「森じゃ勝てんワ」とばかりに電撃的な森前監督の解任劇で幕を閉じた昨年が49勝86敗5分け、生え抜きの山下新監督が指揮を執った今年がそれをさらに下回る45勝94敗1分。一時騒がれたシーズン100敗だけは何とか免れたが、落ちるところまで落ちてしまったなという印象が拭えない。監督人事は確かにチームにとって大きなファクターだが、「監督を変えてもそれだけでチーム状況が好転する訳もない」という当たり前の事実を、ファンもフロントも痛感した1年だったのではないだろうか。 2ケタ勝利に届いた投手が1人もおらず、規定投球回数に到達したのもドミンゴとホルトの両外国人のみ。このうちホルトはシーズン途中で既にウェーバーにかけられ、ドミンゴも11月21日に自由契約が発表された。かつての日本一を支えた斉藤・三浦・川村の実績組は揃ってリタイア。最大の誤算は開幕戦で先発勝利を挙げた吉見で、全く球威とキレが戻らないまま度重なる二軍降格、3勝10敗で防御率8.38と全く戦力にならなかった。FAで獲得した若田部も全くアテにならないまま故障で姿を消し、実績組は軒並み枕を並べて討ち死に状態。堤内・後藤・秦という若手に期待はかかるが、実績らしい実績がまだなく、期待先行というのが現実。この辺を勘定に入れないとどうしようもないのだが、先発陣の姿は現時点で極めて不透明な状態。近鉄からトレードで獲得した門倉を入れたぐらいでは、全く不安は小さくならない。 吉見に目処が立たない以上、左腕全体の少なさは壊滅的なレベル。自由枠獲得の森にはサウスポーエースの期待をかけられるが、社会人生活3年で故障に泣かされ続け、実績は昨年のベーブルース杯MVPぐらい。素材重視の先物買いというのが実際で、2〜3年は鍛えたい投手。岡本や飯田はまだ時間がかかりそうだが、ドラフトで補強がなかった以上はこういうところにかかる負担が必要以上に大きくなる。麻生徹(旭川大)、山下永吉(大阪学院大)、高宮和也(徳山大)ら即戦力左腕の総獲り計画があってもよかったぐらいで、フロントの目線がどこにあるのか本当にわからない。 リリーフに目を向けても左腕の壊滅状態は深刻。ともかく候補が稲嶺と富岡ぐらいしかおらず、河原は制球力が相変わらず改善されず信頼できない。森中の解雇はともかく、なぜ竹下を阪神に金銭トレードで放出し、ドラフトで補強しなかったのか理解に苦しむ。加藤と木塚が軸になれる右は、田崎とデニーが何とかいけそうで、4巡目指名の牛田も入れれば格好が付く。とは言え、仁部智(TDK→広島5巡目)辺りの指名は最低でもないとおかしい状況で、どうしても疑問符ばかり先行する。 ホワイトサイドが使い物にならなかったクローザーは、デニーや加藤を取っ替えひっかえした挙句、中日からウェーバー公示されたギャラードを獲得して何とか格好をつけたが、これは急場凌ぎの感が強すぎる。自由枠獲得の吉川は大学でもクローザーを務めて結果を出しており、広島が永川を1年目から後ろで固定したように腹をくくればピッタリはまる筈。 野手にはそこそこ明るい材料がある。ウッズが40本塁打でキングを獲得したことも嬉しい誤算だっただろうが、ルーキー村田が25本、古木が22本とチームに長打力を根付けた実績は思ったよりも大きい。両者とも打率には随分と悩まされ、特に古木は小ブレイクした昨年に比べると大きな苦しみを味わったが、この経験を無駄にはしたくない。山下監督は種田・小川といったベテラン起用で目先の1点、目先の1勝にこだわる方針が目立ったが、チームを本当に変えたいのならこの2人と心中するぐらいの覚悟は求められる。この2人は故障がない限りスタメンで使い続けたい。 内野は石井の予想以上の不振が大きく響いたが、内川に打力で一本立ちの気配がり、終盤に高校卒ルーキーの吉村がプロ初本塁打を含む印象的な活躍を残した。北川や木村という打力のある左打ちの内野手が控え、大砲候補の七野に大化けがあれば内野全体でケアはできている状態。5巡目指名の呉本はこの辺の争いに組み込まれそうだが、村田がサードで固まっているもののファーストはウッズの後が七野1人で底上げにはなる。 外野手の指名はゼロだったが、もともと守備と走塁に定評のあった多村が打力でほぼ一本立ちし、かつての首位打者だった金城も長打力を身につけて復活したことで軸は安定しつつある。鈴木尚と古木がポジション争いをしそうな充実度があり、田中充・小池・田中一らがその下で虎視眈々。この辺りはこれまでの高校生路線の賜物だが、現時点で無理な補強の必要はないというのも納得できるところ。捕手も指名がなかったが、相川と小田嶋が激しい正捕手争いを繰り広げ、西崎・渡辺・武山がそれを追い、中村が後見役という顔触れは現時点では悪くない。 とにかくドン底の成績が2年続いただけに、このままでいい筈がないチーム状態。野手にはある程度の厚みはあるが、左腕を中心にした投手陣の底冷え模様は如何ともし難いところ。竹下を金銭トレードで出しながらドラフトで補強しなかったフロント陣に真っ当な危機感があるのか、どうしても疑いたくなるところ。 左右にこだわらないスケールの大きなチーム編成ができれば、そんな細かいことを言う必要はない。現在の横浜は村田と古木を中心にスケールを出す時期だが、だからと言って明らかな弱点を補強しなくていい道理もない筈。トータル4人の指名自体少な過ぎるが、これだけチーム状態がヤバければ、自由枠以下に高校生・大学生・社会人問わずズラリと左腕だけを並べるような極端な指名があってもいい。“少数精鋭”という響きは確かにカッコいいが、そういうことを気にしている場合じゃないというのが自然な考え方。変わる為にはこれまでにない何かをする必要もあると思うのだが。
主砲の金本をFAで失い、その金本を獲得した阪神がリーグ優勝。江藤が巨人にFA移籍したときも同じ現象が起きており、いまに「広島からFAで選手を獲得すれば優勝できる」という願掛けが定着しそう、というのは悪い冗談だが、その損失を埋め合わせるまで若手の成長が追いついていないのがBクラスに沈み続けている要因かも。端境期に入り込んだまま抜け出せなくなっている、そんな悪いイメージが定着しつつあるのが気のせいであればいいのだが。 先発陣の力量は安定している。黒田というエースが強固な軸として確立し、高橋と佐々岡の両ベテランがその脇でローテーションを固め、ブロックもボーク癖を我慢して使ううちに安定してきた。シーズン途中で加入したデイビーが素晴らしい安定感で5勝したのが非常に大きく、2勝10敗と大誤算だった長谷川も終盤に復調の気配を感じさせた。ようやく様になってきたドラ1左腕の河内、2年目でプロ初勝利を挙げた大竹も飛躍の期待がかかる。ベテラン、中堅、若手の年齢バランスが取れ、苫米地・玉山・横松らの若手が控える構成は標準以上。 毎年言われているが、リリーフはそれに比べると二枚も三枚も落ちる陣容。長年中継ぎの中心だった玉木が安定感を欠き、昨年30セーブを稼いだ小山田も昨年程の勢いがなく失速。2年目の天野が49試合登板で防御率3.00と踏ん張り、ルーキー永川も25セーブを挙げてクローザーに固定できそうなのは好材料だが、西川とニューマンが全く戦力にならなかった左腕は菊地原を勘定に入れても死屍累々の惨状。当然ここは積極補強ポイントで、5巡目指名の仁部は確かにドンピシャリの指名だが、仁部だけでは全然足りない。 若い左腕は国木や大島といった先発型なので、中継ぎ強化にはできるだけ早く使える人材が欲しかった。野村宏之(近畿大→オリックス5巡目)、石井裕也(三菱重工横浜硬式野球クラブ)といった左腕はもちろん、桟原将司(新日鉄広畑→阪神4巡目)、松田克也(三菱重工神戸)、田中敬人(JEF西日本)らの即戦力右腕も積極的に補強すべきだったのでは。 4番に座った新井の大不振は確かに痛かったが、それを差し引いて考えても今年は得点力に決め手がなかった印象がある。要因は何といっても打線の繋がりが悪かった点。前田と緒方のベテラン外野手は一定水準の成績を残し、シーズン途中から4番に固定されたシーツはシーズン前の「守備の人」というイメージを覆すほどよく打ったが、それが単発に終わることが多く、メンバー表程の恐怖感はなかった。江藤や金本がいた頃は強力打線のイメージがあったが、野村や前田がまだ一線を張っている現状を考えれば、そろそろ大胆な世代交代を推し進めて繋ぐ野球を取り戻していきたい。 外野は層が厚い。廣瀬・鞘師・末永・田村・天谷と候補が揃い、いずれも守備走塁にも長けた広島カラーの選手。緒方と前田の耐用年数を迎えるまでに準備は整いそうで、浅井や木村拓も立派な戦力。うまく試しながらシフトしていければ、思ったよりも穴にならないだろうと思われる。 手薄なのは内野で、シーツの活躍で長年の課題だったショートが埋まり危機感は払拭されたように見えるが、シーツが近い将来メジャー復帰することを計算に入れるとかなり手薄な状態。東出が完全に壁にぶち当たり、若手では栗原ぐらいしか芽吹く気配がないことを考えれば、スケールも人材の絶対数も足りない状態。3巡目指名の比嘉は新井と栗原がレギュラーに入れば候補がいなくなる大型内野手で、4巡目指名の尾形はショートを埋める人材としては申し分ない好選手。来年以降の継続補強は必要だが、人材のチョイスとしては的確な指名と言っていい。 西山・瀬戸からうまく石原に世代交代が進んだ捕手だが、控え候補が木村一と大ベテラン西山ぐらいしかおらず、石原より下の年齢は来期20歳の山本翔だけという状況はちょっとヤバい。白濱は捕手としてのスケール的に申し分無く、石原を追いかける人材としてはうってつけ。年齢差6歳は捕手の絶対数を考えればいいタイミングだ。 全体的に本格的な世代交代を先送りし続けてここまできた感のある広島だが、低迷が続いている状況を考えれば、そろそろ動き出さないと手遅れになっても仕方ない時期。少数精鋭型の指名が2年続いたが、手当てするべき個所は細かいところで山積している状態だけに、そろそろ思いきったアクションは起こしていきたい。 今年を見れば、やはり投手の指名が仁部だけでは現状を打破できない。黒田の完投敗戦に象徴されるように、中心選手に負わせる役割が重すぎるきらいがあるのはこのチームの危ない体質。チーム全体・選手保有枠70人フルに使って戦うという姿勢を考えないと、この苦境を脱する光明は中々みつからない。
巨人と同率3位に終わったが、印象的にはもう少し勝っていてもいいような感覚がある。優勝を逃した年は決まって主力の故障者で泣いているが、今年もご多分に漏れず野手では岩村が手首骨折で半年リタイア、投手ではエース藤井が開幕直後に肘の手術で長期離脱。中継ぎの中心である石井もリタイア期間がありながら、それでもAクラスに留まった反発力は毎度見事と言うしかない。 前述したようにエース藤井を4月に欠いたが、石川が190イニングを奮投し12勝。チームで唯一規定投球回数に到達し、実質1枚看板でローテーションを引っ張り続けた精神力と体力は素晴らしいの一言に尽きる。開幕直前に獲得したベバリンが前半戦に活躍して8勝、故障リタイアがなければ2ケタは確実だっただけに左右の両輪はこの2人。 前年最多勝のホッジスは自滅を繰り返して帰国、最後までローテーションは石川頼みだったが、高校卒ルーキーの高井が1年間を一軍でほぼ通して5勝、鎌田が安定感ある投球で6勝と芽吹いてきたのは大きい。終盤には石堂が角度と力のある速球を武器に4勝と急上昇し、坂元と館山まで計算できれば、藤井の穴を埋める算段が充分に立つ。不確定要素は強いが平均年齢が若いだけに、期待感の方が先行する陣容。 ただしそれを形にするには競争が不可欠である上、絶対的な球威で押せる投手が先発に欲しいというのも本音。自由枠で川島を獲得したのは、その要求両面に応えれる指名で文句ないところ。2巡目指名の山田・5巡目指名の吉田も豪腕型で、数年後のローテーションはいい意味で混沌としそう。 リリーフ陣はロケットボーイズという左右の両輪が確立していて、それを河端・山本・花田・山部がカバーする安定感充分の顔触れ。FA宣言でメジャーを目指す高津の去就は気になるが、仮に残留しても近年の投球から絶対性は完全に薄れていて、本格的に後継は考えなければいけない時期。石井がクローザーに回れば大成しそうで、6巡目指名のサイド左腕・佐藤を石井の抜ける左のセットアッパーに据えられれば、穴は目立たなくなる。それを見越した指名なら食えないところ。 リーグ2位のチーム打率を記録しているように、現状で打線に穴らしい穴はない。ペタジーニの抜けた4番は恐ろしい進化を遂げたラミレスがしっかり埋め、鈴木がセ・リーグ移籍を期に中盤まで首位打者を争う大爆発。宮本・古田・稲葉らが繋ぐ打線は数字以上の得点力を感じさせたが、5年後を考えると一線で残っていそうなレギュラーは岩村ぐらい。これはここ数年言われ続けていることだが、レギュラーが固定化されていただけに安定した強みはあったが、それだけに次代の備えは遅れ気味だったのが現実的な心配のタネになっている。 外野は宮出が台頭の気配を見せ、志田・久保田・ユウイチ・内田がいて、4巡目指名の青木で何とか備えられそうだが、内野の特に二遊間はかなり不安な要素。来期34歳の宮本に頼る面が大きく城石も31歳、三木と野口が頭打ちで、梶本や大原はまだまだ時間がかかるタイプ。ドラフトで手を打っておかなければならないポジションだが、内野手の指名はゼロ。これはちょっと解せない。三木や野口の尻を叩く意味でもある程度の即効性が求められるので、鈴木隼人(旭川大)、岩館学(東洋大→巨人5巡目)、矢尾倫紀(青山学院大)辺りの大学生内野手にはトライしてほしかった。 いい加減に古田の後継者を用意しなければならない捕手も指名ゼロ。古田の存在感が大きすぎるのは百も承知だが、捕手は使っていかなければ成長できない特殊なポジション。将来的に10年正捕手を任せられそうなスケールを持っているのが米野1人で、米野を英才教育するにしても競争意識は必要。堀口圭介(水城)、小宮山慎二(横浜隼人→阪神5巡目)といった高校生捕手の指名は必要だった気がする。古田からの移行をうまく運ばないと、古田引退後に捕手が逆にアキレス腱になる可能性が現実的に出てくる。 投手は来期以降の伸び代が非常に楽しみだが、逆に野手は充実期のいまだからこそ積極的な手当てが待たれる状況。来期以降の補強でも何とか間に合いそうではあるが、それにしても野手の指名がたった1人というのはどうしても疑問として残る。5年後の目線が欠落しているとは思いたくないが、投手と野手に存在する年齢層ギャップはかなりはっきりした状況。危機が訪れてから手を打ち始めても、一度深みにはまると中々抜け出せない。そろそろヤクルトのフロントは勝負に出るべきでは。
シーズンオフ、とりわけ優勝を逃したオフでは決まっていの一番に主役になる巨人。原監督の解任で幸先よく話題の先陣を切ると、小久保にローズと話題性では他球団の追随を許さない。堀内新監督のやりたい野球はまだ見えてこないが、オフに外野から勝手に作られた青写真に躍らされると、シーズンに入ってとんでもないしっぺ返しが待っているかも。とは言え、無理やり独自色を出すと“笛吹けど躍らず”にあっさり陥るのもこの球団の特徴で、この辺にも巨人を率いるということの難しさがありそうだ。 投壊現象に陥って、そのまま修復できなかったことが優勝を逃した要因であることは明白。チーム防御率4.43はリーグブービーで、昨年優勝時の3.04に比べるとよくもここまで落ちたという印象。ただし先発陣は16勝の上原を中心に3点台に抑え、木佐貫・久保・林という若い投手の台頭もあり強烈な陣容は出来上がっている。今年は伸びなかったが真田も昨年は高校卒1年目で6勝を稼ぎ、故障明けになるが高橋尚も戦列復帰すれば計算しやすいタイプ。工藤と桑田が仮に計算できない状況になってもローテーションは機能する計算で、新興勢力がここに食い込むのは容易ならざる状況。 自由枠獲得の内海は社会人で思ったより伸びきらなかった印象で、この先発陣にいきなり入るのは厳しいかもしれない。しかし、23歳以下に揃った投手の中で先発完投型と言えるのは根市ぐらい。入来のトレード話は御破算になったが、そもそも左で今後も計算できる先発候補は林ぐらいという状況。内海ぐらいの若さとスケールがある先発左腕の補強は、いまの巨人にとって願ってもないタイミング。2年後ぐらいにその効果ははっきり出てくる筈だ。仮に上原がFA権を取得次第メジャーに飛んでも、木佐貫・久保・根市・林・内海・真田・2巡目指名の西村・4巡目指名の平岡らでローテーションが組めれば、危機感よりも期待感の方が先行すると言っていいぐらい。 こうなるとやはりアキレス健はリリーフ。開幕前から懸念はあったが、今年は抑えの河原がボロボロになったのを引き金に、最後まで崩壊に歯止めがかからなかった。安定感ある前田が前半は頑張ったが後半捕まり、現有戦力では手当てする人材自体不足しているというのが正直な印象。岡島や河原が昨年ほどの投球を取り戻せば何とか格好がつきそうだが、現状ではアテにできず、サンタナの残留も苦し紛れの頭数というのが本音だろう。ここは当然トレードも含めた補強ポイントなのだが、下位で指名した山本と南も先発完投型。ここに巨人の価値観というものが見えるが、求められているのは気持ちと球威の強いスペシャリスト級の素材。 「投手は先発完投が理想、中継ぎは先発からあぶれた投手の仕事」という価値観が巨人には古くからこびりついているが、堀内監督も元巨人の大投手でそういう考え方なのだろうか。石川賢(八戸大→中日3巡目)、佐藤賢(明治大→ヤクルト6巡目)、宮川兼二郎(日本文理大)クラスの投手の指名はなければいけなかった話。投手強化というベクトルは間違っていないが、リリーフに求められるのは岩瀬(中日)のようなスペシャリストの仕事、という価値観が固まりつつある時代。リリーフに対する視野狭窄という病的な偏見が今年の惨状を招いている、それぐらいの反省があってもいいが、どこか目線がチグハグな感が否めない。 ローズの加入を前提に考えれば、さらに厚みを増した巨人の野手陣。正直な感想を言えば巨大化と言うより肥大化という印象だが、打力そのものは充実していると言っていい状況で、計算通りなら穴らしい穴は現状見当たらない。仁志が復調してセカンドを固めればセンターラインも破綻は少なそうだが、仮に仁志が計算できなくても5巡目指名の岩館は内野ならどこでもうまくこなせる万能型。江藤と小久保が争うサードの守備固めとしても重宝しそうで、悪い言い方をすれば便利屋的に扱われそうだが、ベンチに必要なタイプで損はない指名。 内外野共にオールスター級の布陣と言われており、控えも鈴木に斉藤に清水と実力派揃い。ただ、全般的に野手は高齢化していて、次代の備えが内野に長田、外野に山本ぐらいしか見当たらないのは現実的な不安要素。「足りなくなれば余所からまた」というのは笑えない冗談で、自前で備えていく姿勢だけは捨ててほしくない。 吉良俊則(柳ヶ浦)、中川裕貴(中京→中日1巡目)クラスの大物高校生は無理にしても、石川俊介(葛生)、黒瀬春樹(県岐阜商→西武2巡目)、松坂健太(東海大仰星→西武5巡目)、小島昌也(自由ヶ丘→オリックス7巡目)という大型選手に全くトライしなかったのは、どうしても疑問。5巡目に高校生捕手の佐藤を指名したが、阿部の下に加藤や横川がいる捕手に手を出すより先に手を出しておくべきポイントはいくらでもある筈。 黄金の先発陣を作りたいという意思は間違っていないし、その為の指名も決して無駄な訳じゃない。ただ、「現状をどう捉えているか」という地に足のついた目線が欠落しているように見えるのは、どうしても気になる。欲ばかりが先行して選手を囲い込んで、じゃあこれからどうするかという目線があまりに細すぎる印象を受ける今年の巨人のドラフト。 現状では野手が余っているが中継ぎの手当てがなく、その余っている野手も5年後にはほぼいなくなっている。そういうことが見えていれば、ここまで現状無視の指名方針にはならないように思えて仕方ない。それなら清原と江藤をセットにして岩瀬でもトレードで獲れば、という厭味の一つも言いたくなってくる。繰り返すが、これは笑えない冗談である。
星野阪神に2年連続勝ち越しと地力は見せたが、それが1年通じて持続しなかったのが2位に終わった要因。投高打低の傾向は変わらないが、「現状で行ける所まで行ってしまえ」というその場凌ぎで行き当たりばったりな戦術も目に付いた。山田監督がシーズン途中で解任され、来期は“オレ流”の落合博満が指揮を執る。猛毒か特効薬か、色々な意味で目が離せない来期の中日だ。 川上と朝倉を故障で欠き、バルデスが期待を大きく裏切り、野口もムラの強さが出て借金2つ。シーズン開幕当初の思惑からはだいぶかけ離れた戦いを強いられた先発陣だが、それでもリーグ防御率2位というのは立派の一言。移籍1年目の平井が12勝を稼ぎ代替エースと呼ぶに失礼な活躍を見せると、シーズン中盤から先発に固定された岡本が勝ち星にはあまり繋がらなかったが安定感充分の投球をし、崩壊寸前だったローテーションを力強く支えた。大ベテランの山本昌はチーム最多の156イニングを投げて9勝、山本昌と同じ39歳の紀藤が谷間を埋めて7勝と、このメンバーでもローテーションを作れた事実は、中日投手陣の層の厚さを改めて知らしめたというところ。 川上と朝倉が故障から復帰し、野口が本来の力を取り戻せば、山本昌や紀藤の年齢すら気にならなくなる強力な布陣。ローテーションの5〜6番手辺りは平松や久本、まだ山井にバルデスがいて、それに4巡目指名の佐藤まで考えれば熾烈な争いが繰り広げられることは必至。今年のように故障者がいてもある程度のローテーションが組めそうな上、長峰・高橋聡・さらに復帰すれば大きい中里という若い層も万全。現状ではまだ先発陣に目立った補強は必要ないという結論になる。 中継ぎのジョーカー岩瀬が中心のリリーフ陣は今年も磐石を維持。落合にいい時期のキレと体力が戻り、遠藤や山北はコントロールで進歩し自滅することが少なくなった。正津が一軍から姿を消せば同じサイドハンドの川岸を補強と妥協を見せず、中日がいかにリリーフ陣にしっかり補強の目を向けているかがよくわかる。唯一の不安要素は大塚の抜けるクローザーだが、3巡目指名の石川はクローザーとしてうってつけの素材。恐らくシーズン中から大塚の穴を埋めることは考えていただろうが、外国人補強ではなくてドラフトで速やかに手を打ってくる辺り、中日のフロントは意外に腹をくくってきたのかもしれない。 充実した投手陣に比べれば、4番打者を含めた和製大砲不在という弱点がはっきりしている野手陣だが、明確な弱点と言えるのは実際にそれぐらい。ただ、その唯一の弱点を解消するのに、現状ではまだ時間がかかりそうなのが困ったところ。開幕4番のアレックスに1年を4番で通す安定感がなく、2年ぶりの日本球界復帰となったクルーズは阪神時代と変わらぬ大型扇風機で解雇。2年連続で立浪に4番を任せることになったのは他に候補がいないという事情だが、それは森野・高橋光らと瀬間仲・櫻井の間の世代で候補を獲ってこなかったフロントの失策。 現状では新外国人か福留ぐらいしか候補がいないので、なんとか新外国人で凌ぎつつ、向こう2〜3年で和製の4番を据えていきたい。前述の瀬間仲と櫻井は間違いなく左右の候補だが、時間をかけても用意された座では伸びきらなくなる恐れがあるので、候補をぶち込んで競争を活性化させることは必要。1巡目指名の中川と6巡目指名の堂上もその競争に入るポテンシャルはある。1年やそこらで不安が払拭できるものではないが、この中から2人出てくれば弱点を解消する目処は立つ。それだけの期待感を持たせる指名であったのは確か。 アレックスと福留が右中間を固める外野に大きな弱点はないが、左右のツープラトンで埋めた大西と関川のレフトは年齢的に備えが土谷ぐらいしかおらず、長距離砲候補が見当たらない。5巡目指名の中村は守備と走塁なら即一軍レベルで、荒削りだが当たれば大きい長打が魅力。打撃で進化すれば蔵本と激しい争いが見られそうで、底上げには充分な指名。捕手は現在の谷繁と21歳の前田の間の層が帯に短し襷に長しで、候補が田上ぐらい。全体的な底上げの為に小川を指名したのだろうが、絶対数を考えれば富岡拓也(鳥栖商)のような高校生捕手の指名もあってよかったか。 相変わらずのバランス型指名だが、立浪を4番に据え続けたことに象徴されるように、「自前で4番候補を作っていこう」という意地のようなものも透けて見える。地元志向の向きも今年は強かったが、基本的には適材適所という形で理に叶ってさえいれば地元志向は強力な武器。 今年で取り敢えず自前4番候補の備えはできた感があるので、今後の課題は現在磐石の投手陣になる。補強すべきところを見定めた上でのバランス指名か、意地が先行した漫然とした指名だったのか、その答えは来年あたり出てきそうな気もするが、果たして。
日本シリーズでは涙を呑んだが、開幕から他球団をぶっちぎって独走しただけに、戦力的には完全に充実期に入っている。ここ数年の積極的な補強が機能し始めた点がチームの底上げに繋がったが、冷静に見てみれば現在のチーム編成は平均年齢が高く、優勝した今年がピークとも思える状態。充実期にこそきっちり先を見据えた補強をしなければ、85年のフィーバー以降に坂を転げ落ちた忌まわしい歴史を繰り返すことになるかも。 エース井川は、去年前半のような圧倒的な凄味は影を潜めたが、負けない粘り強さで20勝到達。若さのある絶対的なエースを、今年は伊良部13勝、ムーアと下柳がそれぞれ10勝ずつと下支えしたが、伊良部と下柳が移籍を視野に入れたFA宣言をし、現時点でムーアの去就は不透明という状況。3人で計33勝が退団すれば、普通なら一大事どころの話ではないのだが、阪神の場合はかえって世代交代を一気に進めるチャンス。 久保田が1年目から5勝と台頭し、杉山・江草・藤田・藤川と若い先発候補が虎視眈々の状況。その下にも加藤・中林・新井智・田村と未完の大器が控え、実績組では薮と福原もいて、さらには今年セットアッパーで大車輪の活躍を見せた安藤も本来は先発に戻したいところ。同じ世代に若い有望株が揃うこの状況は、むしろ伊良部や下柳、ムーアの退団をウェルカムとしてもお釣りがくるほど充実している。さらに今年はそこに自由枠で即戦力左腕・筒井が加入。実績がないだけに不確定要素もあるが楽しみの方が大きい、というのは昨年のダイエーと酷似した状況。加えて井川という大エースが軸としてドンといる点が、不安要素をほぼ完全に払拭している。 ウィリアムスと安藤を軸に文句ない勝ちパターンを構築したリリーバーの方が、むしろ不安要素。安藤が後ろに残ってもウィリアムスとリガンの両外国人に対する依存度が高く、ウィリアムスが一番後ろに回るなら左の中継ぎで計算できるのは吉野ぐらい。勢いのある三東に期待があり、横浜から金銭トレードで獲得した竹下も1イニング行かせられる力量はあるが、あとはリリーバータイプのサウスポーがコントロールに難がある中村泰ぐらいという状況を考えれば、下位で左投手の指名はもう1人あってもよかったところ。安藤が先発に回ればリリーフは完全にウィリアムスとリガン頼みの状況、オリックスからトレードで獲得した牧野が化ければ面白いが、桟原だけの指名では少し手緩い感も。 先発陣には若さと戦力数が充実しているが、反面リリーフには絶対数が少ない印象がある。右なら森田岳(金沢学院大)、山道伸之(九州国際大)の大学勢、左なら仁部智(TDK→広島5巡目)、小宮山政和(NTT東日本)の社会人勢が狙い目だったかも。 チーム打率、得点、盗塁でリーグトップを記録した打線は、全くと言っていいほど隙がない。チーム本塁打は5位だったが、機動力を絡めて繋いでいく打線はしばしばビッグイニングを演出し、他球団のバッテリーに悲鳴を上げさせた。現レギュラーの高齢化は気になるが、ファームに次世代候補も多数控えている。強いて言うなら、来期22歳以下の野手が狩野・桜井・松下の3人という点が若干手薄に見えるが、少なくとも現状に不安はない。 今年は夏に故障離脱した濱中に4番として使える目処が立ち、今岡→赤星→金本の3人が自在に好機を作る。濱中の後ろにはアリアス・片岡と控え、桧山がベンチに座る充実ぶりは他球団から電撃トレードの打診があってもおかしくないところ。内野には関本・梶原康・沖原、外野には平下に中村豊と準レギュラー級の控えが揃い、唯一内野の弱点だったショートは今年藤本が完全定着。鳥谷の獲得はやり過ぎという感じもあるが、藤本を安心させない為にはこれぐらいの荒療治もあってもいい。そう言いたくなるほどのポテンシャルが鳥谷にはある。戦力の厚みは今年1年で随分と筋肉質になったイメージで、バランスの取れた編成は最低でも向こう2〜3年は弱点が見当たらない程。 準MVP捕手の矢野は来期36歳という年齢ほど老け込みを感じさせず、あと4年ほどは一線でやれてもおかしくない。野口がサポートに回り、狩野と浅井が次代の正捕手で控えるところに、今年は小宮山の指名。備えはできているが絶対数自体が少ないので、高校生捕手の指名は大正解と言っていいだろう。 ここ数年は即戦力に偏った指名の阪神だが、若い投手陣を中心に、気付けば安定勢力としての地位を固めつつあるような印象を受ける。自由枠獲得の2人は、チーム事情云々の話を考えずに単純にいい選手を獲ったなという感じ。絶対的な若さはこれから注入していく必要もあるが、充実期に鳥谷と筒井を獲れたことで満点に近い評価は与えられてもいい。 去年は大量11名を指名したが、今年は5名という少数精鋭型。昨年は大量の自由契約を出したという背景もあるが、恒常的な戦力循環の理想は緩過ぎず急過ぎず。現状を考えれば、これぐらいで丁度いいのかもしれない。
シーズン中盤にも入らない段階で石毛監督が突然解任され、気の毒な時期に就任したレオン監督が火に油を注ぎ、最悪と言われた昨年の成績をさらに更新。ダイエー相手に1試合で29点を献上するなど、マイナス面での話題にはこと欠かなかった今年のオリックスだけに、ここから再浮上するのは生半可なことではない。 今年まで西武の監督を務めた伊原春樹を新監督に迎え、GMには元阪神監督の中村勝広氏を招聘。昨年はマック鈴木と吉井の逆輸入コンビで話題をさらったが、今年は違った方面から変えていこうという意欲がうっすら見えてくる。このチーム、変える必要があるのは選手よりも監督よりも、何よりもフロントなのだ。 昨年は具・金田・ユウキらを擁してリーグ2位の防御率を記録した投手陣が、どこをどう間違えたのか崩壊に注ぐ崩壊で完全に粉砕された。前代未聞のチーム防御率5.95は過去最悪、チーム総失点記録もあっさりと更新した。12球団で唯一規定投球回数に到達した投手が表れず、状況はまさしく死屍累々のように見えるが、取り敢えず来年の頭数は揃っている上、実績的に巻き返しの目が残っていない訳ではない。ユウキの故障の具合は懸念材料だが、具・小倉・金田らで組むローテーションはまだ見限れない力はある筈。本柳や相木辺りにもう一段、二段のジャンプアップは欲しいが、マック鈴木にフィリップスの巻き返し、そして自由枠獲得の歌藤や6巡目指名の松村の台頭があれば、総取っ替えしなければならないほどの絶望感はまだない。 徹底的に若さを嫌い高校生の上位指名を避けてきたオリックスだが、今年は2巡目で北海道の豪腕・柴田を指名。川口以来の高校生上位指名だが、指名が結局1人だけ云々ということではなく、久し振りにオリックスがこういう指名をしたという事実を変化の兆しと受け止めたい。柴田のポテンシャルはもちろん、来年以降に高校生不足を解消する指名の機運が高まれば、それだけで柴田を指名した意味は大きい。欲を言えば、新聞報道で指名が噂されていたグエン・トラン・フォク・アン(東洋大姫路)は是非指名したかったが、この辺の覚悟はまだ時間がかかるかもしれない。 リリーフ陣の崩壊も、元を正せば大久保と山口の故障離脱が原因で、この2人が帰ってくれば安定感は戻ってくる筈。ルーキーの加藤が4勝9セーブの活躍でブルペンを支え、阪神から連投可能な谷中をトレードで獲得。絶対数自体いない左のリリーバー候補には、クセ球左腕の野村を指名して応急手当をした。故障者の復帰待ちという前提はあるが、打つべき所に手は打った印象。萩原や嘉勢の復調があれば、来期は見違えている可能性もゼロではない。 投手陣を援護できなかった昨年と違い、今年のチーム打率.276はリーグ2位とよく打った。チーム本塁打も174本と倍増したが、それでも成績が落ちたのは、もちろん投手陣がそれ以上に吐き出したという事実が最も大きいのだが、場当たり的な打順編成を繰り返したことで一向に打線が繋がらなかった点も大きい。 「オーティズとブラウン両外国人が来年も機能すれば」という条件がつくが、伊原監督の仕事はまず打順毎の役割を選手に徹底させる意識の植え付け。リーグ最多安打で今年両リーグの右打者最高打率.350を記録した谷を中心に、ポイントゲッターには自身初の.300超えを達成した塩谷と両外国人をある程度固定していきたい。 守備に不安のあるオーティズをセカンドからDHに回すなら、二遊間も当然補強ポイント。ここは人材がある程度揃っているが、打力で一歩抜け出した後藤、守備と走塁で平野、実績で塩崎、阪神からトレードで古巣復帰の斉藤の争いで混沌としそう。4巡目指名の嶋村は、この中にない右の強打者タイプ。ここの争いは激しくなりそうだが、裏を返せば二遊間争いがオリックス内野陣全体を底上げする機運も高まりつつある。嶋村の指名は、その意味で結構重いかもしれない。 外野手は高校卒の小島、大学卒の由田を指名したが、葛城の去ったライトはダイエーからFA移籍の村松と年齢差10歳以上で、若い2人にとっては大チャンス。どのポジションもそうだが、とにかく若さがないので、高校生と大学生を同時に競わせても底上げには繋がる筈だ。チームにそもそも少ない長距離砲タイプで、外野にスケールを出す意味でもこの指名は旨味がある。 相変わらず高校生の指名割合が少ないが、それでもここ数年とは一味違った匂いを今年は感じる。これまでは明確な意図もなく、ただ大学卒・社会人出身の選手を場当たり的に獲得していた印象があるが、今年は例年よりは「弱点を解消してチームの底上げに繋げよう」という意思が見える。その点はもしかしたら中村GMの効果かもしれない。 本音を言えば、若さも強欲さもまだまだ足りない。チーム再建にもまだ時間がかかると思われる。しかし、一歩でも踏み出さなければチームは変わらない。後々になって今年がその一歩と言われるようなきっかけに、今年のドラフトを繋げていく責任と覚悟がフロントに求められる。
ヒルマン監督が就任し、そのヤンキース仕込みの采配に注目されたが、結局は何が何だかはっきりわからないまま昨年に続き5位、という印象でシーズンを終えた。投打共にもう一つ強烈に突き抜ける感覚がなく、「悪くはないんだけど」という状況がここ数年ずっと漂っている気がする。来年は札幌移転元年、そろそろ大きな発破をかけてもいい頃合だ。 やっぱり悪くない先発陣だが、絶対的なエースはいない。開幕投手だったミラバルが193回2/3を投げて16勝と荒稼ぎしたが、防御率は規定投球回数到達者13人中最下位の4.65と、勝ち星ほど過信できなくなってきた。ミラバルに続く金村も10勝したが防御率は11/13の4.23と、大事なところでポカが多いタイプ。変則左腕の吉崎が前半戦で獅子奮迅の活躍を見せ8勝したのは大きいが、後半に疲れが出たのか失速し規定投球回数には届かず終い。今年にエースの期待がかかった昨年の新人王左腕・正田も、今年は5勝15敗と大きく負け越し飛躍できなかった。 先発候補は江尻・隼人・関根といるので、壊滅的なことになる可能性は低いが、力量的には貯金を稼げるほどの上がり目にも過剰な期待は寄せ辛い。何より、半本格・半技巧派とも言うべき投手の揃った先発陣にスケールを感じなくなってきたのが、そこそこのイメージを脱せない要因。 即戦力の期待は寄せ辛いが、自由枠で獲得した未完の150km右腕・糸井はそんな日ハム先発陣に骨っぽさを加味するにはうってつけの存在。4順目指名の押本も低目に集められる馬力型即戦力で、この2投手を指名できたのは単純に大きい。須永と金森は3〜4年後に訪れる投手陣再編のキーマンで、時期的にはドンピシャリ。意中の球団はあるだろうが、須永にとっては大暴れできるいいチャンス。入団してほしい。 中継ぎ候補は現状でそれなりに安定したメンバーのせいか、ピンポイントの指名はなし。建山と伊達に安定感があり、立石に芝草のベテラン組、左は高橋・加藤・清水がいて、磐石とは言えないまでも大崩れはなさそう。佐々木・武田・山口まで数えて、伊達・建山・井場の誰かがクローザーで固定できれば充実度と厚みが出てくる。 小笠原という絶対的な軸が中心に座る打線は、移籍で復活した坪井の大爆発と木元の成長でだいぶ格好がついてきた。4番を任されたエチェバリアも31本塁打と次第点の成績を残し、中軸は固まった格好。問題はその周囲をどう固めるかで、下位打線はどの選手も帯に短し襷に長しの状態。田中賢や森本と言った若手がなかなか伸びず、田中幸や奈良原に頼りっきりの状態からいい加減に一歩踏み出さないと、打線も結局「悪くないんだけど」の上を行けない。 井出と石本が安定しないセンターには恐らく新庄剛志(前メッツ)が入ることになりそうで、金子がセカンドに入るにしてもショートに入るにしても、センターラインの守備力は計算できる。新庄が下位打線で阪神最終年ほどの打棒を発揮できれば言うことないのだが、20代中盤の外野手層がスッポリ抜け落ちている以上、ここはドラフトで補強しておきたかった。それだけに外野手の指名ゼロはちょっとわからない。 ショート候補で指名した稲田は1年目から即ポジションを取れそうな力量があり、チーム事情的にもピンポイント指名だが、同様に外野のテコ入れもしておきたかった。新庄を計算に入れたのだろうが、それでも絶対数が少なすぎる。森本や紺田の尻を叩く意味でも、濱村大和(北海道尚志学園)、深山悦男(修徳)、鈴木雅巳(日大三島)辺りは下位でも狙い撃ちできた逸材。 高橋信が打力で正捕手に近付いた捕手は、高校生捕手の渡部を指名。横浜からトレードで中嶋を獲得しているが、打力に進歩の見えないドラ1捕手・實松に喝を与える意味ではいいタイミング。高橋信や中嶋から盗めるものはゴロゴロしている筈だ。 ドラフトの外でも効果的な補強をしている今年の日本ハムだが、ドラフトでも要所要所のツボを抑えた指名で、須永を口説き落とせれば悪くないどころか充分な補強ができそうだ。野手の層の薄さは解消されきっていないが、それは新庄の活躍以上に来年のドラフトにかかる部分が大きい。来年のドラフトでも「悪くないんだけど」の上を行けるか、真価が問われる04年になりそうな感。
開幕前の春季キャンプでいきなりローズが帰国、波乱の幕開けとなった今年のロッテだが、終わってみればギリギリ勝率.500を割る4位で、8年連続Bクラスに沈んだ。来期はその最後のAクラス入りを果たしたボビー・バレンタイン監督が再び指揮を執るが、長年言われ続けたまま解消されていない投高打低傾向を修正しない限り厳しい戦いが予想される。 今年も大エース黒木知は復帰できなかったが、今年はきっちり貯金を作った先発陣には一定の水準以上の力量がある。リーグ最多の204回1/3を投げて15勝を稼いだ清水直と14勝のミンチーが二枚看板で、シーズン途中から先発に回った小林宏が規定投球回数に達して10勝と頑張った。それに続いた渡辺俊も規定投球回数到達、9勝ながら貯金を5つも作って主戦級の働きぶり。小野が不振から脱せず、貴重な先発左腕の加藤も1勝5敗と全く戦力にならなかったが、これに酒井や鈴木が加わればまだ数年は計算できる陣容。 今年はやや苦しんだが小林雅というリーグを代表するクローザーがいて、それでも勝ちパターンに持ち込めなかった要因に、間を繋ぐリリーバーに安定感がなかった点がある。昨年開花の兆しを見せた川井にキレが見られず、戸部・神田・舩木・藤田も苦しい場面を任せられるだけの信頼感を勝ち取れなかった。勢いを感じる投球で唯一安定した数字を出したシコースキーの解雇はどうしても解せず、ドラフトで捕強するのかと思いきや指名した投手は5人全て高校生という極端さ。 黒木知を含めた先発5人の平均年齢が30歳ちょうどで、5年後を考えれば確かに次代の備えが必要な時期。加えて若手と言える若手は来期20歳の浅間と22歳の田中良ぐらいだから、確かにいまのロッテに高校生投手は必要な人材。本来はもう少し中継ぎを任せられる即戦力投手を獲ってほしいのだが、指名した選手はどれも将来のエース候補と言っていいポテンシャルがある。ここまではっきりやられればかえって見えてくるスカウトの信念、やや暴走気味にも映るが、それならば5年後を楽しみにしたい。 中継ぎ投手以上にチームの足を引っ張ったのが、得点力不足を今年も解消できなかった打線のひ弱さ。ローズの代わりの4番候補として急遽獲得したフェルナンデスは.303、32本塁打、100打点と立派な数字を残したが、その周囲を固める選手層の薄さはどうしても解消できない。 .303を打ったショートが退団し、今年絶好調だった堀も来期35歳、年毎のムラが大きいタイプでアテにはしにくい面がある。福浦は.300を堅守して計算できる数少ないバッターだが、クリーンナップにある程度の格好がついたところでリードオフマンが固定できなければ得点力は上がらない。1番に期待されていたサブローが伸びきらず、井上純や小坂辺りで今年も持ち回り状態。喜多が足踏み状態に入り、次の候補が共に来期2年目の西岡とイースタン盗塁王の早坂だから、とにかく打てる野手、層を考えれば内外野問わず欲しいところだったが、フタを開けてみれば野手の指名は捕手の田中だけ。これはいささかわからないところ。 なかなか正捕手が固まらないが、打力でレギュラー奪取が見えるところまできた里崎、強肩の清水、インサイドワークの辻と、30歳以下で競い合う状況は整っている。その後の世代を整備する為に高校生捕手を、というならわかるが、チーム状況からして打てる野手に比べれば田中の指名は優先順位に疑問が沸く。比嘉寿光(早稲田大→広島3巡目)、中村公治(東北福祉大→中日5巡目)、片岡昭吾(JR東日本)辺りのパワーヒッター、本当は何人指名してもいい筈なのだが。 6人中5人が高校生投手だから、ロッテがどういうベクトルをこのドラフトに置いていたのか、それははっきりと見えている。だが、矛盾する言い方になるがそれだけにいまの戦力状況をどのように捉えているのか、それが全く見えてこないドラフトだったというのも実感としてある。5〜6年後に大投手王国ができていれば今年のドラフトは必ずピックアップされるだろうが、野手は投手よりも猶予期間がはっきり少ない状況。 現状は新外国人選手やトレードで凌ぐのだろうか。ここ数年は停滞傾向にあるロッテファームにも不安はある。現時点で回答を出すのは難しい状況だが、目に見える危機が実際に目の前に現れてから手を打っても遅い。5年後、楽しみも大きいが、現時点では不安もそれ以上に大きい。
01年に猛烈な爆発力でリーグ優勝してから3年、その間は今一歩の戦いが続いてはいるものの、随分とチームが成熟してきたなという印象が強い。パ・リーグの安定勢力として優勝争いに常に顔を覗かせる地力がついてきたいまは、世代交代もうまく進んでいるようにも見え、以前のようなイチかバチかという諸刃の剣のような危うさは随分と薄らいできた。 今年のチーム防御率4.30はリーグ第2位。4.98で優勝した2年前と比べればかなり投手陣は整備されてきている。23歳の岩隈がリーグ最多の11完投で15勝を挙げ、若きエースとして完全に一本立ちしたのが最大のポイント。昨年最多勝のパウエルも岩隈を上回る196イニングを投げて14勝と、主戦級の働きをしっかり維持してローテーションを支えた。この2人が二枚看板で、シーズン終盤には高校卒1年目の阿部健がプロ初先発初勝利を含む2勝で飛躍のきっかけを掴み、来期は3本柱を組む算段がしっかりでき上がった。 山村や前川の低迷は頭痛のタネだが、故障が癒えれば高木は復帰すれば大きな戦力。力の絶対値はある谷口もいて、終盤にリリーフから先発に回った山本まで含めれば左腕も取り敢えず揃う。2年目を迎えるバーンも8勝から大いに上積みが期待できる存在で、3本柱の存在が先発陣の遣り繰りにいい意味で幅を持たせているのは強調材料。来期はそこに自由枠で香月が入ることで、若干不足気味だったスケール感と印象の大きさが随分と大きくなる感がある。頭数が揃ってきたがドラフト上位指名の本格派はいなかったところに、近鉄始めての自由枠獲得で香月を獲れたのは絶好のタイミングと言っていいだろう。 リリーフ陣は最後まで勝ちパターンが作れなかった。ベテランの高村と吉田がクローザー兼任で頑張り、三澤が安定した働きで中盤を支え、小池や愛敬が戦力として機能したまでは良かったのだが、肝心の岡本が不調で軸がいなかったのは痛い。先発陣に算段が立った以上ここは補強ポイントなのだが、それに見合う指名は7巡目の栗田のみ。横浜からトレードで獲得した福盛に対する期待が大きいのだろうが、吉田が来年もクローザーを兼任し、山本が前に回ることを考えると、特に左は高齢化に加え絶対数自体が不足。右は岡本の復調や若い宮本の成長があれば何とかなりそうだが、佐藤賢(明治大→ヤクルト6巡目)、金本泰尚(花園大)、小宮山政和(NTT東日本)らの指名まであってよかったか。 主砲の中村が膝の故障で絶不調に陥ったが、その分を埋め合わせる以上の勢いで中村以外の選手がよく打ち、全く打線の破壊力が落ちた印象を与えなかったのがこの打線の恐ろしいところであり底力。大村が.300復帰に加え27盗塁と走る意欲を取り戻し、吉岡も自身初の.300到達と円熟してきた。磯部は勝負強さを取り戻し、何より長年の穴ポジションだったショートを阿部真が.291でガッチリ固めたのは大収穫。加えて、星野・北川が共に50打点以上を荒稼ぎというサブとは思えない八面六臂の活躍を見せ、益田・川口・下山も含めた控えまで戦力は充実。ローズが抜けるのは確かに痛いが、中村の復調さえあれば悲壮感はないと言えるだけの迫力は充分にある。 現状に大きな不安はないが、来期のレギュラー候補に20歳代の選手が阿部真(26歳)、大村(28歳)、川口(28歳)ぐらいしか見当たらないのは懸念材料。三木・森谷・大西・坂口が次代の候補だが、いてまえ打線の看板に適いそうなのは坂口ぐらいで、そもそも競争を激化させる意味でも中心選手候補はそろそろ補強しておきたいところ。 2巡目指名の吉良に4巡目指名の坂という内外野の大物野手を獲得したのは、その意味では理に適った指名と言える。チームリーダー水口が来期35歳で無理がきかなくなってきており、坂は総合力的にかなり早い抜擢があってもおかしくない。吉良はローズ以外には川口ぐらいしかいない左のスラッガーで、将来の4番としての期待を現実的にかけた指名。中本は若さの足りない二遊間の補強だが、前田や星野という万能型が揃っている以上、ちょっと狙いが見えない。それなら田中幸長(宇和島東)のような高校生スラッガーの指名がもう1枚あった方が面白かった。 正捕手不在の状況を考えれば、捕手は野手で唯一即効性を求める積極補強箇所。筧にどうしても野手のイメージが重なり、若手が近澤と横山ぐらいしかいない現状、競争を活性化させる意味でも新里だけでは足りない気がする。新岡裕豪(藤代)、富岡拓也(鳥栖商)といった高校生捕手も1人補強したかったところ。 投手陣の世代交代が結果を出しつつあるいま、次に動いていくのは当然野手で、全体的に必要な選手をバランス良く指名したという印象。ここ数年のドラフトでは明らかな高校生路線に打って出た近鉄だが、長年苦しんできた投手陣にいい変化が追い付いてきたことで、余裕を持って次代に備えていく姿勢が固まりつつあるように見える。吉良と坂はその象徴的選手と後に言われるかもしれない。 岩隈や阿部健のように、下位指名選手をファームでうまく育てていることが戦略を高校生路線に動かした要因かもしれないが、徐々にその意図が形として固まりつつある現在の近鉄。安定勢力に上昇したのは、フロントと現場の歯車がうまく噛み合ってきたことの証明かもしれない。こうなってくるとチームは上昇カーブ。崩れないチームが出来つつあるように見える。
最後までダイエーと優勝を争って2位に終わった格好だが、戦力層の差を考えれば大きな壁を感じる2位であったのも実感としてある。パ・リーグの安定勢力であることは間違いないが、チームの屋台骨だった松井がメジャー移籍を表明し、黄金時代からの正捕手・伊東が現役引退・監督就任。チームが過渡期にあることも間違いない。こういう時期のドラフトは、今後のベクトルの一端を示す重要な要素になる。 開幕前は12球団トップクラスの力量と思われていた先発陣だが、規定投球回数に到達した松坂と後藤以外は軒並み総崩れ状態に陥った。7年連続2ケタ勝利の西口が僅か6勝に終わり、石井貴もリタイアしてアテにできず終い。許銘傑・張誌家の台湾コンビも調整遅れが響いて足踏み状態に入った。11勝を挙げた貴重な先発左腕・三井も好不調のムラが激しく、磐石の信頼は置き難いタイプ。こうなると先発左腕の不足という要素が途端にクローズアップされてくる。 鳥谷部・小野寺・長田といった辺りに伸び代があり、石井貴や西口がまだはっきり後退する年齢ではないこと、さらに台湾コンビの捲土重来が現実的な点まで考えれば、まだ深刻に考える段階ではないことも確か。何より松坂という若さと力の絶対値に溢れた存在がいることで、周辺の手当てには余裕を持って臨めるという点が大きい。松川は左のエース格になり得る素材だが、線の細さとボリューム感の乏しさから3〜4年は最低見ておきたい素材。3〜4年後には西口や石井貴の手当てを現実的に考える段階。22歳以下の投手が竹内1人なので、杉山にも先発候補のチャンスはある筈。タイミング的には申し分ないところ。 崩れた先発陣を支えたのは、森→豊田の絶対的な継投が見せた相変わらずの安定感。ただし、終盤になって捕まる傾向が増えたのはここ数年のしわ寄せの影響もあるだろうが、土肥に安定感のなくなった左不足の負担がここでも気になる要素として出てくる。帆足はようやく形になってきたが、星野が伸び悩み、水尾が退団。右投手も森に繋ぐ流れが作れず、コマは何枚か補充したいところ。自由枠の山崎と6巡目の岡本は恐らく中継ぎ強化の意図がある指名だろうが、両者とも長いイニングを勢いで乗りきれるタイプなので、将来的には先発で使ってみたいところ。チーム事情から山崎は今年の長田のように便利使いされる可能性もあるが、どちらにしろ役割を固定した方が力は発揮しやすい筈。 松井の抜けた穴は走好守いずれの面で大きすぎる問題で、来期のチーム編成そのものを白紙に戻して考える必要のある一大事。最大の問題は、ショートという要のポジションを含めた内野の手薄い印象が、松井が抜けた途端にアキレス健に化けること。ポスト松井と呼ばれてきた中島も、経験と力量を考えればいきなり140試合ということは考えにくく、平尾や水田との併用でいく公算が大。松井の代わりは誰にもできないが、将来的には140試合守れるクラスの選手を据えていきたい。 黒瀬は中島に発破をかけるポスト松井第2弾だが、内野はどこも補強が必要な状態。カブレラの残ったクリーンナップに一定の水準以上の破壊力が残っていることを考えれば、矢尾倫紀(青山学院大)、岩館学(東洋大→巨人5巡目)、澤井道久(東海理化)辺りの守備に安心感のある内野手指名は欲しかったところ。西武は若手内野手の成長が遅く、守備面で安心して使えるスペシャリストにも乏しい。そういう現実をショート松井の圧倒的な存在感がうまく隠してきたが、時間的な猶予はもうないなというのが今年の印象。 大島がクリーンナップ候補として開花してきた外野陣だが、内野と同じように赤田や高山という若手が伸び悩んでいることを考えれば、戦力の絶対数は多くない。和田はDHで使われることも多いが、小関や柴田がもう若手と呼べない年齢であること、さらに爆発力の乏しさを考えれば、次代の備えは現実的に準備しなければならない段階だ。松坂は次代の外野手候補の中では高山と同じ右の長距離砲のテコ入れを狙った指名。外野守備で魅せる身体能力も高く、センターが固定されないチーム事情からもチャンスは意外に早くやってくるかもしれない。 伊東がいよいよ現役引退したが、正捕手争いは依然として混沌としている。若さと伸び代では細川に分があり、安定度では野田に一日の長があるが、伊東の神通力の影響かどちらもレギュラーと言うには不安の方が大きく横一線。馬力型のパワー系捕手・佐藤の指名は、2人と違うタイプだけに正捕手争いを引っ掻きまわす可能性もあるが、投手陣の為には細川か野田か、早いうちに固定したいところ。 投手は現状で欲しいところを抑え、野手はトータルなバランスを重視したという印象の西武。伊東新監督にとっては難しい時期に初のドラフトを迎えた訳だが、若干大人しいかなという感覚もある。西武は松坂以降に超大物の獲得にあまり乗り気ではなく、全体的に満遍なく指名というドラフトを展開しているが、根本陸男氏がフロントにいた時代は大技・裏技駆使しての豪腕が持ち味だった筈。 プロで4番やエースを張れる大物は、毎年そう何人も出るものではないが、もっと強欲に選手を集めて黄金期を形成したのがかつての西武の強み。そのときの主力を揃って放出した過渡期を乗り越えた先に松井や西口、松坂がいたが、選手起用も含めて言葉は悪いが場当たり的な方針が目についてきた最近の西武。この難しい時代を乗り越えた先のビジョン、それは今年のドラフトでもまだ明確には見えてこない。
投打共に世代交代の機運に乗じて圧倒的な戦力層を形成、日本一まで上り詰めた今年のダイエーは強かった。そんなシーズンオフを襲った激震が二つ。オープン戦で負った大怪我が原因でシーズンを棒に振った主砲小久保は巨人へ無償トレードされ、復活したリードオフマン村松はFAでオリックスに移籍することが事実上決まった。 転換期を見事に乗り越えて強くなったダイエーだが、その途端に新たな転換期が訪れたのは誤算といえば誤算だろう。だが、裏を返せばここを乗り切ればダイエーの黄金期は現実的なものになる。それだけに、今年のドラフトの持つ意味は後々になってかなり大きく出てくるのではないだろうか。 急速に世代交代を推し進めた先発投手陣は、日本シリーズでも阪神打線を手玉に取ったように12球団トップの布陣。チームの貯金の半分以上を1人で稼いだ20勝エース斉藤を筆頭に、アテネ五輪予選でも好投した14勝の和田、日本シリーズMVPで10勝の杉内が絶対的な三本柱を形成。故障離脱さえなければ新垣も新人王を争う活躍を見せ、2年目の寺原も7勝。この5人の平均年齢(来年時)が23.8歳だから、この圧倒的な布陣で向こう10年は任せられるのは他球団にとって脅威そのもの。 実績組の田之上・星野・永井がこの座を奪い返すのは容易ではなく、若い小椋や神内、伸び悩む山田に水田が余剰戦力になりうる先発層の分厚さ。そこに自由枠で加わる大学球界屈指の本格派右腕・馬原にとっても、先発の座は用意されたものではない。若返りを進める意図、地元九州出身、そしてポジションに関わらずいい選手を獲るというダイエーお得意の人選だが、これ以上いるのか?という疑問も正直ある。余剰気味の先発候補をトレード要員にする、という腹づもりもあるかもしれない。 余り気味の先発陣が兼備する中継ぎ陣は、ダイエー唯一の弱点箇所。日本シリーズでは岡本が獅子奮迅の活躍を見せたが、左の篠原と共にムラっ気が強く、1年を通して信頼するには危ないタイプ。佐藤が安定した活躍を見せたのは好材料だが、吉田・渡辺というベテラン左腕の衰えが顕著になり、スクルメタで失敗したクローザーも1年間固定できなかった。三瀬と竹岡は中継ぎ強化の意図がはっきりした指名だが、岡本や篠原まで崩れた場合、もしかしたら新垣や馬原にクローザーのお鉢が回ってくるかも。年齢的なものを考えれば、麻生徹(旭川大)、高宮和也(徳山大)辺りの即戦力左腕はもう1人指名してもよかったかもしれない。仁部智(TDK→広島5巡目)辺りが取れれば言うことなかったのだが。 小久保を欠きながら井口・松中・城島・バルデスで100打点カルテットを形成、そこに川崎の台頭でスピード感が一層増した打線から、来年は村松が抜ける。井口に残留の目が強くなったのは安心材料に間違いないが、レギュラーと控えの層に完全な隔たりがあるのは現実的な不安要素。鉄壁の布陣だがそれだけに控えに経験と安心感がない、という状況は数年前からのヤクルトと状況がよく似ている。 村松の穴を埋めるセンターには高橋・荒金・出口と候補がいるが、内野はポスト小久保と言われた吉本がなかなか芽を吹かず、鳥越と井口のどちらかが欠けた場合の内野の手当ては万全ではない。4巡〜6巡で高校生内野手を3人指名し、33と言う鳥越の年齢や井口のFA権獲得の年数を考えればいいタイミングだが、すぐ手当てができる即戦力内野手の指名も1人はあっていい。地元九州の池田隼人(日産自動車九州)、甲斐俊治(九州共立大)の指名は狙い目だったかも。 外野手の指名は2巡目の城所だけだが、村松が抜けても年齢的に充実期に近い外野陣なので、城所にとってはいいチャンス。ただ、吉本を獲得して以来、ダイエーは大物打ちの高校生に向かっていない点が気になる。城所はイメージがイチロー(マリナーズ)にかぶる中長距離系。吉良俊則(柳ヶ浦→近鉄2巡目)をさらわれたのは確かに痛いが、永田雄二郎(波佐見)、小島昌也(自由ヶ丘→オリックス7巡目)、松山竜介(鹿屋中央)など、九州だけ見てもズラリの超長距離砲タイプにはそろそろ向かっておきたかった。 上位で逸材のビッグネームを獲り、下位で弱点ポイントを補強しようという戦術は今年も健在。その中で世代とポジションのバランスを取ろうという意思が、今年は例年よりも強かった感がある。ソツのない指名ではあると思うが、バランスに執着するなら小久保と村松の抜けた“現時点の応急処置”があっても面白かった気がする。ただ、4巡目〜6巡目で見せた徹底的な高校生野手路線は、ダイエーが世代交代をほぼ完了して安定期に入りつつある兆候。そう考えれば、意欲的な指名と言うこともできるか。
日本一から僅か一週間後の衝撃。3日、ダイエーが小久保裕紀の巨人への無償トレードによる移籍を発表した。小久保は昨年までのダイエーの4番打者で、95年に本塁打王、97年に打点王を獲得した強打者。今年はオープン戦で右ヒザに重傷を負い試合出場がなかったが、00年から3年間選手会長を務め、戦力的・精神的にダイエーの柱。 詳細は一般の報道でも伝えられているが、どこをどう見ても不可解な電撃移籍であるという以外に、言い様が見つからない。 ダイエー本社の経営事情に伴い高額年俸選手を抱えきれなくなった、ということが理由の一つとして推測されているが、ファンにとってダイエー球団とダイエー本社の事情がリンクするかどうかは問題ではないだろうと思われる。ファン不在の球界構造が浮き彫りになった事例と言うことはできるだろう。 小久保と球団フロントには、数年前から確執があったと伝えられている。見返りのない無償放出という形になっても、小久保の2億円近い年俸を浮かせることができれば、うるさ型の小久保を“排除”しつつ一石二鳥、という見方もある。加えて今年の日本一で主力選手の大幅年俸アップは避けられない状況。 小久保がチームを去るという理由付けは色々と推測できるが、その件について中内正オーナーから明確な説明はなかった。 FA権を行使する見込みの村松有人。ポスティングシステムでの大リーグ移籍を希望する井口資仁。そして今回の小久保の移籍に伴い、日本一の祝賀会場で「来年は小久保さんと一緒にもう一度優勝しよう」と叫んだ現選手会長の松中信彦は、「僕らも同じ目に遭うということ。この球団は勝ちたくないとしか思えない。連覇の意欲が急激に薄れている」と、球団の在り様を痛烈に批判した。 300万人を越す観客動員を誇るパ・リーグ最大の人気球団から、選手からの求心力が失われているような印象を受ける。小久保は会見の席で「経営者の意見と選手の意見が交わることはないし、期待もしていない」と吐き捨てたという。企業の事情で放出された小久保が、逆にダイエーに三行半を突き付けた格好だが、逆指名で入団し4番を務めてきた選手会長とその球団のやりとりにしては、後味の悪さしか残らない顛末に見える。 移籍先が巨人になった理由は、小久保ほどの年俸の選手を無条件で受け入れられる球団が巨人以外になかった、というところが本音だろう。10月31日に福岡で行われたオーナー会議の場で、中内オーナーが巨人の渡邊恒雄オーナーに話を持ち込み了承を得たという。あまりにも急な話だったようだが、一つだけ言えることは、このトレードに絡んだ人間の中で小久保裕紀という選手のことを真摯に考えた人間は一人もいなかったのではないか、ということだ。 近鉄のタフィ・ローズ、西武の松井稼頭央の獲得をも目論んでいる巨人に戦力が集中する、という毎度恒例の批判はひとまず置いておく。こういう移籍劇がまかり通るようになれば、これは本社に経営問題を抱えるダイエーだけの問題では済まなくなる。 高年俸だから抱えきれなくなり放出対象になる……ということはJリーグで見られた現象だが、この現象がプロ野球でも“悪しき前例”となれば、一流選手ほど放出の危機に晒されるという、プロスポーツとして極めてイビツな構造が顕在化することになる。 選手の価値を高めるのは選手自身の力量だが、それは自身を、言葉は悪いが“商品”として売り込む自由が保証されてこそのもの。FA権の存在する意味とは、本来そういうものだった筈だ。今回の件は、FA権の存在意義すら危うくさせるものと言っていいだろう。 恐らく小久保に選択肢はなかった筈だ。球団は小久保のはっきりした物言いと高年俸が邪魔になり、その高年俸を右から左に動かせる球団の最右翼が巨人。小久保も恐らくダイエー球団に見切りをつけていた。となれば、移籍先は事前に無償トレードを了承した巨人以外になくなる。 小久保の「この1、2年、環境を変えたい気持ちははずっとあった。ダイエーを出るならいましかないと思った」というコメントを額面通りに受け取れば、小久保と球団の利害が一致した結果とも見ることができる。しかし、小久保のモチベーションの低下を招いたものがネガティブな理由によるものならば、それはやはりネガティブな移籍劇としか思えなくなる。 ネガティブな移籍がポジティブな循環を生む道理はない。巨人の堀内監督は、小久保と江藤智を三塁手で競わせる意向らしいが、小久保の加入が近年不振の江藤に発破をかけることになっても、どちらかがベンチに座るという事実は恐らく動かない。年俸2億円を越す超大物選手が、ケガでもなくベンチに座るということを良しとする環境は、それが小久保にしても江藤にしても野球界にとって大きな損失になる筈だ。 江藤が玉突きトレードで放出される、という話が昨年から随分と出ていた。しかし近年の江藤の成績を見て、2億円以上の年俸を払ってでも獲得したいという意思と資金力のある球団は、果たしてあるのだろうか。そうなると江藤は自由契約、自分で自分の価値を落とし、プロ野球選手としてのレゾンデートルを自分で貶めない限り、プロ野球選手の道が閉ざされるということになる。 無節操な選手の獲得が、他の選手を理不尽に不幸にする。それはその選手自身はもちろん、ファンにとっても不幸な損失だ。「ネガティブな移籍がポジティブな循環を生む道理はない」とは、そういうことである。 これをセ・リーグ優勝の阪神に当てはめると、片岡篤史とジョージ・アリアスが危ないという仮説も成立する。 今年のドラフトで阪神は、“東京六大学最高のショート”と言われている早稲田大の鳥谷敬を自由枠で獲得する見込みだが、それに伴いショートの藤本敦志をセカンドに、今年首位打者の今岡誠をサードに回す案が浮上しているという。濱中おさむの復帰を前提に考えれば、ファーストにはアリアス、片岡、そして選手会長の桧山進次郎の3人が集中することになる。この中で最も年俸が安い選手会長の桧山に優先度があるとすれば、アリアスと片岡は守る位置がない。 アリアスは帰国前のコメントで年俸面での徹底抗戦をほのめかし、片岡も今年の復調があったとは言え、年齢的にも年俸面でも費用対効果の点で球団の心象は100%ではない。そして今年は、優勝フィーバーで主力選手の年俸の高騰が避けられない展開。費用を浮かせる為に、アリアスか片岡のどちらか、あるいは両者が放出される可能性が浮上する。 荒唐無稽な話かもしれないが、小久保の放出が“悪しき前例”になるということは、戦力になるだけの実力を持った選手が、球団と親会社の事情で半強制的に戦力外にされる可能性の怖さを示している。そして、その選手を受け入れる可能性のある球団は、この国では極めて限られた状況。資金力の絶望的な格差と各球団首脳の節操の無さが一流選手をベンチに偏在させ、さらに球界の体力を落としていくという悪循環は、まさしく日本球界をデフレの泥沼に叩き込む核爆弾。 大リーグでは高年俸を嫌って主力選手を放出ということも頻繁にあるが、球団の数と選手の底辺層に差がある日本では、その弊害は大リーグよりも遥かに大きい。そしてこの数年の日本球界では、戦力補強に資金を費やせる球団が覇権を握るという傾向が如実に出てきている。 今回の小久保の移籍劇は、“悪しき前例”としての爆弾を球界に何個も落とすことになる。その爆弾は、すでに何個か破裂していると言ってもいい状況だ。 滞空時間の長い小久保のホームランは、福岡のファンに愛された。福岡の球団を逆指名し、福岡に愛され、選手からも信頼された不動の4番が、そこにいない。結局最後に泣かされるのは、親会社に振り回される現場と不在者扱いされているファンという、哀しい現実がそこにある。
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