小説集
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2006年11月20日(月) : 7指切り
 

デイヴィッド・ボーマン

指きりげんま 嘘ついたら針千本の〜ます

約束…した事もなかった。
いるのが当たり前だと思っていた。
いなくなってから気付く
離れてしまってから 相手の体温がどんなに温かいものだったのか、ふと寂しさが胸を突く。

指切りしたら何を望んだだろう。
永遠に一緒にいることだろうか。
相手は何を望むのだろうか…。

もう、永遠に指切りをする事は出来なくなった。
生きる時間が違う。
もう、一緒にはいられない。

相手の体温を思い眠りにつく。

指きりげんま 嘘ついたら針千本の〜ます

指きりは出来ない。
もう、
永遠に…



2006年11月14日(火) : 25曇り空
 

空は翳っている。
戦場にはぴったりの天気じゃないか。
生と死の狭間、終わりゆく命と生き延びた命。

雨は死者の涙
晴れは生き延びた者たちの喜び
曇りは…

曇り空はその狭間

死者と生者の共演

そう、戦場は曇り空がよく似合う



2006年11月12日(日) : 14冷えていく
 

身も心も…

短命種と長命種
人間と吸血鬼

何が違うのか

もう同じではいられない


冷えていく
いや、忘れようと必死になっているのか

同じ時間を辿らない
忘れてしまえば辛くもない
凍結してしまえばいい
冷えていく
いや、忘れられはしないだろう

最後の時までしつこく思い出すだろう
凍結された時間を…



2006年11月09日(木) : 12掻き抱く
 

「も、」
自分の下で喘ぐデイブにやさしく微笑む。
「も 何?」
答えられないのを知っていて問う。
ふるふると首を振られ相手が限界なのを知る。
伸ばされた手が自分の体を掻き抱く。
「いいよ」
そのままフランクはデイブへと体を進め高みへと登らせていく。



2006年11月08日(水) : 26背負われた背の温かさ
 

アルフレッド・ミラー

「大丈夫か?」

誰だ…
体中が痛い。

「大丈夫か?」

ああ、父親の声か…
答えたくとも声が出なかった。必要以上に摂取したモルヒネのせいと、撃たれた傷でだろう。モルヒネが回っている体なのに痛むとは、そうとうやられたに違いない。
でも、そんな事で父親が自分を心配するなど考えてもいなかった。
「さぁ帰ろう。もう十分だ」
敵は駆逐されたのだろう。
俺の仕事は終わった。後は処理班に任せればいい。

ハインツはアルフレッドをふわりと抱き起こすと背に背負う。
「…汚れる」
「戦闘服だ。構わない。」
そういえば、珍しく父親までもが戦闘服姿だった。…ユリウスも。
それだけ大規模な作戦だったと言うのか。なのに、何故 吸血鬼でもない俺が借り出されたのだろう。考えても仕方がないか。
「……今回はお前には関わらせたくなかったんだよ。
 だが、陛下の命令だった。すまない。」
ハインツが自分の事を考えてくれているとは正直驚きだった。
自分など いらない存在だと思っていた。だが、ハインツはそうは思っていないようだ。俺はいらないんだと固執していたのか…
ハインツは違うのか…

背負われた背は広く温かかった。

今日だけは素直に父親の温かさを受け入れられる。

温かい。



2006年11月07日(火) : 17曲り角に消ゆ
 

アルフレッド・ミラー

その男は もう 前のディビッド・ボーマンではなかった。
いや、完全体になったわけではない。
まだ半人間半吸血鬼の不完全なデイブだった。

腕の中で眠るフランクを手渡してくる。
何も言えない。
デイブの考えていることは痛いほどわかる。
同じ人体模型(システム・スタッフ)、
共に戦い一時を一緒に過ごした相手だ。
何も言わない。
差し出されたフランクを受け取る。
デイブはくるりと向きを変えると暗闇の中へと姿を消していく。

もう二度と会えないだろう。
そんな予感がする。
もう二度と…



2006年11月06日(月) : 4昔噺ばかりして
 

フランク・ミラー

♪時には 昔の 話を しようか……

懐かしいメロディーがラジオから流れてくる。
隣には寝そべりながら煙草を銜える大事なデイブ…。
いつもは無口な男にはにあわず、酔ってもいないのに饒舌になっている。
戦闘のせいだろうか。
戦闘興奮状態…いや、疲れすぎただけだろう。
戦闘興奮、そんなものはとっくの昔に失くしている。

「   は アルしか人間としての生き方を知らないんだ。
 だから
            フランクだから…
       生きたい。でも生きるがわからない。
 俺はなんなんだろう…生きてるんだろうか。フランク
  俺は…」

フランクが相槌をうちもしないのに、いつもは何を聞いてもしゃべらない男がべらべらと しかも自分の過去を話している。

デイブの手から煙草を奪い取り、一口 煙を吸い込み灰皿でもみ消してしまう。
ラッキー・ストライク
アルフレッドの生き方しか知らないデイブがアルフレッドを真似して吸い始めた煙草。
ゆっくりと煙を吐き出すと、デイブの腕を取りからだの下に組み敷く。
「どうしたんだ 昔噺ばかりして
 もうすぐ死んでしまうのか?」
どうも、そんな気がするのだ。
俺に吐き出すのは 別れの時が近づいてきているからなのか、それとも生きていることへの懺悔なのか。
「生きている」のだろうか?
いや、「生きている」。
「昔噺?」
簡単に、フランクの体をどけてしまうと、今度は起き上がって新しい煙草を取り出し口に銜えた。フランクは俺にも1本よこせとジェスチャーし、デイブの手の中で燃えるオイル・ライターから火をつけた。

沈黙

普段のそれが、饒舌だったデイブはその沈黙すらぎこちないものにしている。
「 …普段は喋るのですら億劫だってなのにさ
 どうしたのさ?」
「さぁ?」
ああ、いつものデイブだ さらりとこちらの問いかけをすり抜けていく。
「じゃぁ 俺も話すよ?」
無言の答え。
デイブが何かに興味を持つことは珍しい。今の自分の問いもデイブの興味を引かなかった。
煙草が焼ける音だけが部屋を支配する。



「そんなに珍しかったか?」
事が終わって、まだ荒い息をするデイブが唐突に質問してきた。
「へ?」
一瞬、何の事かわからずに間抜けた返事をしてしまう。
もう、デイブは興味を失ったらしく目を閉じてしまった。
でも答える。
「うん…デイブが昔噺をするなんて
 …明日は雨かな?」



2006年11月03日(金) : 15懇願
 

フランク・ミラー

「連れて行ってくれ」
そういう前にあいつは俺の思考を閉じた。
意識遠のく前、あいつからの最初で最後の接吻。

「連れて行ってくれ」
あいつはすりとかわす。
俺の踏み込める問題ではない。
わかっている。でも
それでも懇願してしまう。

あいつが俺の意識を閉じなかったのなら無理にでもついて行っただろう。
それは望まれない事。
もう、終わった事だ。
でも、懇願ぐらいさせてくれればよかったのに…
何も言えず、あいつは………

懇願する前に終わってしまった。
だが、懇願すれば後悔もしただろう。
あいつは連れて行ってはくれない。
お願いだから…もう…終わった事だ。

「連れて行ってくれ」
届かない懇願。



2006年11月02日(木) : 28沈むくれなゐ
 

沈む

俺たちが一緒にいられる最後の時間…
置いてゆくしかない。
絶対許してはくれないだろうから、
だから、
眠らせた。
眠りに落ちる瞬間、最初で最後の 自分からの口付け。

遠き山に日は落ちて

夜が来る。
化物が起き出す時間。
人間の世界が眠りにつく時間。
沈むくれなゐは これから起こる血ドロみれの戦いを物語っている。
あいつには見せたくない。
俺にとって大事なあいつには…
今、自分の腕の中で眠るあいつには……

人間だった自分を振り切って化物として戦いにのぞむ
人間だった心を捨て
大事なあいつも捨てるしかない。

せめて 日が落ちるまで一緒にいさせてください。



2006年11月01日(水) : 11雨
 

雨は全てを洗い流してくれる。
雨は古傷を痛ませる。

どちらだろう

古傷を痛ませる方か…

雨は
捨ててしまわなければいけなかった過去を膿ませ痛みをぶり返させる。
雨は懺悔の涙なのか…




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