2004年05月07日(金)/すてきなはな木。/モゴール族探検記+回想のモンゴル |
本日は読書感想文です。
「モゴール族探検記 梅棹忠夫著 岩波新書」
アフガニスタン奥地にはモンゴル帝国の末裔らしき人々が存在し、モゴール語を話しているというので、筆者梅棹氏を含む探検隊が調査に赴き、ついにモゴール族の人々と会いその言語を調査するに至った、その探検の記録です。 調査探検の記録ということで書かれたこの本ですが、決して堅苦しい内容ではありません。モゴールの村の親切なムラー・アブドル・ラーマン、何故かそれに対立的な態度をとるグル・アーマッド・ハーン、お洒落なゾバイル僧正、賢い通訳のアーマッド・アリなどが、突如やって来た日本人の学者たちを迎え入れ、それぞれの思惑を持ちながら行動する様子や、村を取り巻く状況の数々が、平易でありながら優しくも深い文章で生き生きと描かれており、とても楽しく読めるのです。 1956年初版から版を重ねまくり、私の手元にある本は実に2002年第35刷発行という、もはや古典に列せられそうな感じの再販状況も驚きです。調査隊は1955年に現地に赴いたということで、つまりは現在からほぼ50年前の、しかもアフガニスタン奥地の地図にも載っていなかったような場所の、我々とは宗教も生活環境も全く異なる人々が生きている様子がまさしく手に取るように具体的に書かれてあって、今こうして自分がそれを読めるということには軽い興奮すら覚えますね。名著。
さて、この本は内容もとても面白く胸熱くさせるものだったのですが、それとはちょっと違った意味で各段落の見出しには見るべきものがありました。以下に、印象的なものを挙げてみます。
「おもしろい、やって見よう」 「これでも女にはちがいない」 「山崎さんの居残り」 「あいつはひどい悪人だ」 「日本人への内緒ごと」
もう万事こんな調子ですよ。何やらむしょうになごむんですが…。 疲れているんでしょうか私。
目次では、そんな素晴らしい見出し群を一望の下に見渡せるので、ちょっと圧巻というか思わず笑顔になります。癒えること請け合いなので、最近少し疲れを感じていたり、気分が沈みがちな方などは、本屋にお立ち寄りの際にこの本の目次だけでも眺めてみることをお勧めします。ああもう見出し全部列挙したいよ。どいつもこいつも逸品ですよ。
他にも、写真に付されているコメントに「花むこさんは40すぎ。上から下まで衣装を着かえる」などとあって、読む者を必要以上にリラックスさせます。「花むこ」さんが「着かえ」るのですね。そうですか。でも、「内緒」は漢字で書くのですね。使い分けの基準が私にはわからない。でもやたらに可愛らしい。指輪物語を翻訳した瀬田氏も、ホビットの冒険では、ビルボに「すてきな朝ごはん」を食べさせていましたが、こうした一昔前の方のひらがな使いは実に味わい深く、心和ませるものがありますなあ。今の時代の人間が、このひらがな使いをものにしたくともなかなかできるものではなさそうです。
梅棹氏の他の著作に、「回想のモンゴル」という本があるのですが、その本の中にも「ラクダのはな木」などという表題の文章があり、これにも弛緩した次第です。はな=鼻ですが、ひらがなが効きすぎていて最初は何のことやら分からなかったくらいです。はな木…。なごむよ。なんでも、モンゴルのラクダはみんな「はな木」がつけられているそうです。これは、ラクダの鼻の下部分に木を通してあるもので、ラクダに言うことを聞かせる時にはそれを引っ張ればよいそうです。で、その言うことを聞かす「はな木」の形がモンゴルの各地によって異なっているのはどうしてかと思って文章を書いたそうです。……嗚呼…!(感無量)
とかくスピードがあるものがもてはやされがちな昨今ではありますが、たまにはこういったのんびりした文体に触れ、まったり心を思い出したいものです。私が朝会社に行く時、「食べてる間があるなら睡眠だ。朝飯など要らぬ!」などとギスギスしている一方、この人たちは「すてきな朝ごはん」だったり「はな木」だったり「あいつはひどい悪人だ」ったりするんだもんなあ…。
文献紹介:
モゴール族探検記 良い顔をしたモゴール族の人の写真も沢山載っており、これまた一見の価値があります。約50年前のアフガニスタン内部を実際に見聞して著された書物なので、いまや史料的価値も出てきているのではないでしょうか。
回想のモンゴル 絵も上手な梅棹氏のモンゴル生活用具絵が沢山載せられていたりもするので、古本屋や図書館等で見かけた際には是非ご覧になってみてください。文体はまったりのんびり系ですが、そこからのぞく氏の熱い学者魂には頭が下がります。手軽に読める上、内容も濃いのでおすすめです。
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本日も私信です。
そういえば、私が普段利用しているバスは宣伝メッセージが流れないなあ。昔はあったんですけどいつしかなくなっていましたよ。日頃わりと耳にすることはあっても意味を知らぬままの単語というのは誰しも一つや二つあるものですね。「ベルジュバンス」なる単語は初耳ですが、専門店と後ろにつくからには、 ・専門を謳うことができる程度の規模を持つ若しくは種類がある。 ・商品として扱うことのできる品物かサービスである。 という2点は確実に言えそうですね。こうなったら仕方ないので(何が)、真実が明らかになるまでは自分で設定を考えてみてはいかがでしょう。
響きから推察するにファッション系の匂いがしますが、ここはひとつ意表をついて金属の名前だったりするのはどうでしょう。ミスリルとかオリハルコンみたいな。我々が名前を知らなかったことからもわかるように、一般には認知されていない希少な金属であり、その品質により4段階の階級が存在するのです。特に上質のものは貴ベルジュバンスとして珍重されており、年々その産出量が減少しているのが目下問題となっています。 そんな中、件の専門店は貴ベルジュバンスのみを扱うこだわりの店で、その世界では老舗として名高く、国内外から上質のベルジュバンスを求める人が続々とつめかけます。加工品のみでなく原石の取引も可能。失われゆく貴重な金属を巡る人間たちの喜びや悲しみ。そんな人間たちのドラマを何十年も静かに見続けてきた専門店主の澄んだ瞳…。 ある日、一人の男が専門店のドアを明けた。長年風雪にさらされたものなのか、彼のかつて持っていたであろう色彩のすべては失われつつあるように見える。その色褪せた男が卓上に置いた袋の中を見るや、いつもは穏やかな店主の瞳は異様な光を帯びた。男と店主の関係とは――? そして、今日もその専門店最寄のバス停を通過するバスに乗ったハリーさんとは何か関係が――?
よくわからないけどなんかすごいことになってきましたよ。つうか支離滅裂だよ。なにはともあれ、他人事ながら、ベルジュバンスの今後の発展をお祈りしています。
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2004年05月05日(水)/城が傾くあばれアイ。 |
以下、何の脈絡もなく私信です。
初めて「うすらセレブ」についての話をうかがった時にも衝撃を受け、たいへんな脱力感と共に明るい諦念といったようなものが心にきざしたものでしたが、あらためて文字列にしてみてもやはり格別な表現ですなあ。 セレブリティというのは、そもそも「名士」とかいった意味合いの言葉のようですが、日本のメディアにおける「セレブ」は、「名士」や「上流」の内実はどうあれ、とりあえずの「上流っぽさ」に対する羨望の気持ちの含まれた言葉として、大方はセレブリティでない側によって用いられている気がします。人の価値観をどうこう言うつもりはありませんが、こういう言葉が臆面も無く使用されているのを見ると、どうにも気恥ずかしくなってきます。それだけならまだしも、あまつさえ「セレブ」などと乱暴に省略されており、言葉というものを軽んじる態度が滲み出てくるようです(言いすぎ)。どうせ略語化が不可避なら、いっそ「ブリティ」とか略する心意気を見せて欲しいものですね。(その場合、「ティ」部にアクセントをつけて発音すべし) あのコピーは、いくら仕事の為とはいえ、そんなお軽〜い言葉を使用せねばならぬことに苦々しさを感じている作者が、そんな己を揶揄するかのように「うすら」という言葉を語頭に持ってくることにより、本来ポジティブな表現をせねばならないファッション誌のコピーでありながら、うすらネガティブな印象を与えることに見事に成功しています。もはや商品をお勧めしたいんだかしたくないんだか分からぬ投げやり感すら漂っており、見る者の心に訴えかけてくるようであります。コピー考える人も苦労しているんですね…。こんなコピーをつけられてしまったトレンチコートには気の毒なことでしたが、実にグッときますな。コピーライターの人に強引に共感したりして、書いているうちに自分でもよく分からなくなりましたが、とにかく本当に素晴らしい。
試みに、私もファッション誌のコピーめいたものをいくつか考えてみました。
汝を如何せん! 虞美人気取りの傾国メイク
決め手は眉顰めテクにあった。簡単うすら西施作戦
一騎当千アイテムと殺伐アクセ使いで 夏の天下取りは完璧!
駄目だ。「うすら」を使ってみたところで、到底あれに匹敵する破壊力を持つには至りませんよ…。それどころか、だんだん檄文みたいになってきた。所詮は付け焼刃ということですか。というか、まずは中国史から離れてみるのが私の今後の課題か。とにかく悔しい。かのコピーを考えた人の迸るような才能が超妬ましいです。
一応参考: 虞美人 西施 完璧(頁内上から二項目参照)
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