球界内外から総スカンを食らい、球団発表から僅か5日で白紙撤回というドタバタ劇に終わった近鉄球団の球団名の命名権(ネーミングライツ)売却問題だが、改めて考えてみると、この問題は極めて複雑な下地を前提として成り立っている問題である。平たく言えば、近鉄の名前を売ろうとした近鉄球団の暴走、という一次元的な問題で終わらせてはいけない問題だと思うのだ。 この問題を論じるとき、「なぜ近鉄球団が球団名を売ろうとしたのか」という問題から視点を掘り下げていく必要がある。近鉄球団は球団名を売らなければならない程に財政が逼迫しているのか。そうであるならば、わずか3年前にリーグ優勝にまで上り詰めた球団がなぜそこまでの状況に追い詰められているのか。ダイエーの問題もある以上、球団財政の問題は近鉄球団だけの問題ではない筈である。ここからスタートしなければならない。 これまでの日本球界は、横浜ベイスターズ以外の球団名に企業の名前が冠せられていることが示しているように、特定企業やその関連企業の所有物であるという認識が強かった。渡邊恒雄・巨人オーナーは、原辰徳前監督の辞任会見の場でそのことを「読売グループ内の人事異動だ」と答えた。この発言は、親会社が球団をどう捉えているかということ、球団を所有することに対する親会社の意識を端的に示していると思う。 球団は親会社の所有物であるが故に、球団の収支は独立採算とは程遠く、球団が出した赤字を親会社で補填するということは珍しくないと伝えられている。球団代表やオーナーには親会社から出向してきた人間が就き、スポーツビジネスのプロとは程遠い人材がどんぶり勘定で築いた収支を親会社で補填する、という球団経営の悪習慣が球界の構造をイビツな形にしてきた。 球団を所有する親会社の羽振りが良い時代なら、その程度のいい加減な球団経営でも成立させてこられた。しかしダイエーの問題に象徴されるように、親会社が球団を所有物として扱い、営業媒体や宣伝媒体の域を出ないままおざなりの経営を続けるという日本独特の惰性的球団経営は、不況の煽りを受けて行き詰まりの様相を見せてきた。 それぞれの球団に、本当の意味での球団経営がやっと求められる時代が到来したと言える。球団それ自体が独立採算制を敷き、期限と目標をきっちり定めた経営計画に基づき球団を運営し、それぞれの達成責任を明確にする。横浜ベイスターズのファームである湘南シーレックスが暗中模索してきた体制を、多くの球団もこれから求められていく。そうならざるを得ない状況になったと言ってもいいだろう。 一般社会でごくごく当たり前に行われてきた経営が球界にも求められてきたということは、短期的に見ればダイエー問題のような膿を噴出させるきっかけだが、長期的に見れば正常な経営体質による正常な経営を徹底させるカンフル剤とも言える。これまでの状況があまりにも異常だったことを考えれば、そのことは肯定的に捉えられてもいいことの筈である。 球団独自の経営努力が、真っ当に求められるということである。俗っぽい言い方をすれば、自分で稼いで自分で食べていく身の丈に合った自己責任の徹底という、ごくごく当たり前のことだろう。 そこで話は近鉄の球団命名権売却問題に戻る。近鉄は球団名を売るという自助努力をしなければならない状況にある、と考えることができる以上、これは相当な選択だった筈だ。 世間では近鉄の下した判断はさも安易だったように言われている。それは確かに事実ではあるが、そこに至るまでの過程というものに想いを巡らすならば、一口に安易という言葉で片付ける訳にはいかない。この問題は球界全体に対する問題提起でもあるからだ。 近鉄はネーミングライツに年間36億円の価値を見出していた、とマスコミ報道では伝えられている。36億円という金額は、球団の抱える全選手の年俸を賄える金額である。巨額な金額であることは間違いないが、今回の件で近鉄球団が注目されたことの広告費用対効果から考えれば、リーグ優勝時の宣伝効果が300億円以上と言われている以上、叩き売りにも近い金額であると言える。 企業が球団を買収し球界に新規参加する場合、30億円という加盟料を球界に納めなければならない。この30億円という金額はゴルフ会員権と同じようなもので、参加費以上の意味は存在しない。 現在の経済状態を考えれば、参加費だけに30億円もの大金を右から左に動かせる企業はそうそうないと思われる。しかし、球団名に企業名が使われ、グッズ等の露出効果まで含めて考えれば、球団名の買い取りは球団そのものの買収に匹敵する宣伝効果を期待できる。30億円の加盟料を素通りした上で買収と同等の宣伝効果を得られるなら、ネーミングライツ年間36億円は叩き売りに近いという算段は立つ筈で、少なくとも買い手にとっては旨味のある話だ。 身売りの話は以前から囁かれていたが、買い手がないことにはどうにもならず、最終的に売却先が見つからないことにはイメージダウンという負の遺産だけが残る。運営費を稼ぎ、売却のトラブルも避けるという、その落とし所がネーミングライツの売却だったのではと思うのだ。 球団名を売り飛ばすその手法は、結果としてファンの心理を傷付け、球団のイメージを逆に貶めたという評判に直結した。確かにその手法は浅はかだったと言わざるを得ないが、目論見が事前にリークし、引っ込みがつかなくなったところで急遽発表するという、極めて不自然な強引さを生み出したイレギュラーが火に油を注いだのも事実だろう。 手法の問題は大きかったが、大局的に見れば、球団が独立採算という理念の上に立ち、親会社の庇護から脱却し、なりふり構わなくても自助努力の手段を模索したという事実は評価する必要があるのではないだろうか。 現状では全く自助努力の必要がない巨人の渡邊オーナーが猛烈に反対したことで、ネーミングライツ問題は近鉄にとって急速に旗色が悪くなった。球団発表から5日後の撤回という急転直下的スピードの中で、この問題の根本的下地が表舞台に晒されず、渡邊オーナーの威光だけが印象として色濃く残った。この事実は、近鉄球団の浅はかさという一次元的な問題よりも遥かに大きい、抜本的で多次元的な問題だった筈である。 特定の球団を除き、真っ当な自助努力に基づく経営態勢が求められる球団は、これからどんどん表舞台に晒されていく筈である。選手の年俸高騰と無関係でないこの問題は、有力選手獲得に大金が動かされ続けているアンバランスな現状と相俟って、球界全体の首をジワジワと、しかしはっきりと絞めていくと言っていい。メジャーへの選手流出が止まらない背景にも、この問題は強く影響している筈だ。 親会社という殻が外れないまま経営努力という抽象的過ぎる言葉を並べたところで、運営の限界が目の前に迫っているという事実からは逃れられないということを、近年のダイエーや今回の近鉄は如実に示した。この問題はつまるところそこに行き着くのだが、渡邊オーナーが睨みを効かす中、その問題には今回も触れられることなく終息してしまった。 近鉄球団の命名権売却という方法論は、確かに問題だった。しかしこの問題を論じるならば、真っ当な球団運営、つまりは親会社の縛りを外し独立採算制の下地を球界全体で作るという議論が必要不可欠である筈だ。その問題が論じられなければ、この問題にピリオドを打つことは許されないことである。 今回の問題は、近鉄球団だけの問題ではなく、球界全体の問題として捉える必要がある。近鉄球団の無策さを笑い、目くじらを立てているだけでは、実際問題として何の解決にもならない筈だ。1つの球団が消えるということは、その球団だけの問題ではなく、球界全体のプライマリィバランスの崩壊にも直結していく。 近鉄球団が今回示した警鐘を改めて全体で問い直す必要があるのではないか、と思うのだ。様々な次元から捉え、根本から掘り起こしていくことこそ、今回の件で求められていることだろう。
<投手分析> 先発……三浦、斉藤、川村、吉見、門倉、マレン、牛田、若田部、秦 右中継ぎ……加藤、デニー、木塚、吉川、田崎 左中継ぎ……富岡、稲嶺、河原 クローザー……佐々木、ギャラード キャンプイン直前に飛び込んで来た、“ハマの大魔神”佐々木の日本球界復帰というビッグサプライズ。キャンプイン後の2月2日、佐々木は古巣の横浜に復帰を発表したが、日本一になった98年の象徴的選手だけに、佐々木の復帰が昨期軒並み討ち死に状態に陥った実績組の刺激剤になれば面白い。 昨期8勝してチーム最多勝のドミンゴが中日に移籍し、もう1人の規定投球回数到達投手であったホルトも退団。規定投球回数に達した投手がゼロの状況で今年の開幕を迎える訳なので、実績組の奮起はなければ困る話。昨期100イニング以上を投げた三浦、斉藤、川村の3人は、佐々木と共に98年の美酒を味わった実績組の代表格。このうち最低2人は主戦級の働きをしてくれないと、そもそもローテーションが機能しない。 門倉、マレン、牛田という新戦力に対する期待も大きいが、貴重な先発左腕で昨期の開幕投手だった吉見の復活も不可欠。吉見に目処が立たなければ、左腕全体の層の薄さは言い訳できない状況として映るようになる。秦、後藤らの横須賀組も足踏み期間が長く、期待感が萎みかけているだけに、吉見が戦力になるかどうかは先発全体の大きな分水嶺になりそう。 リリーフ陣も左腕の手薄さが気になるが、右に力のある投手が揃っており、ワンポイントというセコいことを言わなくても押し切れる地力はある筈。昨期1年目から台頭した加藤を中心に、デニー、木塚も復調すれば、力で押せる豪腕サイドハンドトリオを結成できる。田崎とルーキー吉川は角度のある速球とフォークで三振を奪えるタイプの投手で、左の手薄さを感じさせないリリーフ陣を組む層はあると見ていい。クローザーは佐々木の復帰で収まりそうだが、ギャラードとの兼ね合いという新たな問題が浮上。昨期ギャラードが中日を飛び出した経緯もあるだけに、違った意味で難しい状況だ。 診断……先発陣は実績組の復調次第。年齢的にはまだ老け込む段階ではないだけに、1人飛び出せば連鎖反応的に復調する可能性もある。98年の実績組3人で40勝以上稼げれば文句なく、またそれだけの地力もある。右が充実したブルペンは、佐々木という求心力がいい方向に働きそう。ギャラードがセットアッパーの座を呑めば大充実の兆しもあるが。 <野手診断> 1(中)金城 2(遊)石井 3(左)鈴木尚 4(一)ウッズ 5(右)多村 6(二)村田 7(三)古木 8(捕)相川 9(投) 控え 捕手……中村、小田嶋 内野手……内川、種田、小川、万永、北川 外野手……佐伯、田中一、小池、 リーグ2位に大躍進したチーム本塁打192本を長所と捉えるべきか、リーグ最多の1110三振、逆にリーグ最少の314四球という弊害を生んだものと捉えるか、それだけでオーダーを組むベクトルというものが変わってきそうだ。山下監督が今年も指揮を執るので、恐らく長打力というベクトルを今年も大事にしていくと思うが、まだ発展途上の打線だけに今年も我慢比べを強いられることになりそう。 発展途上の象徴的選手が村田と古木。村田が25本塁打、古木が22本塁打と、若い2人で47本塁打の長打力はチームカラーを一気に塗り替えつつある。反面、村田が.224で111三振、古木が.208で131三振と、悪い方面で象徴的選手になってしまっているのも事実。守備面でも失策が多く、村田14、古木20と度々投手の足を引っ張った選手を内野に2人並べるのは勇気のいるところ。 チームがこれだけ低迷状態に入っているだけに、爆発力を持ったこの2人は我慢してでも使っていくべきだというのが個人的な結論。昨期は山下監督も序盤はこの2人に期待をかけていたが、中盤〜終盤にかけてはベテランの種田や小川の起用に切り替わり、低迷状態でさらにチームのスケールを小さくしていた。村田と古木には、まだ伸び代を存分に残しているポテンシャルがあるので、今年はその我慢比べに屈してほしくはない。古木の守備力を考えれば、外野に欠員が出た場合は即外野に回すのがベター。 外野は多村の成長と金城の復活で格好がついてきた。鈴木尚の守備力は頭痛のタネだが、チーム随一の安定感を誇るバッティングは長打力の目立ってきたチームの中で貴重な楔役。内野は昨期打率最下位まで落ち込んだ石井の復調次第。内川が打撃で成長を続けている現状、そろそろ石井のレギュラー特権を剥奪しにかかってもいい頃合だ。捕手は相川に期待。打撃とインサイドワークでは足踏み傾向が見られるが、昨期の盗塁阻止率.457(35-16)は見事な数字。昨期のチーム許盗塁数はリーグブービーの80で、中村は6球団レギュラー捕手最下位の盗塁阻止率.250だった。 診断……大袈裟に言えば、村田や古木と心中できるかでチームカラー、ひいてはチームの将来まで変わってくる。昨期は心中しきれず、安定志向に傾きながらもシーズン100敗かというところまで追い詰められた。ウッズが40本塁打でキングに輝いたが、タイプ的には2年続けて同じ活躍ができるかアテにできない怖さがある。アテにできないのは若い2人もそうだが、ここで腹をくくれるか、山下監督にとっては勝負になる筈だ。 <総合診断> 投手では実績組に対する期待が浮沈を握り、野手は若い大砲2人がチームの未来像を担うという構図。2年続けてどん底を味わったが、個人的な感覚で言えば、そこまで悲壮感のある開幕前ではない。佐々木の復帰が、その感覚を後押しする期待感もある。これは監督やチームの色による部分も大きいが。 冷静に考えれば、計算の立たない怖さは確かにある。しかしチームの歯車は、たった一滴の刺激で途端になめらかになったりすることがあるのも事実。佐々木ばかり引き合いに出されるのも困るが、佐々木はただの一滴ではない大きさがある。大魔神という存在で後ろが固まっただけでも、個人的には何だか“いい予感”がする今年の横浜だ。
<投手分析> 先発……黒田、デイビー、ブロック、佐々岡、高橋、長谷川、河内、鶴田、大竹 右中継ぎ……天野、小山田、玉木、澤崎、林 左中継ぎ……仁部、菊地原、広池 クローザー……永川 完封数は黒田、高橋で1つずつの計2だが、完投数はリーグ2位の18、無四球完投がそのうち8だから、1人で試合を作れる先発は揃っている。12球団トップの無四球完投4を挙げた黒田は13勝9敗と大勝ちできないタイプではあるが、防御率はリーグ3位の3.11と安定感で一枚剥けた感がある。この黒田を中心とする先発陣はある程度の計算が立ちそう。 デイビー、ブロックの両外国人投手は2年目で上積みの余地が存分にありそう。ブロックは昨期リーグ最多の11ボーク、1試合で3ボークという試合もあった程のボーク癖があるが、昨期終盤にはそれなりに改善されていた。ピッチング内容も安定感が見え始め、ピッチングのテンポがいい点は評価が高い。佐々岡、高橋の両ベテランが脇を固め、残りの椅子を長谷川、河内、大竹らで競えば構成的なバランスも取れてくる。 リリーフポイントチーム最多が天野の7.50という中継ぎ陣は、去年も不安を払拭できないままシーズンを終えた。広島のブルペンを支えてきた玉木にキレがなくなり、一昨年はクローザーとして頑張った小山田が完全に失速。左で仁部の加入は相当に大きいが、仁部1人でブルペンを回せる筈もなく、何人でも上積みが欲しい状況。ここ数年は2年続けて好成績を残す投手があまり出てきていないというブルペンのジンクスを考えると、天野の安定感にも今年は一抹の不安がある。全体で底上げして、個々の負担を細分化していかない限り、このジンクスは継続されていく可能性が高い。 昨期ルーキーながら25セーブと頑張った永川は、今年もクローザーとして機能できそう。防御率3.89はクローザーとして不安だが、適性が高いのは間違いなく、2年目の今年は大きく化けてもおかしくないポテンシャルがある。永川が「ブルペン2年連続のジンクス」にはまらなければ、その前の遣り繰りはある程度楽になる筈だ。 診断……上積みの余地を残していそうな投手が多く、その部分は楽しみもある。先発の高齢化傾向は、備えができているだけに心配の要素より構成的なバランスの良さということでいい方向に捉えられる。不安のタネはやはり中継ぎ陣。左右ともに軸不在で、永川に繋ぐパターンをどう確立させるかが今年も課題になる。 <野手診断> 1(右)森笠 2(二)木村拓 3(中)緒方 4(三)新井 5(左)前田 6(遊)シーツ 7(一)浅井 8(捕)石原 9(投) 控え 捕手……木村一、西山 内野手……ラロッカ、岡上、栗原、野村、尾形 外野手……福地、廣瀬、町田、末永 結果的には金本を失った煽りをモロに食らった新井の大失速、それが最後まで打線に暗い影を落としていた。中盤から4番に固定されたシーツは.313、25本塁打とその役割を充分こなしたが、“代役4番”というイメージが拭えなかったのも事実。チーム打点539はリーグ最下位で、チーム打率も最下位の横浜と1厘差ブービーの.259と、全体的に打線がうまく機能しなかった感がある。 新井1人が泥を被るような格好になってしまったが、今年も新井を4番で期待したい、と言うよりも現状の広島で4番候補と言えるのは新井以外にいない。規定打席到達者ブービーの打率.236、規定打席到達者日本人リーグ最多の120三振、リーグ最多の16併殺打、規定打席到達者で最低の得点圏打率.193と、あらゆる部分でミソを付けた感のある昨期の新井だが、この経験と屈辱を全てバネにして、今年もう一度4番の座にトライしてほしい。少なくとも今年は“与えられた4番”にはならない筈だ。 リードオフマンが固まらなかったのが、もう一つの悩みのタネ。森笠、福地、末永、木村拓と候補はいるが、帯に短し襷に長しという選手揃いでもう一つ決め手に欠けるというのが印象。どの選手も走力があり、木村拓を除く候補は打力で一皮剥ければ固定されるチャンスはある。昨期のチーム盗塁数80はリーグ2位で走る機運が上昇カーブの現状、走れる選手は揃っているだけに競争は激しくなりそうだ。 一軍半の選手も含めて、全体的にはっきりした長所のある選手が揃っているチーム状況である。ただ、そのように期待感ばかりが先行して、実際に実った果実が現状の危機感に追い付いていないという現実もある。昨期の最大連勝がたった4で、これはいい状態を長く維持できない地力の弱さを表している。選手毎の役割をある程度固定していくのも、今年の大きな課題になりそうだ。 診断……全体的な層の厚さはあるが、それがなかなか地力に繋がらない不思議な状況に陥っている。今年はポジション争いの中で、ある程度役割を固定していった方がよさそう。緒方や前田の耐用年数はここ数年言われていることだが、現実的にそれを脅かす選手が出てきていないのは、チーム全体に“器用貧乏”というイメージが漂っている感。大袈裟に言えば、新井ぐらいに不器用な選手と心中するぐらいの覚悟があってもいい。 <総合診断> 戦力的に致命的な不足があるのは中継ぎ陣ぐらいだが、連勝の少なさもあって大勝ちするイメージが沸きにくくなってきている感がある。FAで失った江藤、金本らの幻影はとっくに断ち切れているだろうが、その穴を埋めるのか新たなチーム像を確立していくのか、それぐらいはそろそろはっきりしてほしい。 リーグ最多の92失策を数える守備の不安も払拭しきれていない。完投は多いが完封が少ない先発に象徴されるように、弱いイメージもないが強いイメージも沸きにくく、現状のままでは5位という順位だけがイメージに沿っている。投打共に、強さに芯を加えるという課題が大きく立ち塞がりそうだ。
<投手分析> 先発……石川、ベバリン、鎌田、坂元、石堂、高井、館山、マウンス、川島 右中継ぎ……五十嵐亮、河端、佐藤秀、花田、成本 左中継ぎ……山本、山部、佐藤賢 クローザー……石井 開幕早々にエース藤井とリリーフの切り札石井を欠き、開幕投手のホッジスが絶不調で計算できないという圧倒的な逆風下、それでもチーム防御率はリーグ3位の4.12。規定投球回数に達したのは石川1人で、リリーフポイントはリーグ2位の80.35と、ブルペンの踏ん張りが目立った投手陣だった。 先発の頭数は揃っているが、現時点でその座が確定しているのは昨期190回を投げて12勝の石川のみ。開幕直前に獲得したベバリンが前半踏ん張って8勝したが、中盤から捕まる傾向が目立ち始め、故障も含めて考えれば横一線の争いに組み込みたい状況。安定感ある鎌田、終盤に4勝して一気に頭角を表してきた石堂、高校卒1年目から102イニングを投げて5勝の高井、三振の取れる坂元と、伸び代に余裕のある先発候補が揃い、新加入のマウンスと川島まで含めれば、近年とは全く違う先発ローテーションを確立させる楽しみはある。 気になるのは、完投能力を持っている投手が絶対的に不足していること。昨期のチーム完投数は石川3、鎌田2の計5で、これは一昨年の8を下回るリーグ最下位。完封に至っては鎌田の2のみで、1試合を全て任せられる投手がいないのは現実的な悩みのタネ。外国人投手は6回100球までというタイプが伝統的に多く、期待の若手も慢性的な故障や体質の弱さを抱えた選手が揃っている。自由獲得枠の川島も右肩を痛めており、状態次第では完投を望めない候補がまた1人、ということになるかも。 そんな先発陣の煽りをモロに受けているのがリリーフ陣。昨期は石井が前半離脱したことで五十嵐亮が孤軍奮闘、66試合で74イニング登板は相変わらずの回転率だが、防御率3.89と肝心なところでのポカが目立った。石井は復帰後36試合登板で6勝1敗、防御率1.99と力を発揮したが、今年は高津の抜けたクローザーに回る公算が大きく、中継ぎの層をどれだけ分厚くできるかが勝負になる。 右では花田、河端らに計算が立ちそう。石井が後ろに回る左は山本、山部と安定感ある投手が揃い、そこに今年は即戦力候補の佐藤賢が加わり、質・量ともに戦う態勢は整いそう。今年もブルペンにかかる負担が大きそうだが、ここがヤクルト投手陣の生命線。その働き振りがそのまま順位に直結するほどの大きな要素だ。 診断……先発の頭数は揃っているが、リリーフにかかる負担は今年も大きそう。これまでは高津がブルペンを引っ張ってきたが、五十嵐亮、石井は緊急時にクローザーに回ったときの成績は良くなかった。高津の役割はどちらかがこなすことになりそうだが、プレッシャーに押し潰されて本来の力を発揮できなければ算段が大きく狂う。 <野手診断> 1(右)稲葉 2(遊)宮本 3(三)岩村 4(左)ラミレス 5(一)鈴木 6(捕)古田 7(中)真中 8(二)城石 9(投) 控え 捕手……福川、米野 内野手……土橋、野口、三木、度会 外野手……宮出、志田、青木、マーチン ペタジーニが抜け、開幕戦で岩村が手首骨折し夏までリタイア。それでもチーム打率.283、チーム打点649は共にリーグ2位とよく打った。三振907はリーグ最少と、各打者が繋ぎの意識を捨てずに状況に応じたバッティングをしながら、長打率.438はリーグトップと、油断すればドカンと花火が上がる野球偏差値の高さは去年も健在だった。 新戦力の加入はルーキー青木、新外国人マーチンぐらいで、特に目を引く加入はない。今年も4番にはラミレスがドッシリと座り、その脇を岩村、鈴木、古田で埋める中軸は隙がない。土橋に切り札としての怖さが甦り、どこからでも点を取れる抜け目のなさは今年も存分に発揮しそうだ。 安定感はあるが、それと引き換えに今年も若さの注入が気がかりな点として残る。外野は宮出が剛柔備えたバッティングで一皮剥けた感があり、早稲田黄金期を支えた青木も即戦力としての期待は充分だが、内野は岩村以外の若さが今年も不足している。 チームの大黒柱である古田も含めて、まだ今年はこのオーダーでもつだろう。だが、昨期カムバック賞を獲得した鈴木の大爆発が、逆に野手全体に足りない若さという要素を更に色濃くしたのは何とも皮肉。まだギリギリで時間的な猶予は残っているこの段階、スタメンが実力派揃いで決断に勇気はいるだろうが、そろそろ数年先のビジョンに目を向けてもいい頃合だ。 診断……現時点の主力に安定感はある。この状況下で次代の備えを進めていく難しさは、これまでのツケと考えるしかない。今年1年を見れば強力な打線であることは間違いないが、いい加減に肉を斬らせて骨を断つような選択肢は考えていかねばならない。若松監督にとっては難しい1年になりそうな気がする。 <総合診断> 投手は計算の難しい投手を競わせる楽しみがあるが、それと背中合わせのギャンブル性もある。野手は逆に、安定した戦いができそうな安心感があるが、それと背中合わせの危機感が近い将来に転がっている。投打共に両立させねばならない面があるということで、現状ではキャンプ、オープン戦の期間が極めて重要な意味を持ってきそう。 どちらにも共通しているキーワードは、「使いながら試す」ということ。その意味では、名前以上に不確定要素の強いシーズンになる可能性もあるが、これは決して二律背反ではない。投手なら佐藤賢、野手なら青木のルーキーコンビがいきなり頭角を現せば、チーム全体の空気がガラリと変わる起爆剤になるかも。
<投手分析> 先発……上原、木佐貫、工藤、高橋尚、林、久保、桑田、真田 右中継ぎ……シコースキー、三沢、サンタナ、鴨志田 左中継ぎ……前田、岡島、柏田 クローザー……河原 投手陣の崩壊ということは、昨年の序盤から散々言われ続けていた。結局はその状況を改善できないどころか、シーズンが進むにつれてどんどん泥沼に沈んでいった感すらある。昨期のチーム防御率4.43はリーグブービーだが、その要因は終盤に度々試合をブチ壊したリリーフ陣によるものがほとんど。 それだけに先発陣はしっかりしている、と言いたいところだが、実際は16勝の上原と新人王右腕の木佐貫という、昨期規定投球回数到達の2人以外は計算しにくいというのが本音。上がり目を残している候補は久保、林、真田といるが、久保はキャンプ入り直前の故障で開幕には間に合いそうになく、真田も去年の伸び率に不満がある以上はアテにしにくい部分がある。久保が一人抜けるというだけで、印象が大幅に変わってきた感があるというのが本音。 高橋尚は計算が立てやすいタイプだが、大幅な貯金を望めるタイプでもなければ200イニング投げるタイプでもなく、2〜3番手というポジションではない。林には実質2年目のジンクスが迫り、工藤と桑田の大ベテランを計算に入れるには抵抗がある。後退要因はいくらでも挙がるが、上積みを望める希望には乏しく、自由枠獲得の内海も故障上がりということで1年目からは活躍が難しい状況。目立った戦力補強もなく、ローテーションを6人組むだけで精一杯、という感すらある。 昨期ボロボロのリリーフ陣は、ロッテからロングリリーフ可能な快速右腕シコースキーを獲得し、連投可能で古巣復帰の三沢の加入も大きい。去年は1人も計算できる投手がいなかっただけに、この2人の加入は大きな恵みをもたらす筈だが、それでもまだまだ危機的なブルペンであるという状況は変わらない。堀内監督はクローザーを河原の復活に賭けているようだが、昨年の惨状を見れば計算に入れるのは無理がある。若い鴨志田、酒井らの成長がなければ厳しい状態で、クローザーも試行錯誤を繰り返す必要がありそう。 診断……上原という大エースはいるが、それに続く投手は力量的に木佐貫以外アテにできない部分が大きい。昨期のチーム完投26は圧倒的トップだが、それはリリーフを出せないというネガティブな意味によるもの。そのリリーフには若干厚みが出たが、河原の復活も含めたビッグサプライズがいくつも起きない限り、状況的にはアテにできない面ばかり目立つというのが正直なところ。 <野手診断> 1(遊)二岡 2(中)斉藤 3(左)ローズ 4(右)高橋由 5(三)小久保 6(一)ペタジーニ 7(捕)阿部 8(二)岩館 9(投) 控え 捕手……村田、原 内野手……清原、江藤、仁志、元木 外野手……清水、井出、三浦、鈴木 各スポーツ紙が報じたり堀内監督が示唆してきた超重量打線から、かなり外れた構想を練ってみた。正直言って、どこをどう考えても選手が余るかバランスが極端に悪くなるという野手状況。控えでも充分にスタメンが組めそうな状況は、戦力の充実とは言わない。戦力が飽和し切っている。巨人への戦力集中が問題視され始めて以来、もっとも肥満体の状況だろう。 兎にも角にも、戦力のネームバリュー的に強力なのは疑い様がないところ。投手陣に不安があるだけに、ペタジーニをファーストに回し、斉藤を打てる2番としてセンターに置いてみた。ペタジーニをレフトに入れて清原をファースト、高橋由がセンターでローズがライトという布陣からはそれなりに守備力を上げてみたが、それでもこのオーダーだから打力はズバ抜けている。 ディフェンシブにオーダーを組んでも、名前の攻撃力だけは段違いだけに、極力センターラインを締めて、打線に楔を打っていきたい。ルーキー岩館の抜擢はその為で、内野をどこでも守れる一級品の守備力に加え、井端(中日)や辻(元西武)を彷彿とさせる粘りのライトヒッティングは、現在の巨人では貴重な戦力になる筈。セカンドには堀内監督がリードオフマンに再指名した仁志がいるが、一発長打にこだわる仁志のバッティングは現在の巨人打線で旨味が少ない。 巨人が90年代前半に本当に強かった時期、チームには川相(中日)という素晴らしい「2番・ショート」がいた。現在の巨人では、岩館に対する価値観は「内野の便利屋」という域を出ない可能性が高いが、あの頃の隙を見せない強さを取り戻すには岩館の存在は貴重だと思い、敢えて開幕スタメンで期待してみた。 診断……清原やペタジーニ等、超長距離砲打者をズラリと並べるオーダーを組んでくれれば、シーズンという長いスパンで見れば逆に他球団は楽になる公算が大。堀内監督が超重量打線にこだわるのは、本気か三味線か。その違いだけで怖さの印象は随分と変わってくる筈。戦力があり過ぎるだけに逆に組し易い、という脆さが現時点では目立つ印象。 <総合診断> 投打共に圧倒的な物量を持っているようで、計算の立たない足腰の弱さばかり目立つと言うのが本音。もっとスリムになった方が逆に怖さが目立つとは思うが、このメンバーでキャンプに入った以上は、いまからどうこういっても仕方ない。この窮屈な中でやっていくしかないのだから、難しいシーズンになるのは避けられないだろう。 どれだけ選手がいてもグラウンドには9人しか立てないだけに、圧倒的な物量作戦で押し潰せるというものではない。戦力が分厚いのは確かに強みだが、それが逆に身動きをとれなくして自滅するような、そんな危なさを今年の巨人は一段と内包しているように見えて仕方がない。杞憂に終われば、どこかのアナウンサーが言うように150勝してもおかしくないのだが。
<投手分析> 先発……川上、平井、野口、山本昌、岡本、ドミンゴ、紀藤、平松、佐藤、朝倉 右中継ぎ……落合、遠藤、バルデス、川岸、正津 左中継ぎ……山北、小笠原、久松 クローザー……岩瀬、石川 昨期のチーム防御率3.80はリーグ2位だが、リーグブービーの完投6、最多投球回数が大ベテラン山本昌の156イニングと、シーズン前に磐石視されていた先発陣はもう一つ力を発揮できなかった。川上、朝倉の右腕2枚がシーズン前半で故障リタイアし、左腕エースの野口が防御率4.55で9勝11敗と借金2つ、バルデスも先発では結果を残せず、中盤からは中継ぎに回さざるを得なかった。 その中で、オリックスから移籍した平井が抜群の安定感で12勝(6敗)、防御率もリーグ2位の3.06と大健闘したのは大きかった。中盤から先発に固定された岡本も4勝(6敗)ながら97投球回で79被安打96奪三振と結果を残し、山本昌に並ぶ大ベテラン紀藤が7勝(8敗)とローテーションを下支えした反発力は見事。故障組の復調にかかる部分は大きいが、その逆風下でも先発ローテーションを崩壊させなかった地力は強い。 今年は川上がキャンプ初日から147kmを投げ、後がない川崎も初日の紅白戦で登板と、実績組の調整は順調にきている模様。名前は充分に揃っているだけに、フルメンバーでローテーションを組めば何人か余るだけの層の厚さがある。ルーキー佐藤ら新興勢力の台頭もあれば、落合監督も嬉しい意味でローテーションに頭を悩ませそう。 リーグ最多の90.90リリーフポイントを挙げたリリーフ陣は、クローザー大塚が抜けても強力な陣容。右で落合、遠藤が軸に立ち、左では日本球界最強のリリーバー岩瀬がいる。この左右の両輪を支えるメンバーも力のある投手が揃い、現時点で大きな穴は見当たらない。大塚の穴は岩瀬で十二分に埋まるだろうが、ルーキーの石川がそこにはまれば鉄壁。八戸大時代はクローザーとして大学選手権ベスト8入りを支えた豪腕で、岩瀬をその前にもっていければ相変わらずのジョーカーとして機能する。そうなると手の付けられない構成になりそうな感。 診断……実績組が復調すれば文句ないレベル。全体的な層の厚さがあり、どこかが多少ほころんでも手当てはすぐ可能というのが強い。唯一替えが利かないのは岩瀬だが、昨期は少なかった完投数が増えれば自然と岩瀬の負担も減る筈。現時点で弱点らしい弱点はないと見る。 <野手分析> 1(左)大西 2(遊)井端 3(中)アレックス 4(右)福留 5(三)立浪 6(捕)谷繁 7(一)筒井 8(二)荒木 8(投) 控え 捕手……中野、田上、小川 内野手……渡邊、川相、森野、高橋、前田 外野手……関川、蔵本、井上 いい加減に「4番・立浪」からは脱却したいところだが、結局は去年も最終的には「4番・立浪」に落ち付いた。開幕4番のアレックスは.294、21本塁打とそこそこの数字を残したが、打点65とチャンスに弱く、打つ時期と打たない時期がはっきりしているムラっ気も4番として気になるところ。とは言え、他にすぐあてがえそうな候補が見当たらないのも事実で、そのことが立浪を4番に置き続けている理由であることは間違いない。 ならば今年は、いっそのこと福留を4番に据えた方がいいのではないだろうか。タイプで言えば3番に近いイメージだが、昨年は34本塁打と見事な長打力を発揮しチーム三冠王。四球78も見事で、出塁率.401はリーグ最高と非の打ち所のない打者に成長した。正直言ってアレックスの打順をどうするか悩むが、「4番・福留」で腹をくくればその辺の調整はできる筈。 荒木の成長度がもう一つで、ファーストやレフトなど、現時点で固定し切れないポジションもあるが、レフトは大西と関川が共に.310超の高打率を記録しており、ムラのある関川が2年続けて好調なら外野の層は厚い。内野の控えはいずれも帯に短し襷に長しという陣容だが数自体は豊富で、どのポジションも応急処置ならいつでもいける状態。 正捕手は谷繁で安定だろうが、昨期は112試合出場に留まり、故障がちになってきた感があるのは気になるところ。かつては古田を上回っていた盗塁阻止率もリーグ5位の.313に落ち付き、そろそろ控えの整備はしておきたい。昨期の控えで最もマスクをかぶったのは柳沢の43試合だが、盗塁阻止率.091とフリーパス状態。昨期は打撃好調で盗塁阻止率.348と谷繁の上だった中野は抜擢しても面白い。 診断……全体的な層の厚さはあるだけに、最大のポイントは、4番を誰にするかということに尽きる。ここの人選で打順の組み方そのものが動いてくるだろうが、現時点では福留を固定するのが最も近道。その間に高橋や筒井が長距離砲として化けてくれればいいが、兆しがなければ電撃トレードがあるかも。筒井は昨期終盤にきっかけを1つ掴んだ感がある。 <総合診断> 投打共に選手層は厚い。覇権を狙えるだけの地力は十二分にあると見たいが、投手陣は主力先発陣の復調、打者は4番の固定と爆弾要素がない訳ではないだけに、キャンプとオープン戦の持つ意味合いは大きい。 落合監督はキャンプ初日から紅白戦を組んだが、キャンプ期間を目いっぱい使って篩いにかける算段だろう。主力ですら安穏とできない緊張感は、川上のピッチの上げ方を見れば伺えるところ。その緊張感がいい意味で持続できれば、阪神との差があっさり引っ繰り返っても笑えないところ。
<投手分析> 先発……井川、久保田、下柳、藪、福原、伊良部、藤田、筒井、前川 右中継ぎ……安藤、リガン、金澤、藤川、石毛 左中継ぎ……吉野、三東、竹下、中村泰 クローザー……ウィリアムス、モレル 昨期のチーム防御率3.53は12球団トップの数字。完投15こそリーグ3位の数字だったが、無点勝ちはリーグトップの12。勝ち試合は絶対に逃さないという集中力が、1年を通じて切れなかったという印象がある。当然、この時点での予想では層の厚さを感じる陣容だ。 先発の軸は20勝左腕の井川で文句無し。被安打率、四球率、防御率が軒並み前年より悪くなったが、あと一歩のところで土俵を割らないしぶとさと集中力を身につけて、「負けないエース」の座を不動にした。2年続けての20勝は難しいだろうが、大きな故障さえなければ安定して勝ち星を稼げる存在であることは間違いない。 勝ち星でそれに続くのは昨年13勝の伊良部だが、シーズン終盤や日本シリーズの投球を見る限り磐石の信頼は置きにくい。10勝の下柳にある程度の計算は立ちそうだが、昨期終盤に復帰して味のあるピッチングを見せた福原、右肘の状態次第だが1年目で5勝した剛球右腕の久保田らに勢いがあり、左の先発候補で筒井、前川といった候補が立ったのは強調材料。藪も含めたベテラン勢が失速しても手当てはできそうで、逆のケースならベテランが力を発揮してチームを支える陣容はできている。 防御率1点台の3人を抱えるリリーフ陣は強力の一言。影のMVP的な活躍で終盤を支えた安藤に安定感と勢いがあり、シーズン途中で合流したリガン、3.27の防御率以上に打たれていないイメージの吉野、ロングリリーフ可能な金澤がブルペンを厚くし、サイド左腕のウィリアムスも見事なクローザーぶりを披露した。吉野以外で手薄だった左では三東に化ける気配があり、1イニング任せられる竹下を横浜から金銭トレードで獲得。新外国人モレルは未知数だが、仮に機能しなくても勝ち試合はしっかりものにできる磐石の陣容だ。 診断……先発、リリーフ共に絶対的な軸が立っている事実は単純に大きい。勝ち試合を拾うパターンが確立されていることで、先発陣の負担もそこまで大きくならない筈だ。強いて弱点を挙げれば、ウィリアムスが五輪期間中に抜ける可能性が高いこと。安藤をクローザーにもってきたとき、ジョーカー的な役割は全員で賄っていくことになりそう。 <野手分析> 1(二)今岡 2(中)赤星 3(左)金本 4(右)濱中 5(三)鳥谷 6(一)アリアス 7(捕)矢野 8(遊)藤本 9(投) 控え 捕手……浅井、野口 内野手……片岡、八木、沖原、久慈、関本 外野手……桧山、中村豊、平下、葛城、キンケード チーム本塁打が141本でリーグ5位ということ以外、あらゆる部門で1位に君臨した昨期のチーム打撃成績。終盤失速したとは言え.287のチーム打率はリーグ最多打点695と繋がりも抜群で、盗塁115、二塁打242、三塁打32、四球417も全てリーグ最多。打って走って繋いでというスタイルは、98年に日本一になった横浜ベイスターズのマシンガン打線の凄まじさを想起させた。 隙のない打線で、はっきり言えば選手が余ってしまうほどに顔触れは充実している。片岡と桧山をベンチスタートで考えたのは、単純に入れるポジションがないから。鳥谷とキンケードの加入がその競争をさらに激化させそうだが、いきなり鳥谷をスタメンスタートで考えたのは、濱中を除いた中軸打者の高齢化に対する手当てはいまから始めておくべきだと考えた為。 鳥谷に近い将来の主軸打者として期待をかけるなら、ある程度は実戦の場でプレッシャーを味あわせておいた方がいいと思う。どうしようもなくなったときの手当てとして片岡や桧山が控えていれば、チームとしての手当ては取り敢えず可能。大きな期待をかけられている現状の鳥谷だが、鳥谷のプロとしてのスケールを決めるのは1年目の今年。ここで下手に藤本と「8番・ショート」を競わせると、実際に「8番・ショート」の打者になってしまう可能性がある。それならば、年齢的にもサードに置いてクリーンナップを任せる、というのも一興のような気がする。 濱中の右肩の具合も気になるが、体調さえ整えば4番は濱中以外には考えにくい。昨期は濱中離脱後の4番を桧山や片岡が立派に果たしたが、4番というイメージでは濱中に及ばなかったのも事実。上位打線に安定感があるだけに、その後ろを濱中で固められればさらなる得点力アップは可能。 診断……選手層の厚さは12球団随一の大充実状態。正常な競争倫理が働けば層の厚さは何よりの強みだが、選手のモチベーションを維持することの難しさもある。星野前監督はそのカリスマ性もあって、選手の人身掌握には抜群の手腕を発揮した。岡田新監督にとってこの仕事は結構重たいかも。 <総合分析> 流石に昨期ぶっちぎりでリーグ優勝を達成しただけあって、投打共に戦力は非常に充実している。昨年も濱中や今岡の離脱、片岡の出遅れがありながら勝ち進んだだけあって、ちょっとやそっとでは揺るがないだけの戦力は充分にあると見ていいだろう。 鳥谷と藤本のポジション争いばかり注目されているが、戦力の充実は投打あらゆるポジションで競争の激化をヒートアップさせる筈。正常な競争原理の中で分厚い戦力をそのまま発揮できるかどうか、これが意外に難しいことは歴史が証明していること。圧倒的な戦力層が逆にチームの足を引っ張る可能性もあるが、強いて言うなら不安材料はそのぐらいで、100%の力を発揮できれば死角らしい死角は見当たりにくい。
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