”最終回”を迎えました。 でも、離れてからも彼との関係は続いていました。
離婚したあたしにとって、彼は唯一の支えだった…。 だから、ここでひっそりと書き続けていたのだと思います。
この日記はすべて「あたしの主観」に基づいて書かれています。 彼がどう思ったか、彼が何を考えていたのか、それは省かれています。 あくまでもあたしの想いを綴って来たものです。
彼からみれば、ただのセックスフレンドだったのかもしれません。 都合の良い遊び相手だったのかもしれません。
本当は、最初の”最終回”で、終わりにするのが良かったのかもしれません。 終わりに出来たのかもしれません。 音信不通になったままにすることも出来たのに、きちんと連絡をとってくれたのは あたしの精神状態が不安定だったからかもしれません。
あたしが彼に固執していたのは、自分自身を守るため。 急に手を離されたら、当時のあたしは、進むべき道を見失ってしまったでしょう。
「そんなに、ひとでなしじゃないよ。」
その一言を信じて生きて来ました。 その言葉の通り、離れてからも連絡をくれて、逢ってくれて 迷ったり悩んだりしたときに、冷静な判断を下して、示唆してくれたのは 彼の優しさだったのかもしれない。
本人が、本当にどう思っているのか、まったくあたしにはわかりません。 そういうことを言わない人でした。
不確定な約束はしない人。 気休めは言わない人。 嘘を吐かない人。 彼はいつも同じスタンスを崩しませんでした。
だから、あたしは彼に憧れ、彼を尊敬し、彼に恋したんだと思います。 切なくて逢いたくて泣きたくて恋しくて。 忘れようと思っても忘れる事が出来なくて。
そして、ゆっくりと自分から手を離すのに、6年もの歳月を要しました。 彼の中に、あたしへの何らかの想いがあったのかどうかも、疑問です。
愛ではなかったかもしれない。 恋でもなかったかもしれない。 でも、なんらかの感情は少しくらいは持っていてくれたと思いたいのです。
当初は、アダルト小説というカテゴライズで書いていたものですので、性描写が多く出て来ます。 嫌悪感を抱かれた方には、深くお詫びいたします。
6年間分のあたしの記憶を、大切な記録を読んでいただきありがとうございました。 インターネットという世界の中にいる、 ”~*Yuu” という女性は、たくさんの方に見守られて幸せです。
リアルのあたしも、彼女のように、強くたくましく優しく美しく凛として生きていたい。 と、いつも思っています。 そして、まだあったこともない読者の方々に、いつか笑顔で会ってみたいと思っています。
2007,9,19
from. Y
抱き合うのが恥ずかしかった。
馴染まない身体。素直に反応出来ない。 記憶の中のmasayaと、今目の前にいるmasayaが別人だという認識がとても大きかった。
相変らず、彼は飄々としていて、 相変らずなところもたくさんあって、 でも小さな違いはそれよりももっとたくさんみつかって、あたしは途方に暮れる。
身体に残った記憶は、徐々に呼び覚まされる。 ああ、この感じだ…。
激しく貫かれて、掻き回されて、突かれて、快感で頭がまっ白になる。 そして、たくさんの違和感も同時に身体に刻み込まれる。 流れ出す体液とともに、あたしの思いも流れてしまうんだろうか…。
彼はどんな思いであたしを抱くのだろう。 何を考えてあたしを抱いたんだろう。 そんなことをぼんやりと思う。
「ねぇ。名古屋は3度目だね。」
「そうだねぇ。」
「たぶんそうだよ。最初は…まだあたしが結婚してた。」
「そんなこともあったね。」
「6年だね。masaya君、26歳だった。もう31歳だもんね。」
「32歳だよ。」
「そっか。32歳になったか。」
あたしはもうすぐ41歳になる。 35歳で知り合ったんだっけ?もう忘れた。
ねぇ。すぐに眠るのはあいかわらずだね。 腕枕をしながら、あたしは彼に言う。
「~*Yuuちゃんが眠るまで起きておいてやろうとか思わないの?愛がないなぁ。」
「たとえ思ってるとしても、お布団に入るとそんなことは無理なんだよ。」
「じゃぁそこに立ってみといてよ。」
「どっちにしろ、私が先に寝ることには変わりがないんだよ。」
14針のあたしの知らない傷痕は赤紫のケロイドになっていた。 身体の線はあたしの知ってる人とは別人みたいだった。 細い腕。細い手首。知らない人…なのかもしれない…。
知ってる人と知らない人が混在している。 あたしは少し混乱していた。会話をしていても不思議な感覚だった。 確かに、彼と過ごした日々のことなのに、目の前の人は第三者のように見える。
あたしは誰? あなたは誰?
睡眠導入剤を飲むと、意識が遠くなった。
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午前9時に目覚める。 午前10時チェックアウト。
たぶん、早くに帰るんだろう。 引き止める事も出来ないし、引き止めるつもりもない。
名古屋駅でコーヒーを飲んで、 あたしはたぶん、最後になるであろう彼の画像を携帯で撮った。 静止画になったら、余計に違う人みたい。
あたしの知ってる人と、あたしの知らない人が混在している。
お昼御飯を食べて、どうするのと訊くと、彼は即答した。
「そろそろ撤収するよ。」
「そだね。明日も仕事だもんね。」
駅まで送るよ。いいよ、戻るの面倒だろ。だってあたし時間あるもの。そうか。
新幹線の時刻表を見上げて、彼が言う。
「テキトーに帰りますわ。」
「うん。」
歩き出そうとする彼にあたしは言う。
「masaya君。あのね、元気に生活してください。」
「はい。てきとうに元気にしておきます。」
「また、メール頂戴ね。」
「はい。また。」
歩き出す後ろ姿を見送る。 以前より小さくなった背中を見乍ら、不思議な感覚に襲われていた。 泣くかと思ってたのに。 号泣するかと思ってたのに。
泣かない自分が不思議だった。 泣けない自分が少し嫌だった。 あたしは…記憶の中のmasayaが好きなんだ…。 そのことにはもう…気付いていた。
初めてティーラウンジで会ったとき。 車の中で抱きしめられたとき。 青い部屋に初めていったとき。 神戸までむかえに来てくれたとき。 引っ越しのときに、近くまで来てくれたとき。 離れてからはじめて大阪であったとき。 名古屋で手羽先を食べたとき。 温泉にふたりでいったとき。 横浜でスペアリブを食べたとき。 東京タワーにのぼったとき。
映像は途切れなくあたしの頭の中に流れる。 記憶はとめどなく数珠つなぎのように溢れて来る。 あたしはいつも飄々として冷静な彼が好きだった。 何を訊いても的確に答えてくれて、迷うと道を指し示してくれて それを頼りに、あたしは必死で生きていた。
1年10ヶ月。 連絡も取れずに、逢う事も出来ずに、彼のアドバイスもなしにあたしは生活していた。
もう、大丈夫。
masaya君。
支えてるつもりはなかっただろうけど、支えてくれてありがとう。 あなたに勇気をもらった。 あなたに正してもらった。 あなたに笑顔をもらった。
あたしがもっと若かったらと何度も考えた。 あたしがもっと綺麗だったらと何度も考えた。 あたしがもっと魅力的だったらと何とも考えた。 あたしがもっと…もっと…。
以前より小さくなった背中を見ながら、あたしは思う。
「バイバイも言えなかったよ。」
masayaのことはたぶん、忘れないんだと思う。 忘れるんだろうか?記憶は薄れるんだろうか? 出来損ないのあたしの脳味噌のことだから、きっといつもバッググラウンドで再生し続けるんだろう。
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一通のメールから始まった。
「こんにちわ。masayaといいます。 メッセージ見ました。」
いま、まだ、鮮明なあなたの記憶。 記憶の中のmasayaは、まだ青い部屋で微笑んでいる。 微笑み返して、あたしは
歩き出す。
=青い部屋=
Fin
世間は三連休。 あたしはこの日は仕事で、残り2日で連休をとっていた。 少しだけの期待を込めて。
でも、その期待も水曜日のメールでなくなった。
「土日の休みさえ危ういよ。」
そか。そうなのか。
夕方の休憩に煙草を吸っていると、携帯にメールが届いた。
え?
「…終わった。」
ん?
「それは明日はお休みということですか?」
「そうです。」
「あたしはどうしたら?」
「さあ?」
…相変らずだね。
逢いたいと思っていた。ずっと。
一昨年の11月、最後に後ろ姿を見送ってから、あたしは彼の姿を見ていない。 何度か電話で話したきりだ。
倒れたんだ。病気になったんだよ。大変だよ。
嘘じゃないかと思った。 本当は逢いたくないから、そういうのかもしれないと、心のどこかで思っていた。 どちらにしろ、あたしは確認しなければならない気がしていた。 自分の事。彼の事。
生憎、仕事はラストまでで、しかも彼は車を修理に出しているらしい。 どう考えても、最終の新幹線にも間に合わない。
「じゃぁ、名古屋で。」
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仕事を終えて、いったん家に戻って支度をする。 彼に逢う為に新幹線に乗るのは、どれくらいぶりだろう。 不思議と嬉しい気持ちは沸かなかった。 自分で決着をつけなければ、あたしは前に進めない。
新大阪21時58分発。 のぞみに乗ると、名古屋までは1時間足らず。 彼はもう下りの新幹線に乗っているんだろう。
あなたは何を考えているの?
名古屋駅近くのビジネスホテルの予約を入れたらしい。 少し前に着いた彼は、居酒屋に居るらしい。
22時49分。のぞみ54号、名古屋駅着。
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新幹線口を出てすぐの居酒屋に彼は居た。 さんまの刺身とエイのひれと、枝豆と、そしてビール。
…別人のように痩せている。
そんなでもないよと、笑う彼を正視出来ない。 あたしの知ってるmasayaとは違う人みたいだ。
あ、あたし。緊張している。すごく。
飲まないカクテルを2杯飲んで、少しだけ食べ物を食べて 日付が変わる頃に、ホテルへ移動する。
手を繋いだ。 あたしは左手で、彼の右手を取る。 ポケットに入っていた右手が、自然に外に出た。
柔らかい、指。 そして、細い。 この人はこんな指をしていたのかしら? 曖昧な記憶がもどかしくて、少しだけ泣きたくなる。
あたしはこの1年10ヶ月の、彼の変化を全然しらない。 彼もあたしの1年10ヶ月を知らない。 それが現実。
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