水野の図書室
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皆さま体調に気を付けて今日も良い一日でありますように。
堀晃『宇宙縫合』には、宇宙船もロボットもでてきません。 それでも宇宙を感じる不思議な世界で、ミステリアスな魅力があります。
それは、とても刺激的。 激しいというのではなく、最初から最後まで淡々と静かに進みます。 主人公が冷静なのが、良いですね。
SF小説のドキドキ・ワクワクに浸りました。
2016年03月24日(木) |
新井素子『あの懐かしい蝉の声は』 |
時代は22世紀。 人々は五感──つまり、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のことね。 それらに加えて、第六感を持っている。 第六感というのは、ネットに接続できる感覚。 パソコンを起動しなくても、無線LANから齎(もたら)される情報を取得できるという、想像しただけで疲れそうな感覚です。
そして、22世紀では、第六感を持っていない人は障がい者であり、主人公は第六感を持つための手術を受けるのですが……。
新井素子『あの懐かしい蝉の声は』は、「SF JACK」(角川文庫)の中で一番読みやすく、わかりやすい作品でした。
ただ、なんとなく違和感があるんです。 22世紀のはずなのに、ニュースラインが今の時代と大差なく、夢がない。 平成どころか、昭和のかほりな近未来です。
2016年03月23日(水) |
山本弘『リアリストたち』 |
180年後の日本。 人口減少が進み、人口1,200万人になった日本には、「ノーマル」と「リアリスト」がいます。 バーチャルの毎日を過ごすノーマルと、リアルな暮らしを守るリアリスト。 今でも、買い物はネット派と、昔ながらの商店街に足を運ぶ人たちがいますから、山本弘『リアリストたち』の世界は容易に想像できます。
そこで、ふと気になるのは、ノーマルとリアリストのお話しなのに、なぜ、タイトルが『リアリストたち』なのでしょう?
仮想空間で育成するバーチャル・ベビーに人権が認められる世の中になっても、バーチャルでは、子どもを育てる喜びは持てないと思います。 子育ての面倒な部分をすべて排除して、バーチャルで成長を見守るだけなら、飽きてしまうのでは?
バーチャルは気楽で、リアルの辛いことから目を背けることができます。 ですが、誰もがわかっているんです。 リアルあってこそのバーチャルだと。
2016年03月22日(火) |
小林泰三『草食の楽園』 |
人々が互いに助け合い、犯罪や戦争がない世界は、どこかにあるのだろうか。 昔に比べて、暮らしは便利になったけれど、人は賢くなったのか? 未来は平和だろうか?
以前、クリスチャンの知人に、「信仰を持つ人は皆、慈悲深く、他人を羨んだりしないのでしょうね。」と言ったところ、 「いいえ、他人を妬むこともあります。人間だから。」 と、すぐに返されたことを思い出します。
小林泰三『草食の楽園』は、「SF JACK」の中でも、人の根源的な部分に目を向ける作品。 スッと読んだあと、そう、読み終えてから、味わい深い。
2016年03月17日(木) |
山田正紀『別の世界は可能かもしれない』 |
「SF JACK」に予想通り、遺伝子操作されたマウスが登場しました。 山田正紀『別の世界は可能かもしれない』
──知性を高められたマウスの名前はジェリー。 ジェリーと心を通わせる少女は五木梨花。
うーん、ここはシンプルに、ジェリーと梨花だけのお話にしてほしかったような気がします。
どんどん迷路を突き進んでいく感じですよ。
2016年03月12日(土) |
今野敏『チャンナン』 |
今野敏『チャンナン』は、タイムスリップと沖縄空手のお話し。 実は、沖縄空手のことはあまりわからない。 というか、空手自体全く知らないし、空手の型を活字で見るのも初めてです。 いまいち、ピンとこないのは、空手だからかもしれません。
空手に限らず、何事も現在の形に落ち着くまで、いろんな人が関わってきたんですよね。 そんなことを、ふと考えると面白くなってきますが。。
主人公が魅力的じゃないのが、残念。 タイムスリップする人は、もっとカッコよく描いてほしい。 時空を超えるんですから。
2016年03月09日(水) |
上田早夕里『楽園(パラディスス)』 |
「SFJACK」(角川文庫)は、11名の作家によるSF短編集です。 11作品の中でも、『楽園(パラディスス)』は読みやすく、せつなさを残しました。
メモリアル・アバター。それは、家族や友人を失った人間が悲しみを癒すために使う精神ケア・アプリ。 亡くなった人がSNSの日記やメールなどに残したライフログから対話型の仮想人格を作り出す、というもの。 メモリアル・アバターを使えば、もう会えない人と話ができる。 近いうちに、実現するのではと思う。 けれど、アバター相手では、虚しくないかなとも思う。 本当の気持ちって、他人には話さないのではないかしら。 日記に書くのは、読まれることを意識しての文章だと思うのです。
死んでしまった人と思い出話はできても、一緒に新しい思い出を作ることはできないんですよね。
2016年03月04日(金) |
吉川良太郎『黒猫ラ・モールの歴史観と意見』 |
「SF JACK」(角川文庫)のカバー帯に「もう一つの世界を、体験しよう!」とあるように、SFの楽しさは非日常の世界に一瞬で行けること。 まあ、ジャンルを問わず、小説はどれも、本の中は別の世界だったり、別の人生だったりするわけですが、SFは特別。ここではないどこかへ誘(いざな)われます。それは、決して見ることのできない未来。テクノロジーとサイエンスが切り拓いていく明るい未来……というのが、私のSFイメージなのだと気づきました。
吉川良太郎『黒猫ラ・モールの歴史観と意見』は、どんどん息苦しくなっていきます。記憶を呑み込んだ「吾輩」がこのあとどうなるか、あまり知りたくないような。 いろんなSFがあるんですよね。
最近、SFから離れていたせいか、想像の世界が狭くなっていたことを反省。
やはり、本を読まなくちゃいけません。
「SF JACK」(角川文庫)は日本SF作家クラブ50周年記念出版、11名の作家による短編集。執筆陣は、冲方丁、吉田良太郎、上田早夕里、今野敏、山田正紀、小林泰三、山本弘、新井素子、堀晃、宮部みゆき、夢枕獏──豪華メンバーが1冊に集結。想像以上の世界が詰まっていました。
全11編を読んで、全体的に刺激的で良かったものの、私にとっては難解というか、読むのにパワーを要するものもありました。それが、最初の冲方丁『神星伝』。造語が多く、ついていくのが大変でした。壮大な世界なのに、心から楽しめないのは、もどかしいです。
「水野の図書室」、長いお休み中、それなりに人生経験を積んだはず、なのですが、気の利いたことは書けそうにありません。 挫けそうになりながらも、再びオープンです。
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